新・復讐の刃は女帝の胸に突き刺さるか
勝負は団体戦で進行していた。なぜかはよくわからないが、日葵は三番手になっていた。大将という名目らしい。なので、食べる順番は最後。一番手の
克彦という名前にあまりいい気持ちはなかった。亡き師匠、
しかし、そんなことは気にしても仕方ないし、それこそ克彦のせいではない。
克彦と
一応は、克彦が味方ではあるのだが、ルール的には、絶対に勝ってもらわなきゃいけないわけではない。敗者チームからも一人は決勝に進出ができる。チーム内にいるほかの二人より上を行けばいいだけである。
日葵がそんな計算をしていたかどうかは定かではないが、ぼけーっとしながら勝負の行方を見守っていた。
そんな時、一瞬、六華と目が合った。今回の六華は振るわない。そんなことを考えていたところだった。
「おーほっほっほっ」
突如、六華が奇矯な笑い声をあげた。ビクッとして、日葵は立ち上がる。その様子を六華が潤んだ目でこちらを見ていた。
――なんなの、あの人。
日葵は正直引くものを感じつつも、勝負の行方を見守ることにした。
六華が猛烈な勢いでラーメンを食べ始める。それに対し、調子が上がらないのが克彦だ。何やらぶつぶつ呟きながら、ちびちびラーメンを啜っている体たらくである。
「まったく、一度交代を拒否しただけで、あんな不貞腐れるなんて……。あの人はダメね」
そうボヤいたのは隣の席に座っている
撫子は何を言っているのだろうか。日葵には理解できない。克彦が選手交代を申し出て、撫子が拒否した流れを完全にスルーしていた。
そんな日葵の様子に気づいたのか、撫子はため息をつく。
「あんたも大概マイペースなのね。この試合、あんたと最後の椅子を巡ってポイントの稼ぎ合いになるのかもしれないのに」
口ぶりだけなら、彼女は油断のならない選手のように思えた。
だが、そんなやり取りをしている間にも、状況は刻一刻と変化していく。六華はすでに2杯目を平らげており、ついには3敗目を食べ終えるところだった。
克彦はいまだ2杯目をちまちまと食べ続けている。まるで勝ち目が見えない。
「早く食べなさい。そのまま負けたいの!」
撫子が声援を送る。しかし、大した反応はなく、かえって食べるスピードが遅くなったくらいだ。完全に不貞腐れ状態であった。
六華はどんどん食べ進めている。4杯目を食べ終え、5杯目、6敗目へと進んだ。すでに7敗目を食べている。
しょうがない。日葵はやむを得ず、大きな声を出した。
「あなた、このままじゃ負けよ。いいの?」
日葵は同じチームのよしみで声をかけたのだ。その一言が克彦の心に火を灯すことになった。
「お前のせいだろうが!」
会場中に響き渡る叫び声が上がった。その瞬間、怒りに我を失った克彦がラーメンを丼ぶりを掴むと、まるでジュースを飲むかのように、残った麺とスープを一気飲みにした。
さらに、次の青い辛いラーメンが置かれると、熱々の激辛ラーメンを同じように一飲みにする。
「ひっ!」
悲鳴を上げたのは六華だ。克彦の鬼気迫る、そして、意味不明な勢いに恐怖を覚えたのだろう。
しかし、それで勢いが弱まることはなかった。
「私は負けませんわ。ねっ、日葵さん!」
日葵に向けて、謎の声かけをしてくる。その言葉とともに、意を決したようにスピードを上げ、8杯目のラーメンを食べ終えた。
「いや、私、敵チームなんだけど」
どっちの選手も日葵に謎の感情をぶつけてきているようだ。
変な人ばっかり。さすがの日葵も呆れに近い感情を持ちつつあった。
「うおおぉぉぉっ!」
克彦は呑むようにラーメンを食べ続ける。ついに9杯目のラーメンに手をつけた。やはり、一息に飲み込んでいく。
バタリ。それを食べ終えた瞬間、克彦は倒れ込んだ。その場にうずくまり、動かなくなる。
「まあ、これが限界みたいね」
撫子が立ち上がり、克彦のもとまで行く。そして、耳を彼に近づけると、手を上げて宣言した。
「交代します。次の選手は私、来海沢撫子です」
その様子を眺めながら、日葵は心がざわめくものを感じる。
西園寺ヤスヒコに名前の似た克彦という男。その男が泰彦と同じように激辛に倒れたのだ。チクチクした感情を抱きながらも、日葵は勝負の行方を見守ることになる。
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