第82話 宮殿2

 その後、数日間は宮殿内や街中を見せてもらった。宮殿の庭にある神龍族の像はギアデス様じゃなくて、キイエ様だと言う。その周りの4人の像が大陸から渡って来たミカセ家の方々を模した像だと言う。


「俺がここにいるのに、俺の像を建てるなど恥ずかしいじゃねえか。だからキイエの像を建てさせたんだ」


 国を守る象徴として神龍族は敬われているそうで、この庭にもその像が欲しかったそうだ。ギアデス様はキイエ様に花を持たせてやったと言っておられたけど、お二人はよほど仲がいいのだろう。


 この国は平和で素晴らしい国だわ。人々も親切で優しい人が多い。食事も美味しいし、技術も進歩していて、魔道具の改良も自分達で行っていると言う。


「でもなぜ女王ではなく、他国には王であると言っているのですか」


 女王様に聞いてみたことがある。


「まだ年も若く女性であれば他国に侮られと言われてな。私も130歳を越えておるから、そろそろ女王と発表してもいいだろうとは言っておるのじゃがな」


 130歳とは思えない様な幼い顔立ち。先代の王は200歳の若さで亡くなったと言ってたから相当の寿命なのね。やはりドリュアス族は神秘の種族だわ。



 そんな女王様からセイランが呼び出された。私も一緒について行ったけど、そこは前とは違い側近達が並ぶ会議室のような部屋だった。


「セイランよ。モリオン国将軍がなぜ我らに仲裁を求めたのか、その経緯について教えてくれるか」


 女王様の言葉にセイランは、しばし考えをまとめているようだった。


「我が国はビラマニ国との長きにわたる紛争があり、現在は国境で一進一退を繰り広げております」


 まずは現状の確認を行う。このアンデシン国は中立であるが何もしていない訳ではなく、各国の動静について情報収集は常にしているはずである。それに対する質問は無く、現状の理解はできているようだわ。


「紛争終結のため王国に対して、さらなる武力の輸出を求めております」


 それに対して、側近の一人が口を開く。


「武力による解決。それができなくなって我らに仲裁を求めてきたのか」


「武力の輸出は輸出元の王国中枢部に出しておりますが、その詳細は拙者には知らされておりませぬ」


 女性の側近も質問する。


「あなたは特使としてここに来られたはず。そのような情報も持たずに来られたのか、それとも隠しておられるのか」


 モリオン国に武力強化の意思があり、輸入武器による戦乱拡大を懸念しているその質問には答えず、セイランは先を進める。


「王国に滞在しておりました拙者に対し、ミカセ家当主に同様の協力を求めるよう指示され御当主と話し、その返答を将軍様の元に持ち帰り申した」


「そなたが、ミカセ家と縁を持つ者というのは女王陛下から聞いておる。だがそれも断られたのであろう」


 私達はここに仲介を頼みに来ている。そこから導き出せる当然の推測だ。


「ミカセ家当主ゲンブ殿は、紛争終結後に最大限の協力をする用意があると申されました」


「終結後に協力?」


「ゲンブ殿は紛争の根源を絶ち、恒久の和平を目指すとおっしゃられました」


「そのような事ができるのか? ビラマニ国は過去、何度条約を結ぼうとも、それを破棄し紛争を仕掛けてきておる」


 ビラマニ国は我が国だけでなく、アンデシン国にも国境問題を抱えていて、紛争の絶えない国だ。大陸の3大国家の中では国力は一番小さく、他国に飲み込まれないように常に武力強化している。


 その議論を聞いていた女王陛下が口を開いた。


「我らドリュアス族が国を作り、中立であろうとしたのは、紛争に関わらず平和を求めた先人たちの知恵の結晶である。恒久の和平を目指すというのはゲンブ殿と同じ考えじゃ」


「それは長寿種であるドリュアス族だからできる事。長期の展望を持たぬビラマニ国やモリオン国に同じ考えは持てないであろう」


 長期の平和を得るために、この国は国全体でその方策を考えてきたのだろう。中立であることや他国との関わり方、もしかすると魔の森で国が覆われている事もその一環なのかもしれない。歴史の積み重ねがこの国を作っている。


 それを他国が真似するのは不可能だろう。


「ゲンブ殿は我が国だけではなく、この大陸全土においての和平を考えておられました」


 その言葉を聞き、女王陛下は少し考えてから話す。


「ドリュアス族が考えたのは、我ら一族の恒久平和じゃ。ミカセ家が目指すものはその先にあるもののようじゃな。そのための時間が必要という事かもしれん」


 女王陛下の言う事は抽象的過ぎて分からなかった。そもそも国の平和を武力以外の方法でどのように実現するのか私には分からないのだから。


「将軍もミカセ家からの書状で紛争終結の先の事を感じ取って、我らに仲裁の打診をしたように思う」


「女王陛下。それにしても鬼人族が一方的に折れるような状況では話がまとまらない事もあります」


「そうですな。終結後にビラマニ国、モリオン国双方に利があるというなら、ビラマニ国にだけ有利な条約を作成すれば不公平となり、我らの中立性が保てなくなります」


「だが先に利があるとしても、ビラマニ国は説得に応じないでしょうな。目の前の事しか考えない様な国ですからな」


 国同士の話し合いというのは、背後に軍事力や経済力のカードがあって、そのバランスで成り立つもの。一方が折れれば相手は際限なく自分に有利な条件を出してくるだろう。


「今、海洋族が動いておる。セイラン。ミカセ家は海洋族とつながりはあるのか」


「ミカセ家なのかは分かり申さぬが、家族の者は自由に船に乗る事ができまする。海洋族と人族は昔からの盟約があると聞いております」


「なるほど、ミカセ家は海洋族と人族として繋がりがあると……。人族の国との交流もあるのか?」


「ミカセ家の長女様は人族の国にて巫女の仕事をしていると聞いております。浅い繋がりではないと思われまする」


「ミカセ家は既に動き出しているのかも知れぬな。ならば、今後の海洋族の動きを見た方がよいであろう」

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