第45話 稽古 セイラン1

 村の魔獣討伐を見せていただいた帰りの馬車で、拙者はゲンブ殿に願う。


「拙者に稽古をつけて下さらぬか」


 ゲンブ殿は快く拙者の申し出を受けてくだされた。

1対1は不得意と言っておられたが、拙者が見る限りそのような事はないであろう。


 家の裏庭、短く刈られた草が一面に生えている場所。おそらく武術の稽古や鍛錬が行われている場所であろう。

稽古用の木の剣も用意されていて、刀の形の木刀が何本もある。王国では鬼人族が使う刀は無いと聞いていたがここでは普通にあるのか?


 我が刀と同じ重さの木刀を選び、一礼をしゲンブ殿と向き合う。


 こうして1対1で向き合うと、ゲンブ殿の強さがよりはっきりと分かる。普段より隙の無い動きをしておられたが、片手で剣を下に構えられた自然体の構に隙を見つける事ができない。


「それなら、こちらから行こうか」


 ゲンブ殿が動いたと思ったときには、すでに間合いを詰められ打ち込まれていた。下から来るであろう剣筋を予測していたが、防ぐだけでやっとだった。


 剣を跳ね上げられて胴への攻撃を仕掛けられる。剣を返して体全体で受け止め何とか凌ぐが、次から次へと攻撃される。


「フゥ~」


 何とか一連の攻撃を凌いで一息つく間が生まれた。今度はこちらから攻撃せよという事か。確かにこのままでは稽古にはならぬ。一歩踏み出し打ち込む。まだ間合いが遠いのか避けられた。さらに一歩踏み出し打ち込む。片手で剣を受け止められる。


 我とて国元では道場の副師範代として名を上げている。引き下がるわけにはいかぬ。連続で攻撃を仕掛ける。

やはりゲンブ殿はお強い。拙者の攻撃を難なく受け止めておられる。


 今度は腰の脇差を抜いて二刀流の構。王国では大剣を二本振るう流派があると聞いた事はあるが、これは鬼人族で用いられる二刀流ではないか。鬼人族の流派を心得られておられるのか。


 だがこれも待っていてはダメだ。こちらから仕掛けねば。拙者の打ち込む剣はことごとく受けられ、もう一方の剣を打ちこまれてしまう。拙者の動きの甘い籠手、踏み込みの浅いすねや腰の部分へと的確に当ててこられる。


 昔、師範に稽古をつけてもらった時のように、拙者の弱点を指摘してもらう。修正をし、再度打ち込む。悪きところを修正し、また打ち込む。これは良い稽古をさせてもらっている。誠にありがたいことだ。


 稽古を終えて一礼する。ゲンブ殿が一連の稽古で拙者の未熟なところを教えていただいた。


「剣に重さが感じられなかったな。腕力と言うものではないんだが、一太刀、一太刀に気迫がこもってない感じだな」


 拙者は女ゆえ、男剣士に比べ腕力が無いのは分かってはいるのだが、腕力の問題ではないと申される。


 ゲンブ殿の言われる通りに右に木刀を立てて構える。今まで片手で剣を扱ってこられたゲンブ殿が両手で剣を構えた。

そして一閃。


 剣筋は見えた。そして拙者はその剣を受け止めた。木と木がぶつかり合う甲高い音。確かに受け止めたはずの剣が、拙者の刀を折り、鎧を切り裂き、体を両断する。


 何だこれは!? 体が震えた。

剣圧というものがあると聞いた。刀に込めた魂や剣士の気迫が剣に乗り、それだけで相手を切るという。おとぎ話や伝説に出てくる架空のものだと思っていた。


「未熟な拙者に奥義を見せていただき、ありがとうございました! ご教授、感謝いたす!」


 土下座し感謝を伝える。この様な奥義は、師範が跡を継ぐ者にだけ見せるもの。それを昨日今日会ったばかりの拙者に見せてくれるとは。


「ゲンブ殿がこれほどの剣豪とは知らず、軽々しく稽古を申し出たことお詫びいたす。見せていただいた高みを目指し精進する所存。今後とも良しなにお願いいたす」


「そんな大層な事じゃねえよ。あんたはユイトを守ってくれてるんだろう。その礼になればいいさ」


 そう言って拙者を起き上がらせてくれた。


「そうだついでに、こんなものも見せようか」


 ゲンブ殿が鉄の槍を持ってきて土の上に突き刺す。柄の部分まで鉄でできている重い槍だ。

一緒に持ってきたのは、先ほどの木の剣と同じ形の真剣だった。


「よく見てろよ」


 ――ブゥ~ン


 ゲンブ殿は両手で剣を構えて突き刺した槍に剣を振るうと、鉄の槍がものの見事に切断された。切り口を見ると鏡のように光った鉄の断面が見て取れた。


「これはいったい……」


 槍とは言え鋼でできた物。通常の剣で切れるはずなどない。


「まあ、これには仕掛けがあるんだがな」


 剣自体に鋼を切る力があると教えられた。そういえば切るときに剣が唸りを上げていたように思う。


「その剣は、魔剣でござるか!」


「まあ、そのようなもんだ」


 驚いた。伝説では鋼の武器を破壊したり、遠く離れた敵を斬るなどの魔剣があると聞いた事があるが実在していたとは……。


「この剣とは違う仕組みだが、あんたの刀もこんな鋼をも切れる刀に変えることができる」


「この刀を魔剣にできるのですか」


 目の前で見た魔剣の力。その力を我が刀に宿す事ができるのか。



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【あとがき】

 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回は、第43話のセイラン視点となっています。


 次回もよろしくお願いいたします。

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