第39話 観光地2
「メアリィ殿。あそこの展望台で魔獣を見ることができるらしい。行ってみないか」
この牧場の中央付近の高台にある建物。それが展望台になっているそうだ。この近くから馬車が出ていて、牧場見学の人は無料で乗せて行ってくれる。
「安全に魔獣が見れると言うなら、この辺りの魔獣を観察してみましょうか」
何でも屋として、魔獣の知識を増やしておくことは大事だわ。他の観光客と一緒に馬車に乗り展望台に行く。丘のようになっている牧草地の一番高い所、そこに木で組んだ何十人も乗ることができる展望台があった。
展望台は3階建てで、1階に馬車を停めて階段で2階に登る。2階はおみやげ物を売っていたり飲み物などを売っているお店があり、その上が展望台になっている。
ここから見ると牧場一帯とその周りを囲む木の壁、その向こうには魔の森が見て取れる。
「あそこに、両目で見る遠見の魔道具がありますよ。あれで魔獣を見るんですかね」
展望台の周辺は木の柵で囲まれているけど、柵の近くに大型の両眼で見る遠見鏡が何台も設置してある。私の持っている遠見の魔道具の何倍もある物が1本足の支柱に取り付けてある。
「ここに銅貨を1枚入れると見ることができるみたいですね」
前のレンズにはカバーが付いていて、覗いても真っ暗なままだ。
「試しに、お金を入れて見てみましょうか」
銅貨を1枚入れると、カバーが開いて遠くの景色が見えるようになった。
「これはすごいわね。ミルチナも見てみなさい」
「ほんとですね。いつも見てる魔道具より、ずっと遠くが見えますよ」
セイランにも見てもらう。
「すごいな、森の中にいる魔獣がはっきりと見えるぞ。あそこにいるのは大型の亀の魔獣じゃないか」
「大型魔獣! 私にも見せて」
魔の森の奥地に入らないと現れないと言う、大きな魔獣。
「ほんとね。人の背丈の2倍ぐらいありそうな亀の魔獣がいるわよ。ミルチナも見てみなさい」
滅多に見れない魔獣だわ。これは見ておかないと。
「あれ、真っ暗になりましたよ」
前のレンズカバーが閉まって、見れなくなったみたい。時間が経つと勝手に閉まるのね。なるほど、そういう仕組みか。銅貨を1枚入れてミルチナにもう一度見てもらう。
「何処ですかね~。あっ、いたいた。亀の魔獣がゆっくりと歩いてますよ。すごい、すごい」
喜んでいるミルチナにはこの遠見鏡を使ってもらって、セイランと私は別の遠見鏡で魔の森を見てみる。
巨大な大蛇の魔獣もいた、狼魔獣の群れが獲物を捕まえているところも見ることができた。これは面白いわね。
一通り森を見てから私達は2階に降りて、アイスクリームを食べながら休憩する。牧場の牛乳から作ったそうで、濃厚な味わいですごく美味しい。
セイランが窓の外に広がる景色を見ながら話す。
「この地はすごい所だな。奥地の魔獣を見れる場所に牧草地があるとはな」
「ほんとね~。村だから危険なところだと思っていたけど、壁に守られた安全な場所のようね」
「メアリィさん。それに、あの遠見の魔道具、すごく遠くまで見れました。あれもこの村で造った物なんでしょうか」
最高級品の遠見の魔道具は、このシャウラ村製だ。多分展望台の魔道具も、ここで造っているんでしょうね。シャウラ村って、すごい技術を持った村なのかもしれないわね。
「メアリィ殿。森の奥地へ行けるツアーがあるようだぞ」
壁に貼られたポスターに『秘境の魔の森。奥地探検ツアー』と書かれている。半日かけて奥地の泉まで行って帰って来るらしい。当然護衛付きで安全に行けるそうだ。
「拙者は明日、あのツアーに参加しようと思う。ここから見た魔獣を直接見てみたい」
「そうね。面白そうね。もし危なくなっても。セイランと私がいれば何とかなるでしょうし」
「あの、あたしもついて行っていいですか」
「危険かもしれないわよ」
「このツアーで、奥地にある薬草も採ってもいいそうなので、珍しいハーブが手に入るかもしれないです」
ミルチナは食材用の薬草が欲しいのね。それなら一緒に行きましょうか。私達は明日のツアーの予約をここでする事にした。料金は1人銀貨15枚と少し高かったけど、予算的には大丈夫だわ。それにこんな体験、王都ではできないものね。
「そろそろ夕方ね。今日はこれで宿に帰りましょう」
帰り際におみやげ物屋さんに寄って、記念品などを買った。ミルチナは乾燥したマンドレイクの根やら、バターなんかを買っていたわね。
宿に戻ると、もうすぐ食事の用意ができると言われた。案内された部屋で少し休憩してから食堂へ行く。他の観光客の人達もいて40人程いるだろうか。私達の部屋番号の席に着くと、すぐに料理が運ばれて来た。
「うわ~。ここの料理は豪華ですね~」
ミルチナが驚くほど、いくつもの料理が綺麗なお皿の上に乗って盛りつけられている。
「確かにすごいな。拙者もこんな綺麗な料理は見たことがない。食するだけではなく目でも楽しませてくれるとはな」
この大きなエビは丸ごと茹でていて、左右の大きなハサミ、触角や目までそのまま残してる。薄切りのハムとサラダの盛り合わせも、花のような形にして彩りを考えて盛り付けているわね。ほんと、食べるのがもったいないほど綺麗だわ。
私達はワインで乾杯して、早速この料理を頬張る。
大きなエビは縦に2つに分かれていて、白い身をナイフで切り食べる。
「エビは豪快に手で食べた方が、美味くはないか? 拙者の国では手づかみで食べているぞ」
そう言ってセイランは手で押さえて身と殻を分けて、大きな身をそのまま口に入れる。
「確かにそういう食べ方もありますね。上品ではありませんが、それも美味しいかもしれません」
ミルチナもセイランの真似をして手づかみで食べている。
「このステーキのお肉はユイトの家で食べたのと同じみたいね。すごくおいしいわ」
赤身のお肉で、かけてあるソースは少し違うみたいだけど、昨日ユイトの家で食べたのと同じだ。
給仕の人に聞いてみると、牧場で育てられた牛のお肉だそうだ。近くで見てないけど牧場で放牧していたあの茶色い牛ね。
「さすが、食べるためだけに育てた牛なんですね。美味しいはずです」
「だがユイト殿の家庭料理でも、この肉を使っていた。こんなに美味しい肉をいつも食べられるとは羨ましいものだな」
「ユイトさんは、こんな美味しいものを食べていたから舌が肥えてて、料理が上手いんでしょうね」
「そうなのかしらね。でもこんないい村なのに、なんでユイトは王都に出てきたんだろう」
まあ、ユイトやキイエ様が来てくれたお陰で、私のお店は繁盛してるからいいんだけど。
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