復讐の刃は女帝の胸に突き刺さるか
「なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ!」
兎山は困惑していた。復讐を誓った
ワナワナワナ
箸を持つ手が震えていた。
恐ろしい。なんで、この俺がオリンピックで成績を残した実力者と相対さなければならないんだ。勝てるはずがない。逃げ出したくてしょうがなかった。
兎山の前にラーメンが置かれた。当然ながら、二階堂の前にもラーメンが置かれる。
メニューの名前は青い辛いラーメン。そのラーメンは激辛メニューとは思えない見た目をしていた。
今回は選手がメニューを選ぶのではなく、指定されたメニューを食べる形式となる。食べる総数は30杯だが、どんなメニューが出てくるかは出てくるまではわからない。なお、選手交代は1杯を食べ終えたタイミングで可能である。
「それでは勝負始め!」
レフェリーの宣言が響いた。それに反応するように、兎山はラーメンを食べ始める。
ズルズルと麺をすする。
「ぐぅっ!」
衝撃が走る。物凄く辛い。
スープの中に浮かんでいた青々とした野菜の中には、純度の高い青唐辛子が潜んでいた。それをまんまと噛み砕いてしまった。舌の奥へとその辛味が伝わっていく。
だが、辛いのは青唐辛子だけではない。スープもまた青唐辛子を煮詰めて辛さを濃縮させており、その辛さは縮れた麺によく絡んでいる。すすった麺もまた強烈な辛さのあるものだった。
当然のことながら、今は激辛フードファイトの最中である。出てくるラーメンが辛いのは自明の理であった。だが、その涼やかなルックスによって、ついつい気が緩んでしまった。その間隙を突かれた。
実際に呻き声を上げたり、むせ返ったりしなかったのは、兎山の実力を示しているといえるだろう。彼もまた激辛勝負に熟達しており、想定を超える辛いものに遭遇したとして、それをこらえるコツを掴んでいた。
「許せない、許せない!」
心の中で叫ぶ。その憤りは、背後の咳で呆けた顔でよだれを垂らしそうになりながら、勝負の行方を見守る高梨日葵に向けられた。
あいつが俺と戦ってたら、こんな油断はしなかった。目の前の銀メダリスト相手だから、恐怖を抱き、その緊張の中で青い辛いラーメンの見た目の柔らかさに騙されたのだ。
だというのになんなのだ。勝手にチームメイトなんぞになりやがって。
兎山の感情が怒りに支配され始めた。こうなると、もう何も考えることができない。
高梨への怒りを胸に、ひたすらに麺をすする。もはや、その辛さもまるで気にならなかった。
麺をすすり、なくなると、野菜を掬い、青唐辛子も食べ尽す。スープを一心不乱に飲んだ。
「ぷはぁっ! これで1杯!」
食べ終わったことを宣言する。目の前の銀メダリストはまだ半分を食べきったあたりである。逃げ切ったのだ。
「選手交代お願いします」
手を上げて、レフェリーに宣言する。だが、それを却下するものがあった。
チームメイトの地味な目隠れ女性、
「たった1杯で交代とか舐めとんのか」
低い声を響かせる。兎山を待っていたのはチームメイトの賞賛ではなく、突き刺さるような叱咤の声であった。
兎山は二階堂に先手を取って揚々とした意気を失い、2杯目の青い辛いラーメンに挑み始める。
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