決勝戦開始
「はあ!? 誰よ、あのおっさん?」
決勝戦の会場に、いかにも自分が選手でございと言いたげな見知らぬおっさんが座っていたのだ。だというのに、審判団も観客もまるで問題にしているように見えない。
仕方なく、隣にいた
「え、えと、なんかあの人、準決勝のシャッフル戦でラーメン30杯食べたとかで、決勝進出の選手に選ばれたんだって」
日葵も困惑しながら、意味のわからないことを言う。
「はあ!? シャッフル戦のラーメンの数は30杯でしょ。それじゃあ、あのおっさんが一人で全部食べたことになっちゃうじゃん。それに、私たち全員でどうにか30杯食べて決勝進出したのに、対戦相手が30杯食べきってるって、わけわかんないでしょ」
撫子はそこまで言うと、深々とため息をついた。
「なんで、これだけの人数がいて、そんな簡単なことに気づけないのよ」
審判も観客も頭がおかしい。だが、ここはオリンピック予選の決勝戦である。そのように因果を歪める異能の選手がいたとしても何らおかしくはない。撫子は最大限の警戒を見知らぬおっさんに向けた。
「あ、確かに。おかしいと思った。確かに数が合わないんだねぇ」
日葵が間抜けな声を上げる。やはり、本気で信じ込んでいたのかもしれない。
だが、撫子は安心した。おっさんの能力の底が見える。所詮は論理で諭せば、その洗脳は解ける。実際に過去を改変したといった超能力ではないということだ。
それなら十分に勝機がある。この場で大声を上げ、審判団を諭すことだってできるだろう。
だが、それはやめた。相手に自分が能力の解き方を知っていると知られるのは得策ではない。切り札は切るべきタイミングを見極めることが重要なのだ。
「女子アナウンサー、
司会のアナウンサーが場を取り仕切り始めた。もう決勝が始まるのだろう。
「さあ、決勝に進出したのは、まずは
にこやかな笑顔でアナウンサーが読み上げる。それを受けて鵜田とかいうおっさんが立ち上がり、観客に手を振った。すでにスター選手気取りである。
なんで、勝った私たちじゃなくてそっちを紹介するんだよ。撫子は思わず心の中で突っ込みを入れる。
「そして、
そして、雑っ! 私と日葵の解説、雑っ!
撫子は辟易としたが、そんなことを顔に出すわけにはいかない。にこやかな笑みを浮かべて、観客に向かい手を振る。
「最後になってしまいましたが、
時間になっても現れなければ自動的に不戦敗となる。シャッフル戦で無茶な食べ方をし、そのせいでいまだ動けないはずだ。残念でもなんでもないが、兎山はここまでだろう。
撫子がそう思ったとき、会場の扉が開いた。
ガタンッ
そこにいたのは兎山だった。満身創痍であることが
「へっ、誰が棄権だって! 俺はこの身体がどうなろうと戦い抜いてみせるぜ!」
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