第29話 グラテウス連隊長
「視察、お疲れさまでした。グラテウス連隊長」
「今回の討伐で、怪我人は何人出た」
「はっ、死者は無く、重傷者2名、軽症者58名です。重傷者を含め14名が王都へ帰還しました」
報告を聞き、側近たちと今回の討伐に関して話を聞く。
「うちの連隊は損耗率が大きいと思うのだが。メディウム副長はどう思う」
「そうですな、この規模の戦闘にしては怪我人が多いですな」
俺が連隊長に就任して2回目の遠征討伐だが、成果が思わしくない。今回は軍の運営を副官に任せ、俺は自由に各部隊を見させてもらっている。
「まあ、その責任を取って前任者は解任されたわけですが。私が見る限り、個々の兵士の力は他とさほど変わらないように見えましたな」
「俺は各小隊で連携が上手くいってないように見えたな、実戦経験が乏しいのか」
「確かにこの隊には新兵が多いようですな。大規模な戦闘も最近少なくなりましたから、指揮官の質も落ちているのかもしれませんな」
俺の副官メディウムは、代々我がハルミトス家に仕えている武人の家系の者で、戦場での経験が豊富な指揮官だ。
「これでスタンピードに参加することになれば、全滅もあり得るか……」
魔獣暴走による被害も少なくなったとはいえ、王国全土で数年に1度はどこかでスタンピードが起きている。その備えをするのが軍隊だ。だが今のままではその任を
「連隊長が参加された何でも屋、ドラゴンの実力はどのようなものでしたかな」
「ドラゴンのキイエ殿は戦闘に参加されていなかったよ。攻撃が強力過ぎて討伐には向かないそうだ」
「ドラゴン無しであの区域を……。それほど人員はいなかったと記憶してますが」
「4人だ、非戦闘員が1人、新兵が1人だった。私がいたとはいえ、あの人数で怪我もせずあの区域を守っていた」
通常7、8人の小隊で守る範囲を彼らだけでこなしていた。ドラゴンがいるからと広範囲を任されたのだろう。
「あの何でも屋は最近成績が良く、今回もこの討伐に抜擢されたと聞いています。他の小隊と比較しても上位の成績を残しておりますな」
「各小隊の訓練方法を見直さなければならんようだな。王都に帰還後、すぐに検討に入ろう」
俺は王都に帰り、各大隊長を集め訓練方法、装備、人員の配置などについて検討を重ねる。今までと違うやり方に反対する大隊長も多くいるが、死者が出る前に何とか改革したい。
「やあ、こんにちは。メアリィ店長は居るかい」
「グランさん、こんにちは。社長は今、荷物の運搬に出ていて、夕方頃に帰って来る予定です」
今日は、この受付嬢一人だけのようだな。討伐から帰って来たばかりだというのに良く働くものだな。
「シンシアさんと言ったかな、メアリィ店長が魔獣討伐の訓練をしてる日に、俺も一緒に訓練したいと思って来たんだが」
「訓練? 特にそんな日はないですよ。ここのところ依頼が詰まっていて、空いている日もないですし」
訓練もなしにあれだけの動きができているのか?
「店長はどこかで、魔獣討伐の方法を習われたのかな。前の討伐の時、上手く魔獣を倒していたものでな」
「そうですね。このお店を開く前に、マルギルさんのお店で働いていて、そこで色々と教えてもらったって言ってましたね」
「親御さんも、何でも屋か軍に入っていたりしていたのかな。魔術もなかなかの腕だったぞ」
「まあ、軍人さんに褒められるなんて。ゲンマという町から出てきてるんですけど、確か親御さんは別の商売をしていたと思いますよ」
あの若さだから、小さな頃より何かしていたと思ったが、この王都に出てきてから何でも屋を始めたのか。もう少し詳しく聞きたいが、ここで根掘り葉掘り聞くのも気が引けるな。
「シンシアさん。お昼の休憩の時にお茶などしませんか。魔道具の事も少し聞きたいし」
「結構ですよ。ユイト君達がお昼には帰ってきますし、鐘4つの頃、また来てもらえますか」
「ありがとう、それじゃまた」
俺は、親の七光りで連隊長になったが、経験が浅い。何かヒントがもらえないかと思ったが、何でも屋のやり方をもう少し知りたいものだな。
今の連隊の兵士は通常の訓練をしてダメだったのだ。副官のメディウムにも訓練方法を聞いたがどうも彼らの時代と今とでは鍛え方が全然違うようだ。
「私達の若い頃は、魔獣を1匹以上倒すまで帰って来るなと、魔の森にひとり放り込まれたりもしましたな」
訓練で怪我するなど、日常茶飯事の事だとメディウムは言う。
対人戦闘、護衛、魔獣討伐や土木工事まで軍としての仕事は多岐にわたる。今は小隊8名から10名を1チームとして訓練や教育を行っている。
怪我人が多いのは圧倒的に魔獣討伐だ。何とかしたいのだが。しがらみの多い軍隊では簡単に事は進まない。やはり俺に軍隊は向いていないのだろうな。
ハルミトス家の嫡男としての責務だからと、親の言う通りに軍に入ったが、しっくりとこない。階級ばかりが上がっていく。
とうの昔に貴族の時代は終わっている。だが家柄やしきたりなどは厳として残ったままだ。2代上は実際に民衆を支配していて、今さら変われないのだろうが、これからはもっと自由な世になっていくだろう。我らだけが取り残され、貴族と言う呪縛に縛られ続ける。
平民として生まれれば、もっと違う人生があったのだろうか……。
「ねえ、メアリィ。前の討伐依頼。すごい活躍したんですって。グランさんが来て褒めていたわよ」
「まあ、前回は上手くやれたわね。グラン、お店に来たの。あの人暇なのかしら」
「また今度、魔獣討伐がある時はお手伝いしたいって言ってたわよ」
またタダで手伝ってくれるのかしら。それは助かるわね。持つべきものは軍人さんの知り合いだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます