第86話 女王様とおじさんと

 ここは綺麗なところね。ごちゃごちゃした町もないし、大きな湖も近くにある。それにこの高い白い塔が気に入ったわ。一番てっぺんに止まって周りを見渡すのは気持ちがいいわね。


 あら、イズホが呼んでいるわ。女王様との話し合いが行われるようだわ。


「初めまして、イズホ様。よく来てくれました」


「ミネトリス女王。先代の王には、我が祖先が世話になったと聞いておる。祖先に代わり礼を言う」


「我らドリュアス一族も恩恵を受けており感謝しております」


「その祖先は、この大陸でやり残したことがあると代々伝えられておってな」


「それは交流を持てなかった、ビラマニ国の事でしょうか」


「そうじゃな。その思いを我らの代で成し遂げたいと思っておる。簡単な事でないと思っておるがな」


「では、これからの未来の事についてお話しましょうか」


 イズホは何やら難しい話をしているようで、私にはよく分からない。


「ねえ、ギアデスおじさん。いったい何の話をしているの」


「この大陸で大きな紛争が起きていてな、それをどう解決しようかと女王は考えている。その知恵をミカセ家に借りようとしてるんだ」


「人は何処ででも争っているわね。何で仲良くできないのかしら」


「さあな。俺はここが気に入ってここに居る。俺達にとってはそれだけで良い事だろう」


「そうね。私もシャウラ村は気に入っているわ。最近は余所の国を飛び回る事が多くて大変だけど、イズホといると面白い事が多いわ。そうそう、オクトパスって言う海の魔物なんだけど、すごく美味しかったのよ」


「そうなのか。ここに来てから海の魔物とは戦ってないな。今度、一緒に行ってその魔物を倒してみるか」


 そんな話をしていたら、イズホの方は話が終ったみたいね。今夜はここに泊まって明日帰るようね。

ここはのんびりしていていい所だから、もっと居ればいいのに。まあ、イズホにも仕事があるから仕方ないか。


 翌日。ここを離れる時、イズホはギアデスおじさんに尋ねた。


「ギアデスよ。お前はここで名前をもらったそうだが、セシウス大陸に帰って来ることは考えておらぬのか」


「俺は、海の果てを目指してここに辿り着いた。先代の王に借りもある。人族ではないがミネトリスに従いこの首都を守っていくつもりだ」


「そうか。もしドラゴンの故郷に帰りたい時は、船の都合をつけよう。あの船は速いからな。ここを留守にするのも短くてすむじゃろう」


「俺はここで骨をうずめるつもりだが、もしそのような時はお前に頼むとしよう」


「ああ、そうしてくれ」


 私はイズホを乗せて、空母へと帰って来る。途中ビラマニ国の上を飛んでいると、私を指差して口々に何か叫んでいるようだったわ。失礼な人達ね、私この国の人は嫌いだわ。


 ここ数日は、島の港に停泊してる空母の補給や整備をするらしい。

島のあちこちに山積みしている黒い石、石炭と言うらしいけど、それを沢山船に積み込んでいるようね。


「ねえ、イズホ。この黒い石って何に使うの」


「その石は燃えるんじゃ、この船を動かす燃料じゃよ。陸地ではあまりないんじゃが、海にはこういう石炭が出る場所が沢山あるそうじゃ」


 ふ~ん。こんな石でこの大きな船が動いてるんだ。こんな沢山燃やしてるから、あんなにすごい煙を吐きながら走っているんだわ。

海洋族の人はその石炭を海底で掘るために、ここに沢山集まっているのね。


 そんな作業を見ていたら、遠くからギアデスおじさんが飛んできた。


「セミューよ。海の魔物の討伐に行かないか。前に言っていた美味い魔物を食いに行こう」


「それは、いいわね。イズホ、ちょっと海に出るけどいいかな~」


「よいぞ。夕方までには帰って来るんじゃぞ」


「は~い」


 おじさんと魔の海の方に飛んで行く。この島に来る前に魔物を倒した海。


「この辺りでいいと思うんだけど。おじさんも翼を広げて海の上に影を落としてくれませんか」


「ほう、こうするのか」


 飛びながら二人でできるだけ大きな影を作る。そうすると海底の方から魔物が浮かび上がってきた。

白い体で三角の頭を持つ魔物。


「あ~、あれはクラーケンって言って、あまり美味しくないのよ。はずれね」


「そうなのか。では違う所に行ってみようか」


 別のところで同じように海面に影を落とす。


「あれよ、あれ。丸い頭で足がウニョウニョしてる魔物、オクトパスよ」


 大きな足を広げて影を掴もうとしているわ。バカな魔物ね。


「何処が急所だ?」


「目と目の間なんだけど、あの8本の足で防いでくるのよ。私が何本か足を切断するから、おじさんが目の間を狙って」


「よし、任せろ」


 ブレスを細くして横なぎに魔物の足を3本切断した。その隙間からギアデスおじさんが目の間を狙って細いブレスを突きさすように吐く。


「おじさん、上手い、上手い」


 魔物を黒コゲにする事もなく倒すことができた。本体をおじさんが、切断した足を私が持って船が停泊してる島まで戻ってくる。


「これは、なかなか大きな獲物だな。それに美味いな」


「そうでしょう。少しブレスで炙ると、また美味しくなるのよ」


 ブレスの加減は難しいけど、焼くと香ばしくなってまた違った味になる。


「イズホはお湯に入れて茹でていたわ。人って色々な食べ方するわね」


 私は生が一番だと思うけど。


「セミュー。この足を何本か持ち帰ってもいいか? ミネトリスにも食べてもらいたい」


「ええ、どうぞ、私は後2本もあれば十分だわ」


「すまんな。今日はありがとよ」


 そう言って残りの魔物の足を掴んで、嬉しそうに大陸の方に飛んで行った。私も面白かったわ。また来ることがあったら、おじさんと魔物を狩りに行きたいわね。


 翌日。出港準備も整い、新大陸での思い出と共に人族に国へとまた船の旅が始まる。

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