理論派
「そんな弱気なことでどうするというんですか。虎島オーナー、なんなら、二人掛かりで来てもよろしくてよ」
そんな六華と日葵の前にスープカレーが運ばれてきた。
「それでは、これより勝負を開始いたします。まずは
虎島食堂を代表するのは、
そして、カリーライス専門店ンジャメナを代表する
では、勝負を始めてください!」
進行役の
六華はスープカレーを口にする。美味しい。先ほどまでのカレーは若干辛さに物足りなさを感じていた。
一般の客には最大級の辛さなのかもしれないが、仕事柄、激辛を食べることの多い六華には物足りないものだった。辛さとは過剰さを求めてしまうものなのである。
このカレーにカレー屋の店主として少し
自分の作ったカレーがこの店――アルケミスパイスに劣るものではない自信はあるものの、どうしても有名人の作ったものだというイメージがまとわりつく。単純にカレーの美味しさで有名店に登り詰めていることが羨ましい。
それに本当に美味しいのだ。
あっという間に食べ終わった。それは日葵も同じことだった。
大食いの経験の多い六華にとって、それだけで日葵は手強いことがわかる。世界規模の大会でも六華のスピードに付いてこれるものはそうはいない。
それならば、一気に引き離すしかない。
「では、六華さん、続いて神聖な火薬の量を設定してください。次の杯はどうしますか?」
進行役の猪之頭が問いかけてくる。それに対し、勝ち誇ったようにほほほと笑いを返すと、六華は宣言した。
「100gでお願いしますわ」
この言葉に、日葵はビクッと驚いたように反応した。観客にも同じような反応をした者もいる。彼らは神聖な火薬の危険度を理解している常連客なのだろう。
六華自身もやってはいけないことをしたような、冷やりとした感覚があった。それでも、強気で立ち向かわなければならない。
六華と日葵の前に運ばれてきたスープカレーはもはやスープではなかった。
スプーンをカレーに入れるとドロッとした粘土のような固さが露わになる。試しに口に入れると、全身に警告音が鳴り響いた。
これは辛い。いや、つらい。全身全霊が告げていた。これは食べ物ではない。今行っている行為は食事ではない。これは食事ではなく勝負だ。
六華は目を見開くと、自分のあらゆる感情を殺し、勝負に打ち勝つため、一心不乱にカレーとご飯をひたすらに消化した。
全身に疲労を感じていた。胃腸はのたうつような痛みに苦しんでいる。それでも、どうにか杯を空にした。同じことを横にいる少女にできるはずはない。そう思ってチラリと横目を向けると、日葵もまた杯を空にしているところだった。
そんな、まさか……!
焦りが心を支配していた。こうなってくると、もう一杯も同じように食べなけらばならない。サドンデスによる潰し合いというルールが、六華の足元から徐々に這い寄ってきて、飲み込もうとしているかのようだった。
「次は150gでお願いします」
日葵の言葉が聞こえてきた。その言葉の重さに恐怖を抱きながらも、それでも覚悟を決めるほかない。
六華は現れたカレーの重さ、辛さ、熱量、そして破壊力に向き合いながら、どうにか食べきろうとする。だんだん、意識が朦朧として来ているのがわかった。
そんな中、天才の種子という日葵の二つ名が頭をよぎる。それは、かつて
それに、彼女の落ち着いた食べ方にはヤスヒコを思わせるものあった。
朦朧とした意識のまま、日葵に話しかけていた。
「あなたの師匠、ヤスヒコだったかしら? あの人、こうやって
口に出した瞬間から後悔があった。
故人の死を揶揄するような言葉を発してしまった。それも、その人と深く関係していそうだと思った相手に対してである。
日葵はその言葉を耳にしたからか、俯いてしまった。
それでも、日葵は150gの神聖な火薬を含んだスープカレーを食べ終えていた。
このままでは負けてしまう。六華は涙目になりながらも、その辛い、痛い、熱い、破壊力に満ちたカレーを根性だけで食べきることができた。
「六華さん、次の設定をお願いします」
猪之頭の問いかけにどうにか答える。
「200gで……」
その言葉に従い、カレーが現れる。もはやスプーンを突き立てることすら困難なカレーだった。
日葵は六華の心ない言葉に気づいいたまま、微動だにしていない。追い打ちするチャンスではあったが、六華もまた日葵を傷つけたことに傷ついていた。
どうにか一口を口に入れるが、そのあまりの破壊力に、六華はポロポロと涙を流した。今の六華にはこのカレーは辛すぎる。
それでいて、日葵の動きも精彩を欠いていた。
どうにかカレーを食べようとする動きはあるものの、その辛さに怖気づいているような表情を見せている。
やがて、横で見ていた虎島が呆れたようにため息をついた。
「ここまでのようだな」
そう言うと、指をパッチンと鳴らして合図をする。
その合図に従ってか、彼の前に神聖な火薬200gのスープカレーが運ばれてきた。
虎島は四苦八苦しながらも、どうにかそれを食べ終えると、こう宣言した。
「俺は
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