第50話 旅行帰りのシンシア
「ねえメアリィ、聞いてよ。グランったら酷いのよ」
シンシアが新婚旅行から帰ってきて、お店に来るなりこんなことを言いだした。
「船の中でね、私の事を置いて色んな所を勝手に見て回ったり、レグルス国ですごく高い物なんかを買ったりするのよ。元貴族だからお金の価値が分かってないのよ。あんな人と一緒に生活なんてできないわ」
楽しいはずの新婚旅行で何があったの! これは離婚の危機だわ。
「グランはあなたの事を大切に思っているはずよ。ねっ、そうでしょ」
「でもね、結婚したとたんに私に、あれをしろとかこれをしろとか命令してくるし、幻滅しちゃったわ」
これは、まずいわね。グランったら、シンシアにいったい何をしたのよ!
「で、でも、こんなお土産を私達にまで持ってくるなんて、ちゃんと気を使ってくれてるじゃない」
グランからだと、私達全員にお土産を持ってきてくれている。
「その事もなのよ。貴族のお義父さんやお義母さんの所へもちゃんとお土産を用意してるんだけど、それにすごくお金を使ってるのよ。この先の生活が心配だわ」
「で、でも私達だけじゃなくて……、え~っと、ほらシンシアの髪飾り、それは新しいものでしょう。旅行先で買ったの?」
宝石付きの髪飾りなんて、グランが買ってくれた物に違いないわ。
「これはね、グランが私に似合うだろうってプレゼントしてくれたんだけど、これもすごく高いのよ」
「そ、それだけ、シンシアを大事に思っているってことでしょう。ステキな宝石も付いているわね」
「そうなのよ。私の瞳の色に合わせて、グランが選んでくれたのよ。私も気に入っているわ」
琥珀色の大きな宝石、ステキなデザインだわ。
「そうでしょう、さすが元貴族じゃない。センスがいいのよ。そんな旦那様に愛されているシンシアが羨ましいわ」
「あのね。グランったら、食事をするレストランやホテルも素晴らしい所を選んでくれたの。バルコニーから見た夜景がすごく綺麗だったわ」
何だ、ラブラブじゃない。その後も惚気話のよう旅行の話を聞かされた。心配して損しちゃったわよ。
「あっ、お店の方長く休んじゃったけど、大丈夫だった?」
「それがね私達がいない間に、近くに新しい何でも屋が開店していて大変だったの」
「まあ、そんな事が……」
「でも、もう大丈夫よ。もうすぐそのお店、閉めるって言ってるから」
今日からシンシアも働いてくれるし、うちは万全の体勢になるわ。
今日は久しぶりの魔獣討伐のお仕事。軍関連の仕事が休みの間全部、新しいお店に流れてたから、こんな仕事も回ってこなかった。
街道沿いで魔獣の出没が多くなって、森の中に入っての魔獣討伐のお手伝いをする。
「ユイトの機動甲冑も使ってみましょう。セイランとミルチナも一緒に来て」
依頼内容を聞くと、場所は近いけど大掛かりな討伐になりそうだわ。軍は列車で行くようだけど私達はユイトのお父さんから借りたカーゴとエアバイクで現地に向かう。キイエ様には先に飛んで行ってもらって現地集合しましょう。
「今日はこの森の中に入って行くわよ。大型の魔獣が多いそうよ」
牛や熊のような大型の魔獣の場合は、障害物が多い森の中の方が有利だ。私達は割り当てられた区域の森の奥へと入って行く。
「ユイト。その機動甲冑、森の中でも動けるの?」
「うん、大丈夫だよ。木が倒れていても湿地でも進むことができるよ」
今回はユイトを先頭にして進んでいる。
「メアリィさん! あっちに水牛の魔獣が1頭います。まだこっちに気づいてないようです」
ミルチナも魔獣を見つけるのが上手くなってるわね。
「あの魔獣、拙者に仕留めさせてくれぬか」
ユイトの方が防御力が高いから、そっちに誘導しようと思ってたけど、セイランがそう言うならあなたに任せましょう。
水牛の魔獣を3方から囲んで、順番に魔法攻撃を仕掛ける。
「セイラン! そっちへ行ったわよ」
魔獣の正面に立ち、刀を左下に構える。静かだ。今までのセイランと雰囲気が違う。
刀が白くきらめいたと思った瞬間、水牛魔獣の首が飛んでいた。血を噴き出した胴体がもんどりうって倒れて木にぶつかって止まった。
「すごいね、セイラン。一振りで倒すなんて」
ユイトが、セイランに近づいて称賛する。
「ユイト殿のお父上からいただいた、この水紋刀のお陰。感謝いたす」
一瞬の出来事で何が起こったのか分からないけど、何かを会得したのかしら。
斬り飛ばされた魔獣の首も、セイランを横目で追ったままの表情で凍り付いている。自分の身に何が起こったのかも分からなかったのだろう。
ユイトが一人で、あの重い牛魔獣の足を引っ張って平原まで運ぶ。これも機動甲冑のなせる技ね。
血抜き処理後また森に入って今度は熊の魔獣を狩る。
両手から攻撃される岩魔法をセイランは真っ二つに斬りながら接近して心臓をひと突きで仕留めた。
その後、3匹の小型の魔獣を倒して、今日の討伐は終わった。
王都に帰り獲物を解体業者に引き渡す。
「やっぱり、あんたらの持ってくる魔獣は質が全然違うねえ。新しく開店した何でも屋が持ってきたのは売り物にならなかったよ」
安い値を付けられて怒っていたそうだけど、他の店でも同じだったようで渋々この店で売っていったと言う。
やはり、あの何でも屋は程度の低いお店だったんだろう。
ミルチナが魔獣のお肉を分けてもらって、お店に持って帰る。今夜はステーキね。楽しみだわ。
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