試作型女子高生
予選第二回戦の相手が予想に反して、強豪揃いだったからだ。
注目株としては、
正直、牡丹の実力で敵うかどうかわからない。それでも、強敵が彼女だけであれば問題なかった。第三回戦へと進出できるのは上位二名だからだ。彼女以上に警戒すべき相手がいた。
両者とも、決して有名な激辛フードファイターではない。だが、牡丹は大会の運営である
撫子は非公式の勝負でのみ名前を聞く泥棒猫のような激辛マニアであり、巳螺野はあの
「でも、私も
牡丹は首に締まった制服のリボンを締めなおす。そうすることで気合が入るように思えた。
だが、その気合は撫子の気の抜けた声ですぐに霧散することになる。
「あのぉー、
試合開始時に出されるメニューを聞かれ、撫子はそう答えた。その瞬間、周囲の視線が彼女に集まる。
この勝負はポイント制だ。そのポイントは、料理ごとに設定された辛さの段階、そして辛さの倍率で決まる。炒飯はまったく辛くないメニューであり、当然ながら、その辛さは0段階、倍率を上げることもできない。
つまり、食べきったところでポイントを得ることができないのである。勝負を投げているとしか思えない注文であった。
「あ、トッピングで麻婆豆腐をつけてもらえますかぁー」
間延びした声で、注文を続ける。
麻婆豆腐の辛さは4段階だが、今回はトッピングとしての注文なので2ポイントとなる。撫子は初回のメニューを食べきっても2ポイントしか得られないのだ。これは圧倒的に不利であり、勝負師としての才覚が壊滅的であることを示していた。
でも、これは逆に油断できない。あの
「勝負始め!」
レフェリーが試合開始を宣言する。全員が一斉に食べ始める。
牡丹が頼んだのはセオリー通りに、冷たい味噌ラーメン辛さ10倍である。これを食べきれば20ポイント。撫子の10倍のポイントを得ることができ、勝利条件の25ポイントへと一気に近づく。
冷たい麺を熱いスープに浸す。そして、それを食べる。
麺の冷たさとスープの熱さ、その差が奇妙なハーモニーを生んでいた。辛さの奥には味噌の甘さがあり、そのギャップが絶妙な美味さへと変わる。本来は美味しい料理のはずだが、ひたすら辛さ、つまり唐辛子を増したその味わいを牡丹は美味しいと思うことはできない。必死になって、食べ続けるだけだ。
そんな中、ふと撫子の姿が目に入る。麻婆豆腐を炒飯にかけていた。
中国料理・
それに、看板料理の一つである麻婆豆腐がかけられているのだ。美味しくないはずがない。
勝つために食べていた牡丹は、撫子が美味しそうに炒飯を食べるのに魅入られてしまった。思わず、見惚れてしまう。
それは何も牡丹だけではなかったらしい。何人もの選手が食べ進めるのを止め、撫子が炒飯を平らげる様子をひたすら眺めていた。
そして、その様子を見て、ニタリとした笑みを浮かべる男がいた。
しばらくして、牡丹は我を取り戻した。自分の料理を食べなくては。
少し冷めたスープの中に、麺を浸し、啜る。
「あなたはむせます。そして、鼻から麺を垂らすでしょう」
急に声が聞こえた。巳螺野の声だ。不気味で陰湿な声色が牡丹の頭の中で反響する。つい、巳螺野を見ると、その薄黒い肌の奥に爛々と輝く瞳が見えた。
ゲホッゲホッ
牡丹はむせていた。つい急いで啜ってしまったのがいけなかったのだろう。咳はさらに激しさを増し、そのうちに口の中に入っていた麺が変な場所に入った。鼻だ。
ゲホゲホゲホ
さらにむせる。鼻から麺がたらりと垂れていた。激辛スープを絡ませた麺が鼻から出ているのである。
――ぎぃいいいいえぃぃぃぃええええ!
声に出せない絶叫を上げていた。鼻の粘膜を超えて純度の高い唐辛子という刺激物が繊細な部分に侵食している。それは言葉にできない痛みであった。
こうなると、もはや勝負どころではない。どうにか鼻から刺激物を取り除こうと躍起になる。そして、それが更なる苦痛を生むことになった。
「あなたはしゃっくりが止まらなくなる」「あなたは腹痛でうずくまる」「あなたは鼻水が目から出るでしょう」
巳螺野はほかの選手にも同様に言葉を投げかけている。その言葉通りに、選手たちはまた一人また一人と脱落していった。
彼の言葉はまるで予言の言葉のようである。
気がつくと、撫子は25ポイントに軽々と達していた。料理を楽しみながらも、そのスピードと容量は脅威的で、低ポイントを重ねながらも悠々と勝利していた。
巳螺野もまた苦しむ周りの選手たちを尻目にポイントを得て、撫子に次いで勝利を得ていた。牡丹は彼らが勝利する前で、自身の痛みを和らげるために四苦八苦しながら、ただ見ていることしかできない。
「許せない、牡丹にあんなことをするなんて……」
客席から声が聞こえた。牡丹は声の主の姿を見ることはできない。
だが、その声は、彼女の姉であり、
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