第13話 メアリィの休日
今日は週に1度のお休み。久しぶりにシンシアと街に出てお買い物をする。
「ねえ、この服カワイイと思わない」
「そうね、でも少し子供っぽくない? メアリィにはこっちの方が似合うと思うわ」
王都には服にしても食事できるお店にしても、バラエティー豊かな商店が並んでいる。地方都市からの流通も良く商業が盛んで、昔は貴族しか買えなかったような物も、普通に買えるようになった。
確かに他の町からすると物価が高くて住みにくいところもあるけど、得られる収入も多いからちゃんと真面目に働けば暮らしてゆける。
「王都に出て来て、本当に良かったわ」
「そうなの? 私はずっと王都に住んでいるから良く分からないけど、他の町ってそんなに違うの」
シンシアとテラスのカフェでお茶しながら話をする。
「そうね、こんなしゃれたお店はないわね。遊ぶところも少ないし仕事もありきたりのものしかなかったわね」
私の生まれたゲンマの町は人口が1万人程。まあまあの大きさだったけど、それでも王都の10分の1ぐらいしかない。
「私が王都に来てすぐに魔弾工場で働けたのには驚いたもの」
「まあね。アルバイトで働くんだったら、いくらでも仕事はあるものね」
「遊ぶところもいっぱいあるし。前に見に行った歌劇、あれはすごかったわ。あんなに綺麗な人達が広い舞台で歌って踊っていて、憧れちゃうわね」
「ああ、あの中央音楽堂でやっていた劇ね。あの人達、みんな女の人達なんでしょう」
「ええ、そうなのよ。あの男役の人かっこよかったわ」
こんな劇は、この王都でしか見れない。それこそ昔に貴族だけしか見ることができない様な劇だった。
「メアリィもかっこいいと思うわよ。耳がピンと立って、明るい黄色の長い髪と斑点のあるシッポもかっこいいわよ」
「まあ、ありがとう。でも私は金髪の方が良かったわ。目も黄色でシンシアみたいな綺麗な琥珀色じゃないし」
目も髪もなんだか単純な色だ。シンシアのような神秘的な目の色に憧れるわ。
「背は高い方よね。ユイト君と同じくらいあるでしょう」
「そうね、私の方がまだ高いぐらいかしら。あの子はまだ子供だからね」
16歳で成人して、今17歳だって言っていたわね。5歳も年下なんですもの。
「ユイト君は最近しっかりしてきたわよね。お仕事の方も上手くいってるんでしょう」
「最初に比べたらましなだけよ。今も一人じゃ小型の魔獣をまともに倒せないもの」
「そこはちゃんとメアリィが手取り足取り教えてあげないと。メアリィはいつもユイト君に付きっ切りなんだから」
「付きっ切りって言っても、それはお仕事なんだから。仕方ないでしょ」
シンシアは何か変な勘違いをしてるんじゃないでしょうね。
「それより、シンシア。あなた今度お見合いするんですって」
「ええ、そうなのよ。親がそろそろ結婚を考えなさいってうるさくて……」
シンシアは耳の長いウサギ族の美人さんだ。薄茶色の軽くカールのついた長い髪には、いつもカワイイ髪飾りを付けている。スタイルも良くて、私より大きな胸と細い腰、丸く小さなシッポはフカフカだ。
こんなお嬢さんタイプの美人を、世の中の男性が放っておく訳はないけど、今まで私と一緒にお店の立ち上げから手伝ってくれて、忙しい日々を送っている。
シンシアは結婚したら、お店を辞めるの? と言おうとしたけど引き留めているようでやめた。これまで手伝ってくれただけで十分だわ。寿退社でもいいじゃない、シンシアが幸せになるなら。
「お見合い、上手くいくといいね」
「私の事より、メアリィは自分の結婚の事を考えなさい。私と同い年でしょう」
私はまだまだお店の方を優先したい。結婚は全然考えていない。と言う前に男の人と付き合ったこともない。
最近はこの歳でも結婚していない人は多いから、慌てることはないわ。
あれ、通りの方がなんだか騒がしいわね。
「ドロボー!!」という声と共に向こうから鹿獣人の男が走ってきている。その向こうには女の人が道端に倒れているのが見えた。
「仕方ないわね」
私は、男が走っている目の前に氷の壁を出現させる。壁にぶつかり、手に持っていた女物の鞄と共に地面に転がって倒れた。その男は慌てて鞄を拾い上げ走って逃げようとしてるけど、そこにも氷の壁を作る。
「今日は休みだからいいけど、アイスシールドを2枚も作っちゃたじゃない」
私の魔力量だと、壁を後1枚作るのが1日の限界だ。私が男の前に立つと、男が殴りかかってきたのをサイドステップで躱すと同時に腕を取り、足を引っ掛けて投げ飛ばす。
男の腕を背中に曲げ地面に押さえつける。騒ぎを聞きつけた周りの男の人達も一緒になって取り押さえてくれた。
「ありがとうございました」
鞄をひったくられた、羊獣人の女の人も私の近くまで来てお礼を言う。大した怪我も無さそうね、良かったわ。誰かが衛兵署に連絡してくれたのだろう、衛兵達も駆けつけてきた。
「メアリィ、怪我はない? あまり無茶はしないでよね」
「大丈夫よ。ちゃんと捕縛術は習っているから」
何でも屋になるなら危険な事に対処できないといけないと、前に働いていた何でも屋さんで教えてもらった技だ。危険なのは魔獣だけじゃないもの。
王都は治安がいいけど、貧富の格差が大きいからか、こういう犯罪も多い。
「気分転換に公園の方にでも行きましょうか」
シンシアと一緒に中央広場に向かう。あそこは露店が多くて甘いお菓子も沢山売っていたはず。
やっぱり王都に出てきた良かったわ。お店の経営は楽じゃないけど、自由に何でもできる。自分の力で未来を作っていけるわ。ここなら何者でも無かった私を形作る事ができる。
さあ、今日はゆっくり休んで明日からの仕事を頑張らなくっちゃ。
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