第42話 村の魔獣討伐2
後方から白い飛行機が編隊を組んで飛んできた。8機もいるわ。先頭の機体が斜めに傾いたと思ったら、旋回しながら2列編隊のまま森の上空から魔弾を投下していく。
右から左に8機が飛び去ったと思ったら反対側から、もう8機の飛行機が2列編隊で左から右へと爆撃していった。
一直線に並んだ綺麗な編隊飛行だわ。爆撃も正確に曲線を描いて魔の森の一区画を切り取るように、風と土魔法の魔弾を投下している。実戦でこんな曲芸みたいなことができるなんて信じられないわ。
あの飛行機部隊の隊長さんが、私達を飛行機で運んでくれたソアラさんだと教えてもらった。王都で優秀なパイロットだと噂されるだけの事はあるわね。
「魔獣が溢れ出るぞ。戦車部隊、前へ」
村を守る木の壁のすぐ外側に並んでいた戦車の一団が、土煙を上げながら森へと前進していった。いったい何十台の戦車がいるんだろう。飛行機が爆撃していった一帯を横1列に並んで取り囲んでいる。
「確か今日は東の森の魔獣を討伐すると言っていたわね」
飛行場や農地を含む村は広大だ。その東面の森に対して一斉に攻撃したんだから、森から溢れた多くの魔獣は村に向かってやって来る。遠見の魔道具で見ると、水牛や熊の大きな魔獣も沢山いるじゃない。
「あんなに沢山の魔獣がいますよ。あたしこんなの初めて見ました。メアリィさん、ここ大丈夫なんですかね」
スタンピードじゃないかと思えるほどの魔獣の群れ。私もこんなの初めてだわ。
「ゲンブ殿。あの魔獣の数、倒しきれるのか」
セイランも椅子から立ち上り前方を見て、心配顔でユイトのお父さんに尋ねる。
「まあ、見てな」
前進し、一列に並んだ戦車から砲弾が魔獣の群れに向かって放たれる。あれは火魔法の魔弾だろうか、辺り一帯が炎に包まれる。キイエ様のブレスを見ているようだわ。
でも炎に耐性を持つ魔獣も多い。倒されず尚も村へと向かって来る魔獣。それに対して戦車の後方から魔法が撃たれた。土、風、水の多彩な魔法攻撃だわ。戦車の後ろでは二人乗りのエアバイクが走り回り、後部座席に乗った魔術師達が魔法を連発している。
「セイラン。あの魔術師達も部隊に別れて、連携しながら攻撃しているわね」
「ああ、見事なものだ。あの機動力で魔獣が集まっている所に集中して攻撃できているな」
セイランが身を乗り出して、戦況を見ている。この物見やぐらからなら戦場全体が見て取れる。
前方の戦車部隊の間から人が前進している。いいえ、あれはさっき見た機動甲冑を着た人達だわ。攻撃をかわして近づいて来た魔獣を単体で倒している。腕から発射される魔弾。それに大きな剣を振り回して、魔獣達を掃討していっているわ。
「あの中にユイトもいるのね。あの子大丈夫かしら」
戦車の前方で乱戦となっている戦場に、ユイトがいると思うと気が気きじゃないわ。
「まあ、大丈夫だろう。あれの装甲は戦車並だ。重くて人じゃ動かせんから蒸気機関を使っているんだがな。最悪動けず蹲っていても、あの程度の魔獣に殺られる代物じゃないさ」
戦車部隊と魔獣との間に、空白地帯が生まれた。
「よし、陸戦部隊を下がらせろ」
ユイトのお父さんの号令で、一斉に機動甲冑の人達が下がる。その空白地に戦車からの攻撃と飛行機からの爆撃が行われた。
「ゲンブ殿、後方の魔獣に攻撃が届いていないようだが」
「それでいいんだ。残りの魔獣達は森に帰ってもらう」
森に返す? 確かに村に向かっていた魔獣が反転しているようだけど。
「これで、魔獣達はこの地が恐ろしい事が分かっただろう。これから生まれる子供達にも、この村に近づくと危ないと教えてもらう事で、魔獣達は寄り付かなくなる」
魔獣との共存と言っていたけど、言っている意味が私にはよく分からない。魔獣は殲滅するのがあたりまえじゃないの。
数が増えた分は間引くけど、全滅させないのがこの村のやり方? 定期的に村と観光地区の周りで同じことをしていると言う。
「この村には常識が通用しないことが多いわね」
それでも、倒した魔獣の数は相当数いる。倒された魔獣たちは戦車に引っ張られた荷車に乗せられて、村へと帰って来た。
私達も物見やぐらから降りて、みんなを出迎える。
「メアリィ。ボクの活躍見てくれた」
「ごめん、上から見てたけど、誰が誰だか分からなかったわ」
「ええっ~。そんな~。ボク頑張ったのに」
みんな同じような格好だもの。ユイトを見つけるなんて無理でしょ。
「それにしてもすごい戦いだったわね。ユイトは怖くなかったの」
「うん、この甲冑を着けてたからね。安心して戦えたよ」
確かにすごい性能の甲冑。これを使えばユイトでもそれなりに戦えるわね。
「ボク、これから魔獣の解体を手伝うんだ。メアリィ達は家に戻っていてよ」
「それなら、あたしも一緒に手伝わせてくれますか」
「助かるよ、ミルチナ。あれだけの数の魔獣だからね、解体できる人はひとりでも多い方がいいよ」
今から村総出で作業するそうだ。ミルチナはユイトと仲良く解体の作業現場へと向かっていった。
私達はユイトのお父さんやメイドのセシルさんと一緒に馬車に乗り込み、ユイトの家へと向かう。
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