救出作戦

 高梨たかなし日葵ひまりはぼんやりとしながら、話を聞いていた。そもそも、なんで虎島食堂に呼び出されたのか、よくわかっていない。


「なんで、私がそんなことをしなければならないんですの!?」


 絶叫に近い金切り声を上げているのは二階堂にかいどう六華りっかだ。その悲鳴のような主張に対して、虎島とらじま亘理わたるは聞き流すような態度で耳にしている。


「私の店ンジャナメはその人吉ひとよしとかいうチンピラに荒されてことがありましてよ! そもそも、その黒幕はあなただったでしょう。私、そのことへの謝罪を満足に聞いてませんのよ」


 虎島はあくびを抑えるように口を押えて返事する。


「その話ならもう決着ついただろ。互いに痛みわけだって。それとも、何か? 激辛フードファイトで出た決着にケチをつけようってのか?」


 それを言われて六華も言葉に詰まった。フードファイトで決定したことは全てに優先される。それに異を唱えるということは現在の秩序に立てつくことに等しい。

 さすがに、六華にはそんな意図はないのだ。


「それは特別に日葵さんの顔を立てて了承したことです。でも、まあ、いいでしょう。

 でも、そうだとしても、なんで私が人吉さんの救出に向かわなくてはいけないのですの?」


 それを聞き、虎島はニヤリとした笑みを見せる。


虎島食堂うちのエースは日葵だ。そして、その日葵と並び立つことのできる奴はそういない。あんた、誰か心当たりあるか?」


 その問いかけを聞いて、六華はオホホホホホと高笑いを上げた。


「それはもちろん、私を差し置いて誰もいませんわね」


 高らかに宣言する六華。これはもう虎島の言いなりになっているのも等しいのだが、そのことに本人は気づくことはない。


「よし、決まりだ。日葵はそれでいいか?」


 急に話を振られ、日葵は「はえ?」と動揺する。そして、何を尋ねられたのか推理しつつ返事した。


「あ、えと、これから食事に行くってことですか? 虎島さんか六華さんの驕りで。もちろん、いいですよ」


     ◇   ◇   ◇


 日葵、六華、虎島の三人は奇怪なビルの前に立っていた。奇怪な、と言ったが、実際には中嶋屋デパートの入り口ではあるものの。


「ここで人吉が人質になっていると連絡があった。激辛フードファイトの実力者を連れてこいと。どうやら、各フロアで激辛グルメファイターたちが待ち受けているらしい。

 これは俺たち虎島食堂を潰そうとする飲食店の挑戦だろう。絶対に負けられないぞ」


 いつになく、真剣な眼差しの虎島だが、誰も彼の瞳に注目しようとする者はいない。


「私はカリーライス専門店ンジャメナの店主オーナーで虎島食堂は関係ないですけど」


 六華は後悔を感じつつ、ため息をついた。


「ここのレストラン、どこも美味しいですよね。私、嬉しいです!」


 そして、日葵はなんだか心がワクワクしている。

 三者三様の思惑はそのまま、このビルでの壮絶な戦いを予感させるものであった。

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