第14話 海難救助

「ねえ、ねえ、メアリィ。昨日の夜すごい風が吹いていて、窓ガラスがガタガタ鳴ってよく眠れなかったよ」


「バカね。嵐が来るだろうって昨日言ったじゃない。木の外窓を閉めなかったの」


 ユイトがお店に住み込むようになって1ヵ月。ひどい嵐がやって来た。王都の建物は石造りの頑丈な建物だから被害はなかったようだけど、海が荒れて輸送船が座礁したと連絡が入った。


「君達の何でも屋も、我らと一緒に救助に向かって欲しい」


 軍の方から、難破船の救助のため人出が欲しいと依頼が舞い込んできた。


「シンシア。夕方には港に向かって軍用列車が出るそうなの。私とユイトが行くわ」


「分かったわ。すぐに準備しましょう」


 装備や食料、医薬品も準備して万全の状態で出発しましょう。こういう緊急の救助に行くときは、軍の物資に頼らず自分達で活動できるようにしないといけない。


「キイエ様にも行ってもらいたいんだけど、港町分かるかしら」


「多分大丈夫だと思うよ。地図を貸してくれるかな、キイエに聞いてくるよ」


 まだ風が強いけど。キイエ様には私達とは別に飛んで行ってもらって、救助活動を手伝ってもらいたい。

バタバタと急いで準備をして、夕方の軍用列車に乗り込む事ができた。


「あっ、マルギルさんのお店にも声がかかったんですか」


 私が前に働かせてもらった何でも屋さんだ。


「おう、嬢ちゃんとこもかい。王都にある主だったところの何でも屋に招集が掛かったようだ」


 軍の兵隊さん達も沢山いるけど、物資はあまり積み込まれていない。本格的な救援はこの後になるんだろうな。

まずは動きの早い私達と、救助や応急治療を行う看護兵が港に向かうようだわ。


「座礁したのは、新大陸から帰って来た輸送船だそうだぞ」


 マルギルさんが私達に今の状況を話してくれた。月に1度、新大陸との間で運行している大型の輸送船が嵐によって座礁したそうだ。


 この大陸から遠く離れた新大陸。130年程前にドワーフ族のチセと言う名の冒険者が発見したその大陸は私達の住む大陸より大きく、知らない種族が住んでいたという。


 大陸を発見した冒険者はその種族達と友好関係を結び、祖国に戻り交易などにより莫大な利益を当時の共和国にもたらしたという。共和国の半分を併合した王国もそれに習い、新大陸の種族と友好的な交易をおこなっている。


「そんな大きな船だと、乗っている人も多いのでしょう」


「荷物を運ぶ船だからそれほど多くないそうだが、乗員を含め150人程乗っているだろうと言っていたぞ」


 あの嵐の中、港町に到着できず手前で座礁した大型船。その人々を救助するのが今回の依頼となる。


「ユイトは海で泳いだことはあるの」


「川遊びで泳いだことはあるけど、海に入ったことはないよ」


 私も少し泳げる程度で、海に入ったことはない。ボートか何かで運ぶんだろうか。


「まあ、俺達が直接海に入る事はないだろう。海の中の作業は海洋族の方でするらしい」


 そうよね。海の事は海洋族の人達が専門だ。王国と直接国交は無いけど、船を出すときやこんな緊急時には助けてくれる。

海の中を高速で泳いで、エラで呼吸ができる海洋族。その人達が助けてくれるなら大丈夫だろう。


 軍用列車は夜通し走り続け、翌日の朝には遭難場所の浜に到着することができた。嵐は通り過ぎたけどまだ雨も降っているし、海の波も荒れている。


「既に海洋族による救助が始まっているそうだ。俺達も早く浜辺に行って救助の手伝いをしよう」


 マルギルさんと一緒に浜辺に行くと沖合に大きな船が見えた。座礁と言ってたけど船体が二つに割れて、今にも沈みそうになっている。


「こりゃ、酷でぇな。船に乗っている奴はみんな海に投げ出されちまうぞ」


 あの状態だとすぐにでも救助しないと。でも全員の救助となると大変になるわね。まずは浜に板や小舟で運ばれてきた人を介抱して寝る場所を作らないと。軍が指示した場所の地面を平らにしてテントを張り、その中に怪我人を運び入れる。


 長く海に漂っていた人もいるみたいで、テント内を暖かくして毛布に包まって寝られるようにしていく。


「船が沈むぞ!」


 浜で大きな声がした。外に出てみると半分に割れていた船の前半分が、先端を高く持ち上げたまま海に沈んでいくのが見えた。後ろ半分はかろうじて残っているけど、船体は傾き今にも沈みそうだわ。


 こうなると海洋族も船に近づくことはできなくなる。周辺で漂流している人達を浜へと引き上げていくしかない。


 積み荷などと一緒に海に投げ出された人が多く、骨を折ったりしている人もいる。亡くなった者も多く、その身元を調査したりと兵士たちが忙しく動き回る。


「キイエ様。ありがとうございます」


 キイエ様も海に漂流している人達を浜へと運んでくれた。そして救助は次の日の朝まで続いた。


「嬢ちゃん、俺達は怪我人を乗せた列車で王都へ帰るそうだ。準備しておきな」


 大半の救助と応急処置は済んだようで、王都での本格的な治療のため列車に怪我人を乗せて運ぶそうだ。この後、船の内部調査や積み荷の引き上げなどを行うための部隊が列車で送られてくると言っている。


「私達の仕事はここまでね。ユイト、この列車に乗って帰るわよ」


「ちょっと待って。キイエがあの岬の向こうに、倒れている人がいるって言ってるんだ」


 漂流して浜に打ち上げられている人を上空から発見して、キイエ様が戻ってきたそうだ。


「あの岬までの道は無いぞ。迂回するにしても時間がかかるな」


 兵隊さんの責任者が地図を見ながら、どうするか考えている。


「それなら私達が行きます。キイエ様に乗せてもらえればあの先まで行けますので」


「この列車の後、王都まで帰る列車は当分ないぞ。それでもいいのか」


 次の列車で帰れるのは早くて4、5日後になるそうだ。


「漂流者を放っておけません。最悪キイエ様に乗って帰る事もできますので」


「そうか、それなら頼む。救助のための医療品などを用意しよう。少し待っていてくれ」


「メアリィ嬢ちゃんよ、すまないな。俺達は王都での仕事がまだあるんだ。先に帰らせてもらうよ」


「はい。怪我人もいますので、列車は早く王都に帰らないといけませんし。マルギルさん、このデンデン貝を私のお店に持って行ってくれませんか」


 シンシアにはこのデンデン貝で帰るのが遅くなると伝えよう。王都のお店はあの子に任せれば大丈夫だわ。

マルギルさんや怪我人達を乗せた軍用列車を見送り、私達は救助のための準備をする。

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