第24話 魔獣のお肉

「じゃあ、今日は私とセイランで街道整備の護衛。ユイトとミルチナは山へ行って薬草の採取をお願いね」


「はい。ユイトさん、よろしくお願いします。山に入って薬草やハーブを採るなんて初めてなんですよ。なんだか楽しみですね」


 ミルチナには、ユイトと組んでもらって最初は簡単な仕事からしてもらいましょう。



 セイランと今日の仕事を終えてお店に帰ると、ユイト達はもう帰っていた。


「ユイト。討伐した魔獣のもも肉もらって来たわよ」


「ありがとうメアリィ。あ~、でもちゃんとした処理ができてないですね」


 まあ、襲って来た魔獣をセイランが切り倒して、死体は木陰に置いていただけだったしね。その後、解体業者に買い取ってもらって私達の食料用として、もも肉をもらって来た。


 ユイトがいる時は、その場で処理してくれる。この子、ナイフを使うのだけは上手いからね。


「ユイトさん。どのあたりの処理が悪いんですか。新鮮なお肉のように見えますが」


 ミルチナは、料理の事についてユイトに教わっているそうだ。料理の技術とかではなく、食材だとかその保存方法、ハーブなどの使い方など一から勉強し直すと言っている。


「ほら、この部分に血が溜まってここから腐敗が進んでいくんだ」


「なるほど。じゃあこれは乾し肉にしましょうか」


「そうだな~。ここの部位だけは、今夜の分として使って、後は燻製にしてみようかな」


「ああ、それはいいですね」


 二人は裏庭に行って、肉を洗ったり切り分けたりしている。仕事の合間に採ってきたというハーブや野菜なども洗って夕食の準備をしてくれる。


「今日の料理も美味しいわね」


「ユイトさん、料理の手際すごいんですよ。あのナイフの使い方、料理人であるあたしも見惚れるぐらいなんですよ」


「そんなことないよ。肉の焼き方なんかはミルチナの方が上手いしね」


「やだ~、ユイトさんったら」


 なかなかに、仲がいいのね、この二人。


「明日は、街道付近の魔獣討伐にユイトと、ミルチナも加わってもらうけど、ミルチナは魔法を使えるの?」


 最近は王都の外で街道整備をしてるんだけど、次の区間のすぐ近くに魔の森がある。そこの魔獣をあらかじめ討伐するのが明日の仕事だ。できるだけ多くの魔獣を狩るので全員の力が必要になる。


「あたし、全属性を使えますけど、魔力量は小さくて生活魔法程度しか使えません」


「全属性使えるの、すごいな~。じゃあ、治療の光魔法も使えるんだね」


「小さな傷程度なら治せますけど、病気とかそんなのは治せませんよ」


 そうよね。全属性が使えて魔力量が多ければ、魔術師協会から声がかかって魔術師学園に行ってるはずだもの。治療師とかだったら高収入でどこででも働けるものね。


「それじゃ、一番後方で見張り役かしらね」


 ミルチナには一番安全なところで、魔獣を見つけてもらいましょう。


「ミルチナ。それならボクの遠見鏡を使ってよ」


「遠見鏡?」


「遠見の魔道具よ。ほら、覗くと遠くの物が近くに見える魔道具」


 ほんとは魔道具じゃないから、正式名は遠見鏡と言うんだけど、一般には遠見の魔道具という名前で通っている。私も持っているけど、そういえばユイトが使っているのを2、3回見たことがあるわね。


