第4稿 悪魔の囁きと丑の刻参り(襲撃編)(5.5)
視界が暗くなり、俺は暗闇の中に居た。だが、すぐに此処が夢の中だと分かった。今までの事件、その際に見てきた悪夢。「悪魔憑きの少年」事件の際に見た、「俺が誰かに殴られる悪夢」。此処はまさにその場所。森の中だったからだ。
「何で、こんな所に……」
ガサッ
何かが背後で動いた。だが、それは俺を殴り殺そうとする犯人では無かった。後ろに居たのは和気白雪だった。
「N。いや、〇〇〇〇。貴方に伝えなければならない事があります。今は分からなくても、貴方はいずれ、この言葉の意味を知るでしょう。手短にだけれど伝えます。これは貴方にとってだけではない。京界にとっても重要な事ですから……」
(何だ? 京界? 一体、何の話を……)
俺は白雪に質問をしようとした。だが、口が開かなかった。まるで、口に何かが詰め込まれているかのように声を出せなかった。
そんな俺に構わず、白雪は淡々と話し出す。
「この世には様々な
(な、何が言いたいんだ?)
俺はそう問おうとしたが、またしても声が出なかった。まるで、水の中に居るみたいだ。だが、その意思を汲み取るかのように白雪は答えた。
「でも、このような例より遥か昔から、人は『ある事』を禁忌としてきました。それは『死者と関わってはならない』ということ。死者と関わればろくなことは無い」
俺は何が何だかさっぱり分からなかった。彼女は俺に何を伝えたいのか?
再び彼女が口を開く。
「これ以上、深くは言えません。しかし、N。貴方にこれだけは言っておかなくてはならない。貴方はもう推理をしてはいけない。そして、七条葵や八神叡瑠と関わってはならない。貴方達の道は既に分かたれています。貴方の推理は他者に深く影響を与える。貴方の推理は周囲を不幸にする。貴方が救おうとした少年も怪我を負ったでしょう。あれはまだ、序の口です。何故、貴方が推理をしてはならないのか。それは、貴方が本来、推理をすべき役割ではないからです」
突然の台詞に俺は戸惑う。推理をしてはいけない? 何故? 俺が本来、推理をすべき役割ではない? では、俺の役割とは一体……? 和気白雪はお構いなしに俺に対する忠告の台詞を並べ立てる。
「いいですか。貴方が推理をするのは
(嫌だ……! ふざけるなよ! いきなり、現れて何なんだよ! お前の言うことを聞く義理は無い!)
勿論、言葉に出すことは出来ない。だが、せめて心の中だけでも叫びたかった。俺は自分の人生・尊厳を他者に左右されたくはない。彼女の言葉の意味は分からないが、俺は彼女にそんな事を言われる筋合いは無かった。
だが、この言葉は聞こえなかったのか。相手が読み取ろうとしなかったのか。白雪は何も言わなかった。だが、少しだけ、その表情は悲しそうに見えた。
彼女は闇の中に消えていく。辺りが黒い靄に包まれる。
そして、俺は目を覚ました。
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