第11話 洞窟調査2
翌日。日が昇りしばらくして、夜警をしていたキイエ様に起こされた。
「メアリィよ。あの岩場にフレイムドッグの群れがいる。戦闘になるやもしれん」
フレイムドッグは炎を吐く犬型の魔獣。単体ではそれほど強くないけど群れだと厄介だ。
「ユイト、起きなさい。魔獣が近くにいるわ」
「う~ん。まだ眠いよ~」
「なに言ってるのよ。早く起きなさい!」
眠そうなユイトを叩き起こして、戦闘準備をする。魔獣は5、6匹といったところね。
「ユイトよ。あれしきの魔獣ならお前でも倒せるじゃろう」
「ええっ! そんなの無理だよ~」
「ユイトは炎に耐性のある盾を持っているんでしょう。前に出て戦いなさい」
多分、キイエ様はユイトに経験を積ませるために戦わせようとしているんだわ。1、2匹をユイトに任せて後は私が倒せば大丈夫ね。
「アイシクルランス!」
弱点である氷の槍を飛ばす。するとフレイムドッグは難なく躱してこちらに走ってくる。
「素早い奴ね」
「メアリィよ。あ奴らは真上からの攻撃に弱い」
なるほど。槍を水平じゃなくて上から落とせばいいのね。フレイムドッグが炎攻撃を仕掛けてきた。ユイトの周りに氷の壁を2枚作る。この氷の壁は魔力を多く消費してしまう。後1回が限界ね。
立ち止まって炎を吐いている今がチャンスだわ。キイエ様の言うように氷の槍を放物線を描くように上空に向かって放つ。
「アイシクルランス!」
今度は避けることができずにフレイムドッグが串刺しになって地面に倒れる。残った魔獣がユイトに襲い掛かった。
「ユイト!」
ユイトは盾で魔獣を防ぎつつ、ナイフで切りつける。接近攻撃には弱いのかフレイムドッグは悲鳴をあげて後ろに飛び退いた。ユイトは無茶苦茶にナイフを振り回しているけど、何回か切りつけることができているようだわ。
その隙に横に回り込んで、魔法攻撃を仕掛ける。残りは2匹。側面から1匹倒して、こちらに注意を向けた残り1匹をユイトが仕留めた。
「ユイトもやればできるじゃない」
そう思ってユイトに近づこうとしたら、後ろの洞窟の方から鳴き声と共に何かがやってくる。
「キャー! 何よ、こいつら」
緑色をしてゲコゲコと鳴きながら飛び跳ねてくる生き物。人の腰まである大きさのカエルが大群になってこちらに向かって来た。
私はとっさに岩陰に隠れたけど、ユイトがカエルに体当たりされている。何十匹ものカエルが通り過ぎた後には、粘液まみれのユイトが地面に突っ伏していた。
「大丈夫? ユイト」
「う~ん。いっぱい蹴られて、あちこち痛いよ~」
顔やら腕が少し赤くなっているみたいだけど、その程度なら大丈夫そうね。
「先に魔獣を解体して、魔石だけでも取っておきましょう」
倒したフレイムドッグの胸辺りにナイフを差し入れ、魔石を回収して死体を山の下の森に向かって投げ捨てる。これで他の魔獣が血の臭いで近づくこともないでしょう。
「あんた体中粘液でドロドロね。小川で装備と一緒に水浴びしてきなさい。その間、私が朝食を作っておくわ」
「うん、そうするよ」
それにしてもあの大量のカエル、たぶん昨日も洞窟の奥の池に隠れていたんでしょう。外の騒ぎに驚いて逃げ出してきたようね。緑色だったから魔獣ではない普通の臆病なカエルね。黒や赤や紫のカエルは魔獣で毒を持っているものもいるみたいだけど、そんな魔獣じゃなくて良かったわ。
岩場に生息するフレイムドッグもそうだけど、私達が魔獣の縄張りに入り込んだから襲って来たんでしょうね。ここら一帯は魔の森に囲まれた魔獣達の世界。私達獣人や人族の方が異物なんだわ。
「メアリィ、ありがとう。ご飯を食べよう」
「あれ、あんた頭にこぶができているわね」
さっき倒れた時に、頭を打ったのだろう。私の光魔法を当てて治療する。
「ありがとう、メアリィ。やっぱり全属性使える人はすごいや」
全属性が使えれば攻撃も治療もできる。何でも屋で仕事するにはすごく便利だ。こんな特技を持たせてくれた両親には感謝しないと。
「ついでよ、さっき蹴られたところも治療してあげるわ。上着を脱いで」
腕や背中、顔も蹴られて赤くなっている。一つひとつ丹念に光魔法を当てていく。
「あんたの体も、しっかりしてきたわね。やっぱり男の子はこれぐらい筋肉がついてないとね」
「メアリィのお店に住み込むようになって、しっかりと食事が摂れるようになったからかな。これもメアリィのお陰だね。ありがとう」
ニコッと屈託のない笑顔をユイトが見せる。なんだかドキッとしてしまった。
「ほ、褒めたって何も出ないわよ。さっさと朝食にするわよ」
「うん。いただきます」
少し遅くなったけど、しっかりと朝食を摂って洞窟内の調査をしないと。
昨日の調査の続きをするため、洞窟の奥へと進む。その途中でキイエ様が立ち止まった。
「ユイト。ここに何かあるな」
キイエ様の頭の上あたり、岩が崩れかけている所に何かを見つけたみたいね。
ユイトがキイエ様の手に乗ってライトを照らす。
「ほんとだ、何だろう。壁のような人工物があるよ」
人工物? ここに住んでいたという者の遺物だろうか。
魔術師協会からもらった地図を見てみたけど、この位置には何も書き記されていなかった。
「キイエ様。手前の岩を退けることはできますか」
「やってみよう」
上から順番に壁を崩すように岩を取り除いていくと、扉のような物が現れてきた。
「大きな扉だね」
「ユイトも扉のように見える?」
でも、扉にしてはあまりにも大きい。キイエ様の身長以上ある石の壁のような扉だ。彫刻のような物があり、真ん中で分かれているようだけど取っ手もツマミもない。
「キイエ様、少し押してくれますか」
「びくともせんな」
鍵でもかかっているんだろうか、少しも動く気配がない。それともただの石の壁に彫られた彫刻だろうか。
「ああ、これ引き戸だよ」
「ヒキド? 何それ」
「キイエ。その真ん中のへこんだ穴に指を入れて、こちら側に引いてみて」
すると石の扉が横にずれて中の空間が見えた。
「すごいわね。よくこんな扉のこと知っていたわね」
普通の扉は手前か奥に開くものだ。こんな横に開くのは初めて見た。
「うん、ボクの故郷の部屋にこんな扉の部屋があるんだ」
それでも半分ぐらいしか開かなかったけど、十分中の様子が見て取れる。これは新発見の遺跡に違いないわ。
ワクワクしながらライトを片手に中に入ってみる。
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