第19話 呪われた魔道具
ある日、お店に奇妙な魔道具が持ちこまれた。ランプのようでもあるけど、上にも下にも黒く丸い球体が付いている。手で握れる棒のような物でつながっていて、鉄アレイのような形をしている。
「これは呪われたランプなんじゃ。ここに指を置いて魔力を流すと光るはずが、全然明るくならん」
「単に壊れてるだけじゃないの?」
ランプというのは、スイッチから魔力を入れると光が出るという魔道具。
ここは、何でも屋だけど魔道具なんかは取り扱ってないわよ。
「ところが、これの持ち主だった者が、魔力を流してこの球体を見ていると、急に目の前が真っ赤になったと言って倒れてしまったんじゃよ」
その人は危うく失明する寸前で、まだ目が痛いと治療を続けているそうだ。
これを持ち込んだのは骨とう品屋のご主人。売った先々でそのような事が起こり、何回も返品されたと言っている。
「これはどこのお店で買ったのよ。そのお店に文句を言えばいいじゃない」
「これは旅の行商人から買った物なんじゃ。その時はこの球の中に精霊が宿り、魔力を与えると青や黄色に輝く幸運のランプだと言っておった」
もうその行商人は王都を離れて、何処に行ったのかも分からないと言っている。確かに古そうな物でいわくありげな物だけど。
「でもこれが魔道具なら、この王都で管理しているんでしょう。どんな製品か魔道具屋さんに聞いてみたら?」
「魔道具屋へも行ってみたんじゃが、カタログを見ても、そんな製品はないと言われてな」
魔道具には危険な物だったり、外国に輸出してはいけない物もあるため、王都で一括管理している。王都の魔術師協会が許可しなければ、製造も販売もできない。
「それでこれを私達にどうしろと言うの?」
「もうワシはこれを売るのを諦めた。できれば、これを封印して誰の手にも渡らないようにしてもらいたい」
いわくある商品を購入した自分が悪いと、お金を支払ってでも私達に処分してほしいと言ってきたのだ。
壊してもいいし、遠くの山に埋めたり、深い海に沈めてもいい。人の手に渡らないようにして欲しいと言っている。そしてその際に私達が呪われることがあっても、骨とう品屋の主人としては一切、関わりたくないとの事だ。
なんだか奇妙な依頼だけど、私は引き受けることにした。この主人とは誓約書も交わして、この呪われた魔道具を譲り受け、その処分は私達に委ねられた。
「ねえ、シンシア。この魔道具、どう思う?」
「そうね、呪われているかは分からないけど、魔力を入れるスイッチはあるし、魔道具であることは確かね」
「でも王都で管理していないような物よ」
「この先端の丸い球を切断してみて、中を確かめたらいいんじゃない」
「ユイト、何言ってんのよ。そんな事して本当に呪われたらどうすんのよ」
さっき、球の中に精霊がいるって説明したじゃん。ほんと、ユイトは呑気な事ばかり言って。何も考えてないのね。
「拙者の国では、古い物には神が宿ると言われている。邪神の場合もあるからな、下手な事をすれば何が起こるか分からぬぞ」
「セイランの国では、こういう場合はどうしてるの?」
「宗教施設でお祓いをして燃やすなどしているな。強い力の邪神の場合は封印して土に埋めるか社に祀るかだな」
「そんな事、王都ではできないわね」
やはり遠くの山の中に埋めてしまった方がいいのかもしれないわね。
「メアリィ。これを少し調べさせてくれないかしら」
シンシアが家に持ち帰ると言い出した。
「そんなことして大丈夫なの。呪われて失明するかも知れないのよ」
「スイッチから魔力を入れなければ、大丈夫だと思うの。お父さんに見てもらうわ」
シンシアのお父さんは、小さな工場の社長さんだ。魔道具製造にも関わっていると聞いたことがあるわ。
数日後。シンシアから例の魔道具がどうなったか様子を聞いてみた。
「お父さんが、もう少し調べたいって言っているの」
「本当に大丈夫なの。危険なことはしていない?」
「ええ、大丈夫よ。魔力は入れていないから心配しないで」
シンシアのお父さんって、オカルト好きだったのかしら。でも、少し心配ね。明日は休みだし、今日の仕事が終わったらシンシアの家に行って詳しく聞いてみましょう。
「やあ、メアリィちゃん。久しぶりだね。お店は上手くいってるかい」
シンシアの家にはよく泊まりに行ったり、家族の人と食事したりいつも良くしてもらっている。
「はい、お陰様で何とかやれてます。それより呪われた魔道具、大丈夫なんですか」
「ああ、あれは中々いい品だね。今、トムソンの所で調べてもらっているんだ」
いい品? トムソンさんって誰?
