第60話 お店に来たドラゴン
アルバイトの新人さんと討伐に行った翌日。その新人さんが店に来て辞めたいと言ってきた。自分には荷が重い、続けることはできないと。
仕方ないわね。1日分のお給料を渡して帰ってもらった。
「ファウンドウルフを3匹相手にできる優秀な人だったのに。ユイトよりも強かったわよね」
「そうだね。あの人の鎧だったらボクはあんなに戦えなかったよ」
まだセイランが帰国するまで時間はあるわ。次の人を待ちましょう。
それから10日経った。セイランとユイトは先日からキイエ様に乗ってシャウラ村に行っている。
「3人雇いましたけど、みんな辞めちゃいましたね。社長」
「そうね。やっぱりセイランの代わりになれそうな人はいないわね」
シンシアと今後の事を相談する。
「2人同時に雇うか、仕事の規模を縮小するかだと思うわ」
「うちで、2人雇えるの?」
「ええ、大丈夫よ。業績は順調だし人手が足りないぐらいだから、雇っても問題ないわよ」
もしかしたら今まで支払っているセイランの給料が安すぎたんじゃないだろうか。セイランは人の2倍の働きをしてくれているのに、命の恩人というセイランの言葉に甘えてユイトと同じ給料しか払っていない。助けてもらっていたのはこちらの方だわ。
「じゃあ、求人を2人にしてくれる。もし間に合わなかったら、助っ人としてグランに来てもらう事はできるかしら」
「そうね。今は工場の仕事で忙しそうだけど、お願いしてみるわね」
その翌日のお昼過ぎ。
「何かしら。お店の外が騒がしいわね」
お店から少し離れた道の真ん中にドラゴンがいた。キイエ様? と思ったけど少し小さい。その横には人族の女の子? その見慣れない白い上着と赤いズボンのような派手な服。あれはセイランが言っていた
その女の子とドラゴンの周りを衛兵達6人が槍を構えて取り囲んでいる。
「いったいワレが何をしたと言うのじゃ」
「見慣れぬドラゴンで城壁を越えて王都に入ってくるとは、貴様こそ何者だ」
「ドラゴンのセミューとこのワレを知らぬと言うのか。この
あれ、どこかで聞いた話ね。ユイトも王都に来た時にドラゴンと共に城壁を越えて入って来て騒ぎになったと聞いたわ。
私はそのドラゴンを取り囲む衛兵の近くまで行って声をかける。
「あの~。あなたはユイトのお知り合いですか?」
「そなた、ユイトの事を知っておるのか。ワレはユイトが働く何でも屋に行きたいだけなのに、この者どもが邪魔をしておるのじゃ。これ以上訳の分からない事言うと、燃やし尽くすぞ」
これはまずいわ。この人とドラゴンなら本当に燃やしかねないわ。衛兵の人に知り合いだと言って通してもらって女の子の近くまで行く。
「私はメアリィ。あなたが探している何でも屋の店長です」
「おお、そうなのか。この周りの者どもを何とかしてくれんか」
「このドラゴン、使役魔獣の登録していますよね。何か書類でもありますか」
「それなら、この足輪に刻んでおるわ」
ドラゴンの左足に黄金に輝く足輪がある。衛兵の人に事情を説明して、後で役所に手続きに行くと言って帰ってもらった。
「このドラゴンはキイエ様とは違うドラゴンですよね」
人の2倍程の身長で、鱗もキイエ様のように青いけど、赤みがかった青紫と言った感じの色だ。
「キイエの娘なのじゃ。今はワレと一緒にいてくれておる」
騒ぎを沈めるためにも、まずはこの人をお店に案内しよう。ドラゴンは人目に付かないよう裏庭に居てもらう事にした。
「ワレは、イズホと言う。ユイトがここにいると聞いて、村に帰る前に会いに来たのじゃが」
「ユイトのお姉さんですよね」
「ああ、そうだ。あやつはちゃんと働けておるのか。村ではまともに魔獣も倒せなかったのだがな」
やっぱりユイトが言っていたお姉さんだわ。ユイトより身長も低くて、なんだか幼いようにも見えるけど、ユイトの3歳ほど上だったはず。確か仕事で遠くに出ているって聞いていたけど。
「ユイトは今キイエ様と一緒に、シャウラ村に行っています。今日中には戻って来ると思いますけど」
「そうなのか。今、村に帰ると行き違いになってしまうな。ユイトが帰るまでここに居させてくれぬか」
「ええ、それは結構なんですけど……。城壁を越えて王都に入って来られたそうで、通行税なんかも払ってないですよね。役所に行って手続きをしてもらいたいんですけど」
「なんと、このワレから金を取ると言うのか?」
この辺りはユイトと一緒だわ。常識というものが通用しない。シンシアと一緒に役所に行ってもらって手続きをしてもらう。
それにしても、このお姉さんの言葉少し変ね。方言? いえ違うわね。キイエ様のしゃべり方とよく似ているわ。自分の事をワレなんて言っているし。やっぱりユイトの家族に間違いないわね。
「メアリィさん。裏庭のドラゴンのセミュー様にお水持っていきました」
「ありがとう、ミルチナ。あの方、キイエ様の娘さんらしいわよ」
「そうなんですか。少し小さいですがドラゴンの気品と言いますか、やっぱりすごいですね。鱗も赤みがかって綺麗でしたよ」
「イズホさん、ユイトに会いに来たらしいから、今夜はここに泊まると思うわ。ユイト達も今夜帰ってるし、食事は5人分作ってくれる」
屋根裏部屋は空いてたけど、物でいっぱいね。まあ、ユイトに屋根裏を使ってもらえば大丈夫でしょう。
ミルチナにお店に残ってもらって、私は午後から仕事に出かけた。
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