第41話 村の魔獣討伐1

 旅館に戻り、私達は一息つく。ミルチナはツアーの隊長さんと交渉して、魔獣の肉を手に入れたようね。


「今から、ここの厨房を借りてお肉を焼きますね。楽しみにしていてください」


 私とセイランは食事前にオフロに入りましょう。なんだかすごく疲れたわ。


 こういう時は熱いオフロもいいものだわ。


「こうやって、オフロに入っていると生きてるって実感するわね」


「そうだな。拙者もやっと落ち着いた。オフロとは誠にいいものだな」


 ゆったりと湯船に浸かって、体を洗いすっきりとする。



「さあ、これがあの魔獣のステーキですよ。食べてみてください」


 ミルチナが旅館の厨房を借りて、焼いたお肉を部屋に持ってきてくれた。量は少なくひとり1枚もないステーキだけど、死ぬような思いをして手に入った魔獣のお肉だ、しっかりと味わわないと。


「これは美味しいわね。昨日のステーキより柔らかくて上品な甘みがある感じだわ」


「こちらの赤身の肉は少し硬いようだが、味が濃くてしっかりとした旨味があるな。この脂身もまた美味しい」


「そうでしょう。お肉の部位や下処理の方法を変えているの。メアリィさんのが一番柔らかいと思うわ」


 旅館の料理人の人に教えてもらった方法や、王都の料理方法など色々と試したみたいね。さずが一流の料理人を目指しているだけのことはあるわ。

3人のお肉を食べ比べて、その感想をミルチナに伝える。


 その日の夕食も豪華で美味しかったわ。魔獣ツアーでの恐怖感も和らいだ。美味しいものを食べてオフロに入ってゆっくり眠る。ここはそんなリフレッシュができる場所。


 夕食を終えた私達に旅館の女将さんがデンデン貝を持ってきてくれた。


「夕方届いたユイト坊ちゃんからの伝言ですよ」


 もらったデンデン貝を聞くと、ユイトの甲冑が完成したから明日村に来てくれないかと言っている。村の近くでする魔獣討伐にユイトも参加するらしい。


「特に明日の予定は決めていなかったし、ここで朝食を食べてから村に戻りましょうか」


 エアバイクで帰れば十分余裕はあるわ。魔獣討伐が始まる前にはユイトの家に着けるでしょう。


「拙者はあの村での魔獣討伐に興味がある。近くで見るか、できれば参加もしてみたいものだな」


「そうね。ユイトの新しい甲冑も見てみたいわ。どれだけ戦力アップしたか確かめないと」


 村での戦闘自体も興味あるけど、私は今後のお店の仕事でユイトをどう活かすか、見極めたいわね。


翌朝。サイドカー付きのエアバイクに乗ってユイトが住んでいる村に移動した。


「メアリィ、戻ってきたんだね。村の観光施設は面白かった?」


「ええ、楽しかったわよ」


 ユイトの家の居間でお茶を飲みながら、観光地での楽しかった出来事を話す。ユイトのお母さんも一緒に私達の話を笑顔で聞いてくれている。


「ユイト殿、魔獣討伐をすると聞いた。拙者も参加することはできないだろうか」


「セイランはいつもの格好で戦うんだよね。参加は難しいと思うけど、父さんに聞いてくるよ」


 ユイトが参加できるなら、セイランでも十分だと思うんだけど……。

しばらくすると村の自警団の団長さんである、ユイトのお父さんが居間にやって来た。


「魔獣討伐は、今から準備して鐘3つから戦闘を開始するつもりだ。セイランさんは風の靴を持っているかね」


「風の靴?」


「速く移動するための魔道具の靴なんだが、最低でもこれが無いとな。貸すことはできるが使いこなせないと、他の者の動きに付いていくことはできないだろう」


 ツアーで護衛の人が速く移動していたのは、その風の靴を使っていたのかしら。


「だが見るだけなら特等席を用意しよう。全体が見れて楽しいぞ」


「ユイトは、そんな戦いに参加しても大丈夫なんですか?」


 セイランでも無理という戦いの場に、ユイトはちゃんと働けるのかしら。


「まあ、足手まといにはなるだろうが、甲冑の試運転はせんといかんからな。特別に参加させる」


 ユイトは討伐の準備をしないとダメなので、もう家を出たそうだ。


「それじゃあ、俺に付いて来てくれ。村の外れまで馬車で行こう」


 ユイトのお父さんについて馬車に乗り込む。一緒にメイドのセシルさんもいたけど、今回はメイド服じゃなくて戦闘服を着て腰に細身の剣も差している。他にも2人の男の人も乗り込み、打ち合わせをしながら馬車を走らせる。


 馬車の中、私達にも今日の討伐について説明をしてくれる。


「今日は村の周辺、東の森の魔獣討伐だ。討伐と言っても間引くだけだが、範囲が広い。爆撃機と戦車も出す」


 戦車? 戦車って言ったら大陸の南、民主連邦国の主力兵器じゃなかったっけ。なんだか大掛かりな作戦のようね。

馬車が停まったところは、村の端、木の壁のすぐ近くだった。壁の手前には戦車が何台も並んでいる。絵でしか見たことのない戦車だ。


「あの鉄の塊が動いて魔獣を狩るのか!」


 セイランも驚いた様子で戦車を見ている。すると向こうの方から鉄の塊が走って来た。


「うわ~。何なの! 一体」


 良く見入ると人の形の鎧が走っている。


「メアリィ。ボクだよ、ボク」


 顔部分を覆っていた仮面が上に跳ねあがりユイトが顔を出す。


「ユイトなの? 何なのよ、これ」


「新しく作ってもらった、ボクの機動甲冑だよ」


 鉄で体全体が覆われた分厚い鎧、腰の後ろにボイラーが付いていて、足の外側には車輪? いえ、戦車と同じ小型のキャタピラーがついているわ。蒸気の力で移動したり、大きな剣を振るうことができるとユイトが言っている。


 何なの、あの甲冑。見たことも聞いたこともないわよ。でも戦車の近くに同じ甲冑を着た人達が何人もいるわ。


 ユイトのお父さんに呼ばれて、大きな物見やぐらの上に昇る。3階建てで、10人以上が集まれる屋根付きの広い展望台。そこにテーブルと椅子、大型の両眼で見る遠見鏡などが設置されている。ここは指令所なの?


「もうすぐ、作戦開始だが、君達はここに座ってくれ」


 低い木の壁の向こうに、平原と魔の森が見渡せる場所に座る。後ろのテーブルではユイトのお父さんと、他の2人の人が打ち合わせをしている。私達の横にはメイドのセシルさんが付いていてくれる。


「セシル殿。ユイト殿が着ていた、機動甲冑というのはどのような物か分かり申すか?」


「元は戦車を小型化して一人でも扱えるようにしたものなんです。改良が進むうちに、あのような人型になりました。背中の蒸気機関で移動し、電気モーターで腕などを動かせるようになっているんですよ」


 各種魔石や魔道部品が組み込まれていてスムーズに動けるらしい。腕からは魔弾も打ち出せるようになっていると言っていた。


「あの戦車は民主連邦国の戦車じゃないんですか?」


「いいえ、この村で独自に作った物ですよ。形はよく似ているとは思いますが、同じ賢者様が作った物ですから」


 初めて見たからどう違うのか分からないけど、輸入じゃなくてこの村で製造しているなんて。


「さあ、始めようか」


 ユイトのお父さん、いえ、自警団団長が号令をかける。この村の魔獣討伐が開始された。

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