ネクストステージ
彼女が憤っている姿を、
「日葵さん、私のために怒ってくださるのね」
とはいえ、日葵としては六華のそんな感情なんて知る由もない。ただ、
麻辣鍋の具材をひたすらに平らげていた。そして、その中にある肉団子にも手をつける。肉団子はそれで最後だった。
「それこそ、第三の爆弾ですのよ」
西美濃は嬉しそうな笑顔を見せる。
そうしている間にも、鍋の具材を放り投げ、空気抵抗で冷まし、口でキャッチして食べるという、おおよそお嬢様キャラとは無縁と思える
しかし、西美濃の期待とは裏腹に、日葵は平然と肉団子を食べ終える。その中に入っていたのはワサビであった。ワサビはカラシと並んで慣れることの難しい辛味であり、当然、日葵もまた耐えられないと踏んでいたのだろう。しかし、日葵は厳しい修行の果てにその耐性も得ていたのだ。
「うん、美味しい。ここでワサビの利いた肉団子っていうのも気が利いてるかも」
日葵はニコニコと笑っていた。ワサビまみれの肉団子を楽しんでいるのだ。
「そ、そんな……」
西美濃は絶望的な嗚咽を漏らす。日葵の完食は目前だ。もはや、具材を投げてから食べている場合ではないだろう。
彼女は必死で麻辣鍋の具材を頬張った。だが、その
「あっ、熱っ!!」
その熱量、その辛味、それがダイレクトに伝わる。それまで、間接的にしか味わっていなかったのだ。その破壊力に舌が焼けている。
そんな西美濃の様子をしり目に日葵は麻辣鍋を完食し、さらに、うどんを平らげる。
「これでおしまいなのね。じゃ、次行きましょうか、六華さん」
六華に声をかけるが、いまだ六華は動ける状況ではなかった。胃の中に激辛が溜まっており、少しでも動くと激痛が襲ってくる。それに、熱中症に近い症状が出ており、意識が朦朧としていた。水を飲もうとするも、舌は痺れ、喉は焼かれている。体力を保つだけで必死だった。
「私はここまでのようです。日葵さん、どうかお気をつけて!」
そう言うと、六華はがくんと首を落とした。無論、演技ではあるが、倒れそうなほどのダメージを負っているのも事実である。
「そうなんだ。じゃあ、先に行くね」
そう言うと、日葵は西美濃と喜多川が守っていたエレベーターに乗り、先へ進んでいった。
◇ ◇ ◇
エレベーターは一つのフロアを示している。そして、そのフロア以外には止まらないように設定されていた。
それ以外のボタンは反応しないので、、必然的に日葵は示された14Fのボタンを押した。やがて、14Fに辿り着く。
むわっとした空気があるが、どうもおかしい。
大の男たちが何人も倒れ込んでいる。料理人と思しき、白衣の男も同様に倒れていた。その様子は何者かに激辛グルメファイトで敗れ、傷ついた姿のように感じる。
「ま、いっか。先に行こう」
そう思った矢先、日葵と目的地を同じくする女性がいることに気づく。お互いに目的地が一緒なのだろう。
ただ、どうもその女性のことは見たことがあるような気がした。
「あっ、あんた!
リボンのついたニットのブラウスにふわっとした白いスカート。
そう発言したのは清楚系のファッションに身を包んだ量産型女子大生であった。なんとなく見覚えがあるような気もするが、思い出せない。
そんな日葵の様子を見て取ったのか、量産型女子大生は名乗りを上げる。
「私は
その言葉からは半ば呆れたものであったが、苛立ちも隠せないでいた。
そして、ため息をつくと、質問をする。
「私は妹を連れ戻すために来たのよ。あんたもそんな様なわけ?」
それを聞いて、日葵は思い出した。そんな話を
「そういえば、そんなことのために来たんだったっけ」
ふわふわした物言いに、東雲は再びため息をつく。
二人はエレベーターに乗った。今度は最上階にのみ進むことができる。
チーン
エレベーターが最上階に辿り着いた。
フロアの中央で、すでに鍋の用意ができている。大男と華奢な女性がいるが、それよりもその奥で眠っている男女に目が行った。
一人はスカジャンを着た金髪のチンピラ風の男。
もう一人はカーキ色のブレザーにチェック柄のリボンとスカートを着ている、少し明るい髪色をしたボブカットの女子高生だった。
「
東雲が叫ぶ。この女子高生が東雲の妹なのだろう。
可愛い制服を着た可愛い女子高生。それに対し、日葵の助けに来た相手は金髪のチンピラである。
なんだか、釈然としないものを日葵は感じていた。
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