「ちょうど、トムソンが来てくれたみたいだ。シンシアも一緒に話を聞いてみよう」
このトムソンさんって人は、商売仲間のガラス職人だそうだ。頑固そうな猪の獣人の人だった。
「これは、とんでもねえ代物だな」
トムソンさんが、呪われた魔道具をテーブルの上に置く。その魔道具はきれいに洗浄されていて、スス汚れていた上下の丸い部分もキラキラ輝いていた。
「そうだろ。俺もここの溶接部分を見て驚いたんだ」
シンシアのお父さんが言うには、全体が鉄でできた製品だそうだ。丸い球が繋がっている部分は溶接されているそうで、その技術がすごいらしい。見せてもらったけど、何がすごいんだか私にもシンシアにも分からなかった。
「それよりも、この丸い球に埋め込まれているレンズ。こんな精密な物は見たことねえ。どこの誰が作ったか知らねえが余程腕のいい職人だろう」
「レンズって、あのメガネとか遠見の魔道具に使われているガラス?」
「おう、そうだ。それがこの丸い球の所にいくつもはめ込まれている。こんな小さな物は初めて見た」
レンズは精密な物で、1つ作るのもすごく時間がかかるものだという。確かに遠見の魔道具は私も持っているけど、すごく高価な物だ。それがこれにいくつも使われているという。
今まで汚れていて分からなかったけど、きれいに洗われた魔道具の球の部分でキラキラしているのがレンズらしい。
「メアリィ。私の部屋でこれを動作させてみましょう」
「危なくないかな」
「これはちゃんとした魔道具よ。呪われてなんかないと思うの」
そう言うならと、部屋にふたりっきりで魔道具を机の上に置いて実験してみることにした。
「じゃあ、魔力を入れてみるわよ」
スイッチに指を置いて、ランプと同じように魔力を入れてみる。
「何も起きないわね」
骨とう品屋のご主人が言っていたように光ることはなかった。やはり壊れているのかしら。
「少し部屋を暗くしてみましょうか」
部屋の明かりを消してみた。
「うわ~! なにこれ」
暗い部屋の中、壁いっぱいに小さな光が映し出される。
「これは星空じゃないかしら」
シンシアの言う通りだ。壁に映し出されたのは天の川が十字に交わる見慣れた夜空だわ。それがこの魔道具から出る光できらめいて壁一面に映し出されている。
「すごく、綺麗」
部屋にいながら夜空を眺めることができるなんて……。
魔道具にはすごい物がいくつもある。私も発明できないかと考えたことがあるけど、これは発想が全然違うわ。私も魔道具について少しは勉強した。けれど魔道具を作るには、裏打ちされた確かな理論と高い技術力が必要な事を知った。
これを作った人は天才……、いいえ、星を愛した人なんだわ。
こんな綺麗な映像を映し出す高度な技術を、星を見るためだけに費やすなんて。
いったいどんな人が、どんな思いでこれを作り上げたのだろう。
私の知らない古い時代に、これを作り出した人の思いを胸に、部屋に広がる素晴らしい夜空を私は眺め続けた。
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