第29話 謎の美女? 美少女?
前回のあらすじ。フリルは拳で魔人を倒した。
「なんてことじゃ……」
まん丸お目目をパッチリさせ、その瞳には、魔人の体を貫いている筋肉ダルマの姿が写っていた。
「フリル、なのか!? とりあえず、その呪縛玉をはやく魔人から引き離すんじゃ!」
呪詛玉の効果はせいぜい三メートル。言われた通りに、さっと魔人のそばから離れた。
勝てないと思っていた敵が消えていく状況を若干飲み込めない様子のユグド。呪詛玉のこととか、もう1匹はどこ言ったのかとか、フリルなのか? とか、色々聞きたいことはあったが、とりあえず上裸の変態に話を聞いてみることにした。
「お主、フリルよな……? なんじゃその格好は」
「ユグド、来てくれたのか。魔人は魔力を伴う攻撃に対してはほぼ無敵の防御力を持つだろ? だから魔力が漏れないようにしたんだけど、それじゃまだ勝てないから魔力を筋肉に閉じ込めてパンプアップしたんだよ」
一息つくと、フリルの体が元に戻った。対して、言っている意味がわからず、口を開けてポカンとするユグド。
「まさか体内術式が発動するレベルだとは思わなかった……最初とか早すぎて何が起こったのかわかんなかったし」
「体内術式……」とユグドがこぼす。
「ドラゴン族だって使うから、そんな珍しいものじゃないだろ?」
「あほたれ。条件付き術式魔法とかいう、アホみたいに複雑な魔法を体内に仕込めるやつなんぞおらんわい! して、なんの魔法を使えば、人間が魔人の攻撃に耐えられるんじゃ?」
「障壁魔法と再生魔法だよ。体内で発動すれば魔人の特性も効かないし、ほんと仕込んでおいて助かった」
「あのなぁ……」と、全身で呆れた〜の表現をする。
「フリル、お主本当にマジで例えようのないくらいの怪物じゃな。と、ってなんじゃと、って。条件付き体内魔法ですら無理なのにそれを、二つ同時に、しかも魔人の攻撃に耐えられる強度とか、もうばか。ばかとしか言えん。お主はばかじゃ。普通、魔人お攻撃に耐えられるレベルの強度の魔法とか、体の外でも無理じゃからな。あと、さっきの筋肉ダルマじゃが、お主死ぬ気か? ほんの少しでも魔法のバランスが崩れたら即死はおろか、大爆発でこの大陸吹き飛んどるとこじゃったんだぞ?」
「魔力制御なんて日常的にやってるからな……そんな騒ぎ立てるほどの物じゃないよ」
フリルはさらっと答える。確かに、魔力の制御など、魔法が使える物であれば誰でもできる。ただ、最終魔導兵器以上の魔力を一人で操る人間は、このユグドいわく『ばか』しかいない。
「あほーーー!! 魔力は大きさによって制御難易度が跳ね上がるのは知っとるじゃろが!? どんな精神力しとったら、物質が魔化するレベルの魔力を体内に抑え込んで、同時に再生魔法の出力を制御しながら、魔人相手に戦えるんじゃ!! ちったあ常識っちゅうもんを学ばんかぁ! あたかも普通のようにいううじゃないわ!」
「超常的存在のユグドに言われてもな……」と、フリルはケラケラ笑い、こいつまじか、とドン引きしたユグドであった。
「はぁ……で? あと1匹の魔人はどうした?」
「呪縛玉ならとっくに潰したけど」
簡単にいうが、ユグドがマジになっても多分傷すらつかない。先程フリルがリンゴ感覚でぎゅっと握った球は、そんな代物です。
飄々と言うフリルをユグドは半目で睨む。
「もうツッコムのやめる。常日頃一緒におるあいつらの気持ちがよーくわかったわ」
もしかすれば、今回は魔王を完全に消すことも可能かもしれんの……。
そんなことを思いながら、ユグドは今後について話した。
「あぁ……いまみんな聖獄の島にいるんだ? 俺は教えるとかできないから、助かるよ」
じゃろうな。口にこそ出さないが、激しくそう思った。
「今回はマジで魔王を倒せるやもしれんぞ。勇者も二人おるし、もう一人役に立ちそうな能力を持ったやつもおる。そして、お主もおる」
「完全に消滅させるために、まずは魔人を全部倒すと」
「そうじゃ、任せたぞ。まぁ、特に危機感はない。でも、大丈夫じゃと思うが気をつけるんじゃぞ」
フリルは笑顔で応えると、ユグドのために聖獄の島へと繋がる転移門を開いてあげた。
「俺は村の方が大事だから、とりあえず地下シェルターを作ってから魔人討伐は始めるとするよ。修行の方だけど、ちゃんと手加減するようにね」
