第62話 お姉さんの討伐参観

 翌朝早くに、軍用列車に乗って北の町の魔獣討伐へと向かう。


「この列車、人族の国の列車に比べ遅いというのに、振動が激しいな。これならセミューに乗って先に行っておれば良かったぞ」


 どうも乗り心地は悪いようだけど、まあ半日程なので我慢してもらおう。私達は、到着後の討伐について打ち合わせをしておく。


「ユイトは向こうに到着したら、すぐにキイエ様を呼んで機動甲冑を着ておいてね。今日はお姉さんに見学してもらうけど、後方のミルチナと一緒にいてもらうわ」


 ユイトのお姉さんは、魔法が得意で剣も使えるそうだから危険はないだろう。でも防具も付けずに、セイランが鎧の下に来ているようなゆとりの大きな布の服。少し不安だわ。


「イズホさん。防具なしで大丈夫ですか」


「平原近くの魔獣なのじゃろう。籠手程度は着けるが、それぐらいで十分じゃろう」


 まあ、あの村の魔獣に比べたら大したことは無いんだろうけど……。


「イズホ殿の剣は刀で御座るな。それも水紋刀なのですか」


「おぬし、水紋刀を知っておるのか。するとそなたの刀も水紋刀なのか」


「先日村を訪れた際、ゲンブ殿に加工していただいた物。お父上には感謝いたしております」


 イズホさんの腰には、セイランより少し短い刀が左右に2本差してある。二刀流という流派で戦うのだと言う。


「ユイトはお姉さんが見てるからって、張り切りすぎて無茶しないでよ」


「うん、お姉ちゃんに怒られないようにするよ」


 現地に到着して、私は軍の隊長さんと打ち合わせをして受け持つ区域へと移動する。


 後方にはキイエ様と今日はセミュー様も一緒だ。その足元にミルチナとイズホさんに居てもらう。


「おお、その遠見鏡。ワレらの村で作っている物だな」


「ええ、お店の備品を貸してもらってます。この魔道具すごくよく見えて助かってます」


「そうじゃろう。ガラス職人が丹精込めて作っておるからな。しかしおぬしは小さいのに、こんな森の近くで怖くはないか?」


「はい、いつもキイエ様が側で守ってくれていますし、大丈夫ですよ」


 後ろではキイエ様とセミュー様も親子で和やかに話していて、何だか家族でピクニックに来ているような雰囲気だわ。


 森を監視していたミルチナが魔獣を発見したようね。


「メアリィさん、正面の森の中。フェンリルウルフの群れと左手に灰色熊ですね」


「じゃあ、ユイトとセイラン、前に出て。フェンリルから倒していくわよ」


 いつもの陣形で森に向かって魔法を放ち、フェンリルウルフをおびき出す。少し大型の狼だからユイトは抑えるので精一杯のようね。


「もっと、ドッカンと魔法を撃って、パパッパと斬れないのかえ」


 いつの間にかユイトのお姉さんが私の横に来て話しかけてきた。


「あ、いや、左手の熊も刺激しないように戦わないと……」


「何だかまどろっこしいのう。ワレが前に出ても良いか」


 そう言うなり、ジェットブーツを使って前線へと走って行った。

ユイトが戦っている3匹の狼の魔獣をあっさりと倒して、手振り身振りで剣の使い方をユイトに教えているようだ。セイランを指差しユイトを援護に向かわせる。


 その後ろからユイトのお姉さんは腕を組んで見ているわ。するとフェンリルウルフの1匹がユイトの横を抜けた。魔法を撃って倒そうと思った瞬間。


「トルネイド!」


 砂埃と共にフェンリルウルフが空高く舞い上がり、地面に叩きつけられもう動かない。イズホさんの魔法だわ。


 ユイトとセイランが魔獣を倒しきると、イズホさんが森の中を指差す。灰色熊の魔獣も倒しに行くようね。


「私もそっちに行きますね」


 熊の魔獣は森の中で倒した方がいい。みんなで森に向かおうとしたらイズホさんが森に向かって巨大な岩魔法を放った。地響きと共に森の木が倒されて、地面に大きな穴が開く。


 驚いた2匹の灰色熊が森から出てきて、私達に向かって走って来た。


「なんてことするのよ!」


「う、後ろからも牛の魔獣が3頭やってきます」


 ミルチナが後方で叫ぶ。牛の魔獣まで!


「フレイムサークル」


 走ってくる熊の魔獣と牛の魔獣の間に、炎の壁が立ち上がる。その炎の壁は牛魔獣を取り囲み、その足を完全に止めさせた。


 前を行く灰色熊はユイトとセイランに向かう。平原に出て走る熊は速い。セイランは魔法を撃ちながら牽制しつつ近づいて、すれ違いざまにクマの頭を切り落とした。ユイトは前傾姿勢で熊とぶつかり足を止めて、大きな剣を下から振り抜き腹から肩にかけて切り裂いた。


「あの牛の魔獣はワレに任せよ」


 ユイトとセイランは連続の戦闘で疲れている。私とユイトのお姉さんとなら牛魔獣であっても倒せるかもしれない。


 私はジェットブーツを使って前衛付近まで移動する。


「私も戦います」


「そうなのか。それなら1頭はそなたに任せよう。頼むぞ」


 そう言って、火の壁を消し去った。2頭が向かってきて、1頭は混乱してその場でグルグル回っている。

ユイトのお姉さんが高速で前に走り出す。私は後ろで混乱している魔獣にありったけの魔法をぶつける。


 ユイトのお姉さんは腰に刺した二本の刀を抜刀し高速で牛魔獣に迫る。牛の正面、角に引っ掛けられたと思った瞬間、体をひらりと回転させて首をはねる。


 後方から迫る魔獣の目の前で飛び上がっり、魔獣の背中の上でクルリと1回転して着地する。その時には既に牛魔獣の鼻から額が2つに割られていて絶命していた。


 ジェットブーツを使ったのだろうけど、舞うような動きに見惚れてしまう。村でセシルさんに見せてもらった演武と同じだわ。そしてあの大きな牛魔獣を2本の刀で切り裂く剣技。横にいるセイランも驚いていた。


 魔獣は全て倒した。平原に倒れている魔獣をユイトに回収させて、キイエ様の居る後方へと下がる。


「あの、イズホさん。もうあんな無茶はやめてもらえませんか」


「そうなのか。一度に魔獣を倒せると思ったんじゃがな。パパッパと斬り倒せたであろう」


 やっぱりあの村の人は非常識だわ。

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