第69話 帝国貴族4

 時が過ぎ、王国の中枢に近い元帝国貴族と僅かながら繋がりを持てるところまで来た。

子供も生まれた。ミカシェルに似た羊族の男の子だ。


「これで我が家も安泰だ。フロレアが帝国からこの家に来てくれたことに感謝しているよ」


「お義父様、わたくしもここに来てこんな平穏な日々を送れていることに感謝していますのよ」


 貴族間の交渉事などもあって忙しいけど、ミカシェルやその家族と暮らす日々は穏やかだ。子供もすくすくと育ちもう3歳になる。


 この地に来た当時、自分の領地ではないこの地区を任されていると言っていたけど、お義父様がどのような仕事をしているのか分からなかった。


 4つの町を管理する役所の人達に指示を出し全体を動かしていく。この国の制度では事を進める過程や手続きが大事だとかで、何枚もの書類を書いて指示しその報告を受ける。帝国では何をするか口で指示すれば全てが動いていた。


 お義父様はこれらの行政能力に長けていて、的確な指示を出し問題を解決していく。夫のミカシェルも1部署を任され補佐している。私は他の地区の貴族に対する連絡や交渉の手伝いをしている。


 最近は王都との連絡もスムーズになり、こちらの要求も通るようになってきた。空港を作る許可も下りて建設している最中だ。こういう許認可についても王都の政界の仕組みを知る貴族に教えてもらった。やはり人脈と言うのは大切だわ。


「やはり大物の元帝国貴族との繋がりは大事だね。フロレア、すまないがそちら方面も引き続き進めてくれるかい」


「はい、分かっております」


 まだ王都に住むような上級貴族との繋がりはないけど、徐々に人脈を築いていけば手が届くようになっていくだろう。



 ある日、お義父様が隣りの地区を治めている貴族の事について調べて欲しいと言われた。


「わたくし達と同じ子爵家であるリストス家の方々ですわね。お隣ですので行政的な連絡はいつも取っていますけど」


「隣りのリストス家は古くからの貴族で、昔はこの地区も治めていた方なんだよ。最近はその向こう側にいる貴族と親密にしているようなんだが、どうも胡散臭い噂が流れていてな」


 他国と禁制品の売買をしていると言う噂があるそうだ。例えば魔道具の魔弾銃や航空機などは王都で許可しないと海外に売っては行けないことになっている。他国からの輸入品にも禁制品があり、リストス家はそれらを密輸していると言う。


 この手の噂は貴族間ではよくある事だ。相手を追い落とすため嘘の噂を流行らせることもある。興味本位で他国の商社から取り寄せた商品が禁制品だったため返品しても、密輸したと噂されてしまう。

逆に本当に密輸した物は闇から闇に流れ、表には出てこないものだ。


 隣りの地区の子爵家と我がロヴァーユ家は仲が悪く、相手の内情は分からないらしい。


「もう亡くなった父上の代からリストス家とは仲が悪くてな、功績を上げるたびに妬まれてしまっている。この地区も割譲のような形で私が納めることになったしな」


 お義父様はこの噂で相手をおとしめようとしているのではなく、実情を知っておきたいと言っている。リストス家とその先の二つの地区に同じような噂が出ているのが気になるようだ。


「分かりました。少し調べてみます」


 調べていくと、武器の売買を頻繁行っていた。別に国内で武器を買う事は普通だ。王都から遠く離れたこの辺境では魔獣に対して独自の組織で対抗する。その為の武器を買っているようだけど、その商社が1社だけで海外とも繋がっているようなのだ。


 ミカシェルとも相談する。


「ねえ、あなた。武器の売買を1社が独占することは不自然な事なんですか」


 帝国ではお抱えの商人に全て任せる事もよくある。


「剣や鎧などの商社と魔術師の武器関連の商社、魔道具関連などは別々になっていて、普通はそれぞれの専門商社に頼むものだ。その方が安くなるしね」


 各部門で競争相手がいて、安く良い品を提供するためにも専門的になっていくそうだ。


「知られたくない秘密があるから、武器関連を1社に絞っているのかもしれないな。急速に武力も増強しているようだし、それが魔獣に向けられたものならいいんだけど……」


 この言葉を聞いて、私はハッとなった。この家に来て平穏な日々に慣れて周辺貴族の軍備について気にかけてこなかった。帝国なら弱い領地に侵攻するのはよくある事。魔獣の脅威が増したわけでもないのに、軍備だけ増強するのは要注意だわ。


「あなた、軍事侵攻があった場合、防衛はどの程度できるのですか」


「4つの町でそれぞれ、魔獣と対人の訓練はしているけど、人による侵攻はあまり考えていない。それぞれの戦力をまとめて対抗するか各町で籠城するかだろう」


 町には魔獣避けの城壁があり、それは対人にも通用する。戦力をまとめるなら私達ロヴァーユ家が率先して指揮をとらないといけないだろう。それが貴族の務めだもの。

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