天国と地獄
その勢いは黒ゴマ担々鍋の具材を次々に食べていった。それは、熱を伴うカプサイシンであり、痺れを伴う山椒の味わいである。だが、耐えられないものではない。
こうなると、単純に大食いのスピード勝負になってくる。
「そうは、させないのよ」
動いたのは、
芹那は手に持ったペットボトルをペコッとへこませ、その勢いで中の液体が飛び出してくる。それは日葵たちの鍋の中に落ちようとしていた。
「無駄です」
そう口に出したのは、
「
芍薬は勝ち誇ったように宣言する。
だが、その言葉を聞いた芹那は突如笑い始めた。そして、それと同時に
その様子を見て、言葉を発するものがあった。
「へっへへ、ありゃ、酢だな」
それと同時に、女の子の声もあった。
「えっ、お
芍薬の妹であろう
そんな団欒とした雰囲気に芹那が水を差した。
「いやいや、今のはビネガーよ。酢なんかと一緒にしないで」
その言葉を聞いても、日葵たちはピンとこないようだ。酢とビネガーの違いが理解できていない。それに業を煮やしたのか、再び芹那は口を開く。
「言っとくけど、あんたたち、時間制限もあるし、そうなったらあなたたちの負けもあるんだからね」
その言葉は何の気もないものだったのだろう。だが、その言葉によって生まれた焦りは日葵に火をつけた。食べる速度が物凄いほどに上がる。目に入るものを悉く吸い寄せていくようだ。
物凄い勢いで鍋の中身を平らげていく。
その日葵の熱気に芹那は当てられた。焦りが心の中を支配する。そうなれば、やることは一つだ。
芹那はペットボトルを手にする。そのキャップを外し一息に凹ませた。同時に、熊谷が動く。審判に札束を渡し、この状況をスルーするように交渉したのだ。
「そんなの、効くと思っているんですか」
動いたのは芍薬だ。彼女は密かに手にしていたスプーンやナイフを大量に出し、芹那の撒いた液体を弾いた。かのように見えた。
だが、弾かれた液体はことごとく日葵の皿に落ちる。
「弾かれることは計算のうちよ。なんで、思わないかな。さっき弾かれたのはブラフだって。全部、計算ずくなのよ」
芹那は勝ち誇る。だが、芍薬もそれで手詰まりとは思っていない。
「だとしても、私たちは止まりませんよ。
どれだけの激辛だって、私たちを止めることはできはしない。そうでしょ、日葵!」
芍薬もまた勝利を疑ってはいなかった。だが、日葵は返事もせず、ただ硬直している。箸を動かす手が止まっていた。
その様子を見て、芍薬も焦った。
「日葵、何やってるの。早く食べなさい」
芍薬は芍薬で、自分では食べ進めようとしない。こんなチームワークでは勝てるはずもなかった。
何より、日葵は何かを思い出したかのように青ざめている。
「私が……、私がこんなだから……ヤスヒコは……。
破裂する!
芹那の所作が日葵のトラウマを刺激したようだった。これでは、もはや勝負にはならない。
そんな時、声が聞こえた。
「その液体は青唐辛子の辛みを抽出したものだ。
それは
だが、その言葉は芹那の透明な液体と
「そうか!」
日葵は急速に活力を得て、胡麻淡々鍋の具材に向き合う。その速度は圧倒的なものだ。
しかし、芹那と熊谷のビハインドも大きい。勝負の行方はわからなくなっていた。
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