第7話 ユイトのドラゴン1
夕方。街の外での仕事を終えて、王都の城門を潜って私は驚いた。王宮の周りにある4本の塔の内1本が崩壊している。街の人達に聞くと夕方前の鐘5つの頃に塔が倒壊してたそうだ。
「ねえ、シンシア。王宮どうなったの? どこかの国から攻撃されたの」
「いいえ、私もよく分からないの。王宮の方で大きな音がして見てみると、塔が崩れて白い煙が立ち昇っていたわ」
でもその後は、何事もなく1本の塔が無くなっただけで終わったようだ。何かの事故だったかもしれない。衛兵達も老朽化した塔が倒れたのだと言っている。
老朽化と言っても、今の地に王都が遷都されて50年ちょっと。城壁もしっかりしていて崩れた所はない。あの頑丈な石造りの王宮の建物が老朽化で崩れるなんて……。
「ところでユイトはどこにいるの?」
「お昼前までは、私と街中で人探しのお仕事をしていたの。その後にお店に来たお客さんがキイエ様を見たいと言って外に出て行ったきりなのよ」
ドラゴンがいる何でも屋として宣伝しているから、ドラゴンが見たいという人がたまにやってくる。キイエ様には用事が無い時は街の外、森の近くに居てもらっている。狭いお店の裏庭にずっと居てもらうのも悪いからなんだけど……。
「ただいま、シンシアさん。あっ、メアリィも帰ってたんだね」
「あんた、こんな遅くまでどこ行ってたのよ」
「キイエを見たいって貴族の人が来て、色んな所に連れまわされちゃって今までかかったんだよ。でもちゃんと報酬ももらえたんだよ」
ユイトは革袋に入った銀貨80枚をテーブルに置いた。
「まあ、こんなに沢山もらえたの。流石お貴族様ね」
シンシアも驚いている。ユイトの給料は時間給だが1日働いて銀貨12枚だ。半日キイエ様を見せただけでこんなにもらえるなんて。
余程キイエ様のことが気に入ったのね。もしかしたら、これだけでも商売ができるんじゃないかしら。ユイトを雇って良かったわ。
◇
◇
時は遡って、今日の昼前。まだ鐘4つになっていない頃。
「探していた人が早く見つかって良かったわね、ユイト君」
「はい。こんな広い王都で見つかるか心配してたけど、シンシアさんがいてくれて良かったです。ありがとうございます」
多分、ボク一人だと今日1日探しても見つからなかったと思う。その依頼人は王都に初めて来た友人が見つからないと朝早くにお店に来た。詳しく聞いた情報から、立ち寄りそうな所を推測してシンシアさんが指示してくれた。
二人で辺りを探し回り、やっと探し当てることができた。
「王都には、聞いていた待ち合わせ場所と似た場所が多いから、間違えちゃったのね。でも近くにいてくれて良かったわ」
探し人が歩き回って、小さな路地に迷い込んでいたら探すのは大変だ。ボクも路地の中に入ると迷子になっちゃうもの。
探し人を依頼人に引き合わせてお店に帰ると、身なりのいい2人組のお客さんが来ていた。熊獣人の体のがっちりした男の人とヤギ獣人の背の高い人だ。
「この店にドラゴンがいると聞いて来たんだが、見せてもらう事はできるか」
「はい。今ここにはいませんが、街の外でなら見ることはできますよ。ユイト君。これから外に出ることはできるかしら」
「はい、ボクなら結構ですよ」
時々ドラゴン目当てでお店に来る人がいる。メアリィは、これも依頼だからと言って銀貨4枚程もらっているようだけど、ボクは別にキイエを人に見せるだけならお金は要らないと思うんだけど。
依頼に来た2人組と一緒に馬車に乗り北の城門まで行く。大きな箱型の馬車で窓ガラスも付いている。御者が別にいて2頭立ての馬車を操作していた。
この人達は貴族の人達だろうなと思いつつも、一緒に城門を抜けて街の外に出る。
ここら辺ならいいだろう。馬車を降りて、ボクは胸にぶら下げている笛を吹く。
「その笛でドラゴンを呼ぶのか。音が鳴っていないようだが」
依頼してきた2人のお客さんが馬車から降りて、ボクの近くまでやって来た。
「ええ、人には聞こえないんですけど、キイエには聞こえるんですよ。ほらあそこに見えました」
森の方からキイエがボクの所まで飛んできてくれた。ボクの上空で一回りしてから地上に降りてきてくれる。
「おお、ドラゴンは初めて見るがさすがに気品があるな。あの緑の鱗、光の加減で青く煌めく。こんな素晴らしい鱗は初めてだ。少し触らせてもらってもいいか」
長身のヤギ獣人の人がキイエに近づきながら言う。
「少しならいいですけど、余りべたべた触らないでください。キイエが嫌がりますから」
ヤギ獣人の人が興味深げにキイエの体に触れる。
「このドラゴンの餌はなんだ」
「餌というか、自分で森に行って獣などを食べてますよ。おやつ代わりに時々新鮮な肉や魚を買っています。前に食べた魚が美味しいって言ってましたね」
「ああ、あの珍しい魚は美味かったな。ユイト、また買って来てくれんか」
「おお! ドラゴンは人の言葉もしゃべるのか」
当たり前だよ。ボクは小さな頃から一緒にいて、他の獣や魔獣がしゃべれない方が不思議だった。
「もっと、ドラゴンの事が知りたい。屋敷に来てくれ、報酬は弾んでやる」
まあ、仕事は昼前に終わったからいいんだけど。
「じゃあ、少しだけなら。キイエ、また後で川に水浴びにでも行こうよ」
「ああ、分かった」
キイエは一言返事をして森へと飛んで行った。ボクは2人の獣人の後に付いて馬車に乗り王都に戻る。屋敷って言っていたし、この人達は本当に貴族なんだろう。
ボクが村を出て王都に行く時、貴族には注意しなさいって言われたけど、この人達、少し偉そうにしているけど、そんな悪そうには見えない。
まあ、何事も自分の目で見てみないと分からないだろうし、もう少し付き合ってみよう。
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