第2稿 悪魔の囁きと悪魔憑きの少年(1)

「あれ……?」

 暗闇。強いて言えば、少し遠くの方にぼんやりと明かりは見えるが、俺の周囲には光と呼べる物は何一つ存在しない。足元はよく見えないが、靴を通して足に伝わる硬い感触から石畳か何かだろう。近くに川があるのか、水の流れる音も闇に響く。


―――何故、俺はこんな場所に?


 辺りに俺以外の人間は確認できない。俺は謎解きやミステリーの類は好きだが、好き好んで心霊スポットに近づくような度胸のある人間ではない。ましてや、一人でならば尚更だ。ウチの近所にこんな人通りの少ない場所は無いし、人が誰もいなくなるような時間帯に散歩する趣味も無い。俺は今、自分の置かれている状況が把握できない。

 ザッザッザッ

 少し遠くで足音がした。何者かがゆっくりと此方を歩いてくる。木の枝か落ち葉を踏みながら近づいてくる。暗闇の中に不気味な足音が反響し、俺の体から一筋の汗が流れ落ちる。不気味な大気アトモスフェアが周囲を支配し、恐怖で体はブルブル震え、心臓の鼓動が激しくなる。

 ザザッ

 背後で急に足音が止まる。俺は即座に振り向いた。


 ガツッ


 耳のすぐ後ろから聞こえる鈍い音。と同時に感じる重い衝撃と激しい痛み。脳が急に揺さぶられる。突如、視界が停電した様に真っ暗になる。俺は黒に染まった視界の中で自分の体が前のめりに倒れていくのを感じた。




「あれ?」

 目が覚めた。視界に映るのは見慣れた自室の天井。スマホがけたたましい音を立てて、俺の覚醒を促す。全身は汗まみれで体に引っ付いた寝間着が気持ち悪い。

「こんな時期に悪夢とはな。畜生!」

 俺は独り言で悪態をつき、汗にまみれた寝間着を脱いだ。そのまま風呂場に直行し、下着も脱いでシャワーで汗を洗い流す。風呂場から出て、壁の時計を見ると午前8時半。

 ふと、スマホを見ると後輩の七条君から連絡が来ていた。


『N先輩。今日って時間ありますか? 折り入って、相談したいことがあります』


 待ち合わせ場所は六角堂近くのカフェ、時間は午前9時半。という内容に、あと1時間しかねぇじゃねぇか!と心の中でツッコミを入れつつ、了承の返事を送信した。

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