第46話 稽古 セイラン2
この村は国元に無い高度な技術があるのは魔獣討伐を見れば分かるが、刀剣に関してもそのような技術があるのか。
「ちょっと刀鍛冶の所に行ってみないか」
半信半疑でゲンブ殿について家の外に出て、この村の刀鍛冶の工房へと行く。
「よう、テツジさんよ。今から水紋刀の加工をしてくれねえか」
出てきたのは50代半ばであろうドワーフ族の方。この方がここの刀匠だろうか。
「また、急な話だな。まあ、いつもの事だがな。で、どの刀だ。なまくらだと耐えられねえぞ」
ゲンブ殿に促されて拙者の刀を見せる。
「ほう、刃こぼれはあるようだが、いい刀じゃねえか。この柄の部分を全て変える事になる。重くなってバランスが変わっちまうが大丈夫かい」
木で作られた柄を鉄刀木で作り直すそうだ。鉄刀木は重く、鉄と同じ重さの柄になると言う。
「元に戻すこともできようか」
「刀身には一切手を付けねえ。特殊な工具はいるが外せるようにしておく」
「ならば柄を今より指幅2本分短くできるであろうか」
「ああ、構わんよ」
横にいたゲンブ殿も改造について話してくれる。
「それとな、セイラン。使いこなすには魔法制御の修練がいる。ここで改造したからといってすぐ使えるもんじゃない。それでもいいか」
「もしこの刀が魔剣になると言うなら、お願いしたい」
鉄をも斬れる魔剣。もし手に入るなら修練でも何でもしよう。
「ついでに刃の修理もしたいが、どうするね」
「いや、刃の研ぎに関しては……」
「まあ、一流の剣士なら自分の分身を簡単には預けられんだろうな。これは俺が打った水紋刀だ。これを見て決めてくれればいいさ」
確かに魔獣との戦闘で刃こぼれも多くなってきているが、刀身部分の修理や研ぎは、熟練した信用できる研ぎ師に出したい。この刀鍛冶師が作られたと言う刀を鞘から抜いて見てみる。
「この刀を、あなたお一人で打たれたのか」
「ああ、ここには俺一人しかいないんでな」
通常、刀打ちと研ぎ師は別の専門職だが、この刀は国元の一流の刀匠達による逸品以上ではないか。
「失礼つかまつった。是非に刀の修理をお願いしたい」
「おいおい、こんなところで土下座は止めてくれよ。ゲンブよ、その水紋刀でこの鬼人さんに練習させてやってくれ」
「そうだな。セイラン、こっちへ来な」
ゲンブ殿は拙者を立ち上がらせて、一緒に刀鍛冶の工房の外にあるベンチに座る。
「ゲンブ殿。ここの刀匠殿はほんとに一人で刀を打っているのですか」
「弟子がいたんだがな、今は独立して別の所で刀鍛冶をしている。テツジはここで自分の好きな刀だけを打って暮らしているよ」
そのような暮らし方もこの村ではできるのだな。
「この水紋刀もまだ試作だと言っていたな。改良して完璧な物を作りたいと、今もああやって刀を打っているんだ」
魔剣とは単に刀に魔を宿すものと思っていたが、刀自体にもこれ程の技をもって作られておるのだな。それを極めんとここでひとり技術を磨いておられる。素晴らしい生き方ではないか。
魔剣を作る刀匠が王国、いやこの村に居ようとは。やはり世界とは広いものだな。
ゲンブ殿から魔剣水紋刀の扱いを教えてもらう。
「この水紋刀には魔石が2個と魔道部品が組み込まれている。魔力を流すと刀身部分に水が張り付く」
刀を握らせてもらい魔力を流すと、確かに刃に薄く水が纏わりついている。
「この水を、魔力波を使って振動させる」
魔力波? はじめて聞く名だ。
「セイランも魔法を撃ち出しているだろう。あれは魔法を魔力の波に乗せているんだ。大きな波なら速く遠くへ、細かな波なら遅く近くに飛んでいく」
意識をした事は無いが、確かに魔法を撃ち出す速度を変える事はできる。
「その波をさらに細かくして撃ち出すのではなく、この水魔法を飛ばさずに振動させるんだ。見ていろ」
そう言ってゲンブ殿が刀を持ち魔力を込める。刃が白く光ったように見えた。ゲンブ殿は近くにあった両手で持てるほどの岩に刃を当てて一気に下に降ろす。
紙を鋭利なナイフで斬るがごとく岩が二つに割れた。切り口を見るとツルツルになっているではないか。刀の刃で斬ったのではなく周りの水で斬ったのか。
「まあ、水だけじゃなく刀身の刃先も振動するから、それで斬るんだがな。これだと鉄であろうが岩であろうが斬る事ができるようになる」
「これが、魔剣。水紋刀の実力か」
改めて、そのすごさに驚く。魔力波の練習方法を教えてもらい、修練することにしたがやはり難しい。
「一朝一夕にできるもんじゃねえよ。それと斬る瞬間にだけ発動させろ。刃にまとわりついている水魔法は霧散し長く持たんからな」
一太刀、一太刀に気迫を込める。先ほどの稽古でも言われていた事に通ずるものがあるな。この技、何としても習得せねばなるまい。
この水紋刀、必ず使いこなしてみせると拙者は決意する。
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