「遠見の魔道具ってすごく高価な物なんでしょう。あたしが使ってもいいんですか」


「ボクは前に出るから、あんまり使わないんだ。村から持ってきた古い物だし、ミルチナが使ってよ」


「そうですか。じゃあ、ありがたく使わせてもらいます。ユイトさんの持ち物だし大切に使いますね」


 ミルチナはユイトからプレゼントされた物をもらうように、大事に両手で受け取っている。

いやいや、そんなのただの古い道具だし。それなら私の遠見鏡をミルチナに渡して、ユイトのを私が使って……。はっ! 私、何バカな事を考えてるの。落ち着きなさい、私。



 翌日、王都から少し離れた街道沿い。借りてきた小さな馬車を降りて森に近づく。キイエ様にも来てもらっているけど討伐には参加せず、一番後ろで見守ってもらう。


「じゃあ、ミルチナはキイエ様の近くで、森の中を見て魔獣を探してくれる」


「ミルチナ。この遠見鏡は、ここを回してピントを合わるんだよ」


 ユイトがミルチナに遠見の魔道具の使い方を親切に教えてあげている。私の持っている物と同じで片目で見るタイプだけど、少し大きくて型も違うみたいね。


「うわ~。あんな遠くの木がこんな近くに見えますよ」


 最初見た人は誰でも驚く。だから一般には魔道具として通っている。売っているお店も魔道具店だしね。


「どう、ミルチナ。森の中で動いている獣は見える?」


 ミルチナは魔獣の種類や、普通の獣なのか判別がつかない。とにかく動くものを見つけてもらって、その大きさや形、色などを知らせてもらうように言っている。


「あっ、あそこの奥の方に黒い熊みたいなのがいますよ」


 私もミルチナが言った森の中を、自分の遠見の魔道具で確認する。何か動いているみたいだけど森の中が暗くて良く分からなかった。


「あれ。小さな熊もいるから、親子かな」


 目がいいのね。ここからじゃ良く見えないわ。少し近づいて確認しましょう。ユイトとセイランに前に出てもらい森に近づく。


「確かに熊の魔獣のようね」


 熊の魔獣だったら、森の中に入って倒した方が倒しやすい。すると後ろからミルチナが声をかけてきた。右の方に狼の群れがいるという。ここからだと狼か犬か判別できないけど、先にそちらを倒した方がいいわね。


 右に移動して、魔法を撃って魔獣を平原に誘い込む。後はいつも通り群れを分断して順番に倒していく。左にいた熊は森の奥へと移動したようね。同時に出てこられると厄介だったけど離れていてくれて助かったわ。


 その後、大イノシシも倒すことができた。魔獣を倒すたびにユイトが解体し、近くの川に晒すなどの処理をしている。

今日のところは、こんなものかしら。


「ミルチナって、目がいいのね。あんな遠くの獲物を見つけるなんて」


「だって、この魔道具なら近くに見えるんですもの」


 まあ、そうなんだけど。ミルチナの持っている遠見の魔道具を貸してもらい、持ってみると私の物より随分と重い物だった。遠くの森の中を覗いてみる。


「なっ、何これ!」


 私の持っているのと同じはずだけど、見え方が全然違っていた。物がくっきりと見えて、森の中の暗がりも良く見えるわ。確かに外装に傷があって古い物だけど、これは高級品の遠見の魔道具じゃないかしら。なんでこんな高級品をユイトが持っているのよ。


 驚いて魔道具を覗いていると、ユイトとセイランが魔獣の処理が終わったと、こちらに歩いてくる。もう少し覗いてみたかったけど遠見鏡をミルチナに渡して、魔獣を馬車に積み込む。暗くなる前に王都へと引き返して来れた。



「すまんが、この大イノシシの肉。半分でもいいから買い取らせてくれんか」


 いつもの解体業者の元に獲物を運んで買い取ってもらう。大イノシシの肉は、私達の食料用とシンシアの家へのおすそ分けで持って帰るつもりだったけど、業者の人がどうしても買い取りたいと言ってきた。


「こんな上等な肉は、なかなかお目にかかれない。解体処理も完璧だ。これを高級料理店に卸せば高値がつく。頼むから置いて行ってくれんか」


 ミルチナが荷車に乗せているお肉と、解体業者を見ながら言う。


「確かにこのお肉は上質で新鮮です。このまま切り分けるだけで売る事ができるでしょう。ちゃんと適正な値段で買ってくれるんですよね」


「そりゃもちろんだ。あんたらとの取引を今後とも続けたいからな。ちゃんとした価格で買い取らせてもらうよ」


 確かに他のオオカミの肉もいつもより高めに買い取ってもらった。ちゃんと処理された肉だからだろうか。


「それじゃ、半分だけ買い取ってもらうわ」


「そうか、そうか。ありがとよ」


 思いのほか高値で買い取ってもらった。これなら全部売っても良かったかしらと思いつつ私のお店に戻る。


 かまどでは今日のお肉をどう料理するか、ユイトとミルチナが仲良く話している。できたお肉料理とスープはすごく美味しかった。高級料理店に卸すというだけの事はあるわね。こんな料理を家で食べられるなんて幸せだわ。

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