第85話 試験航海

「ハウゼル艦長。アルガルド大陸沿岸に住む海洋族との連絡が取れました」


 乗組員が艦長に報告する。


「フム、予定通り島に入る準備はできているようだな。島周辺にリヴァイアサンが出没しているのか。イズホ殿を呼んできてくれるか」


 ここは空母の艦橋。海の状況が見て取れる場所。


「艦長。また魔物が出たようじゃな」


「目的の島まで、全速ならあと半日もあれば到着できるのですが、その手前で魔物の情報がありましてな。魚雷はどのような感じですかな」


「こちらの試験データはほぼ取れた。これまでに3発の不発弾を出してしまってすまなかったな」


「いやいや、イズホ殿。今まで倒せもしなかった巨大な魔物を魚雷で倒せております。あれだけの戦果があれば十分です」


「村から連れてきた技術者が、魚雷の誘導装置と駆動系の調整を既に済ませてくれておる。帰りの分を含め数も十分あるからな、今回5、6発打っても問題はないぞ」


「前回倒したオクトパスを餌にして海上におびき寄せるつもりです。海面に上がって来たところを、爆撃機による爆雷攻撃を中心にして魚雷で最後のとどめを差します。2発もあれば仕留められるでしょう」



 完成した空母で外洋に出て25日が過ぎた、そろそろ新大陸が見えてきてもいい頃だと思うんだけど。

空母の甲板で海を眺めていたら、イズホがやって来た。


「セミューよ。もうすぐ島に着くらしいが、その前に魔物退治じゃ。オクトパスの死骸をこの先の海上まで運んで欲しんじゃが」


「あの足がいっぱいある魔物ね。あれ、美味しかったのに捨てちゃうの?」


「リヴァイアサンという魔物をおびき寄せる餌にする。ちともったいないが、あれならすぐ引っ掛かるじゃろう」


「その魔物ったどんな奴なの? 美味しいのかしら」


「何でも背中にドラゴンのような硬い鱗を持っていて、翼は無いがお前とよく似た姿をしとるそうだぞ」


「なによ、それ。私とよく似た魔物? そんなの食べられないじゃない」


 仕方ないわね。言われた通り浮きを付けたオクトパスの死骸を運んで、海上に浮かべる。

しばらくすると海深くから何かが浮上してきた。あいつがリヴァイアサンね。海上の餌に食らいついたと同時に、私と一緒に飛んでいた飛行機が急降下して一斉に爆雷を投下する。


 爆雷は魔弾を水中で爆発するように改造した物で、直接魔物に当たらなくても海中からの爆発で相当なダメージを与える。海上には水柱が何本も立ち上がり、その中で魔物がのたうち回っている。


 少し大型の爆撃機から魚雷が投下されたようね。海中を走る魚雷の白い帯が魔物の左右から挟み撃ちにする。

海深くに逃げようとも、追いかけて先端に詰めたいくつもの魔弾で確実に仕留める。


 ひと際大きな水柱が2本立ち上がり、魔物が腹を上にして浮かび上がってきた。


 海のドラゴンだって言ってたけど、川にいるワニを大きくした様な魔物じゃない。知性の欠片もないこんな奴と一緒にするなんて失礼ね。帰ったら文句を言ってやらないと。



 その翌日。空母は目的の島に到着した。ここまで来ると新大陸が見える。鐘1つも掛からずに陸地まで行ける距離だそうだ。小さな島だけど空母が停泊できる港があり海洋族の人も沢山いる。


「お~い、セミュー。おまえギアデスと言うドラゴンを知っておるか」


「ギアデス? あ~、そういえばキイエ父様のお友達だって聞いた事があるわね」


「そのギアデスが、ワシというかミカセ家の人間に会いたいそうじゃ。アンデシン国の王の話を聞いてほしいと言ってきておる」


 新大陸の沿岸に住んでいる海洋族から、そのような連絡が入っているそうだけど、私達の事を良く知っているようね。私はギアデスおじさんの話は聞いてるけど会ったことは無い。こんな遠くまで来たんだから一度会っておくのもいいわね。


 空母は海岸線近くに住む海洋族への挨拶と、周辺調査のため大陸に近づくと言う。それに合わせてギアデスおじさんに来てもらう事にした。


「待ち合わせはこの海岸付近のはずだけど」


 指定された時間に、大陸の海岸線辺りを飛ぶ。


「お~い、そこのドラゴンはセミューか」


「は~い。ギアデスおじさんですか」


「こっちに来てくれ。飛びながらというのも落ち着かんだろう。ちょうどいい止まり木がある」


 おじさんと一緒にこの辺りで一番高い所に止まる。


「初めまして、ギアデスおじさん。私がセミューです。おじさんの事は父様から聞いています」


「すまんな。こんなところに呼び出して。背中に乗せているのがミカセ家の者か?」


「ワシはイズホ ミカセだ。何やら王がワシに話があるそうだな」


「そうなんだ。アンデシン国の宮殿まで来てくれんか」


「こちらの大陸では、鬼人族と有袋獣人族が争っていると聞いているが、それに関する事か」


「ああ、紛争を解決するため仲介してくれと鬼人族から頼まれている。頼みに来たのはセイランという女剣士だ。セミューとは面識があると言っていたが、イズホも知っているか」


「セイランか! 王国で一緒に働いて剣の稽古をした仲じゃ。元気にしておったか」


「ああ、俺も戦って足を少し斬られちまった。あいつは強いな」


「そうじゃろう。なかなか見どころのある奴じゃ」


「今はもう、国に帰っちまったが女王も気に入って宮殿に泊めていたんだぜ。おっと、対外的に王となっているが実際は女王だ」


「そうなのか。おぬしの国に行くのはいいんじゃが、先に有袋獣人の国、ビラマニ国というのを見ておきたいんじゃが」


「それなら、ここがビラマニ国の首都だ」


 高い所で気持ち良かったんだけど、ここはビラマニ国の偉い人がいる建物だったのね。下で騒いでいるのが有袋獣人の人達か。


「それでか。さっきから下の方でうるさくしてる連中がおると思っておったのじゃが」


「有袋獣人族は、腹に袋を持つ獣人でな、今の首相はウォンバット族の男だったはずだ。見に行ってみるか」


「いや、もう良い。父上にどのような種族か見て来いと言われただけなんでな。どうも歓迎はされておらぬようじゃ」


 下にいた有袋獣人達が弓や魔法で攻撃してきた。


「こいつらは好戦的でな、俺達に対しても攻撃を仕掛けてくる。まあ、この程度では届かんのだがな」


 攻撃はドラゴンの鱗や羽ばたく翼の風でことごとく跳ね返される。私達が攻撃されたのを見て沖合にいる空母から飛行機が飛んできた。3機の編隊飛行で高速に接近し、この建物近くで私達の周りを旋回する。


「ほう、これがセイランから聞いた飛行機というものか。なかなか早く飛ぶものだな。下の連中も驚いて攻撃すらしてこなくなったぞ」


「この国で飛行機を見るのは初めてじゃろうからな。この大陸ではまだ領空という概念はないからな、飛ぶだけなら問題はないじゃろう。では、お前の宮殿へ行こうか。案内を頼むぞ」


 飛行機のパイロットに私達がアンデシン国の宮殿へ行く事を伝えて、 ギアデスおじさんに付いて飛んで行く。

遠くに見える山々。山腹から山頂にかけて白い雪が降り積もり高い山脈であることが分かる。あの山を越えた先にアンデシン国の首都があるらしい。


 その国はドラゴンの故郷にも似た緑多き場所だと言う。海の上ばかりで飽きてきたところだったし楽しみね。

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