「わかっとるわい」と、お前と一緒にするなと言わんばかりに眉を顰めると、ユグドは聖獄の島へと転移した。
フリルも転移して、村の地下シェルターを作りにいくかと思いきや、
地上に降りたフリルは何かを探し始めた。
「ハユを覆っていた殻……魔法じゃないとすれば、超自然的なやつだけど」
フリルには思い当たりがあった。昔文献で読んだことがあるのだ。魔法を使わず、別のエネルギー源を利用して、同じような現象を実現させる種族がいると。
「魔力をとらえられないな……」
いないのかな? と思ったが、ダメ元で動的探査魔法を発動した。これは魔力を四方に飛ばし、魔力反射を頼りに周辺の様子を探る魔法。フリルとはいえど、魔力の性質上、十キロほどしか正確に探ることは難しい。
「見つけた!」
フリルはすぐさまその場所へ飛んだ。
「う、うわぁ!!」
驚いて腰を抜かす女の子に、「ごめんごめん」と手を伸ばす。
「君がハユを守ってくれたんだね」
身長はヴィネス程。人間で言えば小さい部類に入るだろう。顔は小さく、胸は大きく、腰は細く、脚はスッと伸びている。
フリルも息を呑むほどのスタイルの良さと、顔。このくらいならスペック高い人間といえば、まだ通じる。だが、決定的に人間とは異なる部分があった。
耳だ。
先が尖っている。
「は、はい……あの、そんなにじろじろ見ないでください……」
慌てて言葉を取り繕うフリルだったが、諦めたのか、最後は普通に謝った。
「エルフを見るのは初めてですか……?」
「え、まぁ……実際見るのは初めてかな」
目のやり場に困るフリルとは対照に、エルフは覚悟を決めたような顔をする。
「見ず知らずのエルフがこんなことを頼むのは、私の村を救っていただけないでしょうか……!」
「いいよ」
「本当に、赤の他人に助けを求めるのは間違ってると思います。でも……もう希望はあなたしかいないんです。さっきの戦いを見て確信しました。どうか、助けていただけないでしょうか!! ……て、え?」
「いいんですか?」と、ようやく返事に気付いたエルフはキョトンとする。そして、すぐさま目を潤ませ、
「ありがとうございます……」と大粒の涙を流しながら笑顔を見せた。
反応に困るフリルだが、服を脱ぎ出したエルフにはさらに驚き目を白黒させた。
「な、何してんの!? 怪我でもしてる!?」
「え、いえ。そ、その……奉仕しろと……」尻すぼみだったが、はっきりと奉仕という言葉が聞こえたフリルは慌てて、
「い、いいから! そんなことしなくて!!」
「私ではダメ……なんでしょうか……。人間の男はしょじょ? で胸が大きく腰が細く、小さい女を好むと言われたので、私が指名されたのですけど……そして、ついたら服を脱げと……」
もう既に肩まで服をおろし、あと少し下げれば見えてしまうほどである。
あってる。あってるけど、口に出したくないフリルだった。一応、フリルも年相応に制欲はある。だが、子供たちを思うと理性が圧倒的に優っているらしい。
「今からまだやることが残ってるから自分の村に行くけど、そ、そういうのは……なしにしてくれる……?」
「そう……いう……の……?」
一瞬キョトンとしたエルフだが、理解したのか顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。
自分の格好を思い出し、背を向けると急いで服を整え、フリルの方を向く。
「あの、私、フィナーシャって言います!」
「よろしくフィナーシャ。じゃあ、手を」
「手?」と言いながらフィナーシャが出した手を、フリルはそっと掴む。
「!??!?!?!?」
フィナーシャの髪がビンと逆立つ。
あぁ、お父様、お母様……私は男に体を汚されてしまいました……私はこの方と婚姻を結ばなければならないのですね。神様、私は一生彼を愛することを誓います。たとえ彼が先に滅びようとも、私は永遠に彼の妻であることを誓います。
素手で上裸の男に手を握られたくらいで結婚を決めてしまうほど、エルフは高潔でピュアな種族であると伝えられ、のちにエルフブームが巻き起こる発端となる出来事であった。
「う、うぅ……」
顔を真っ赤にして震えるフィナーシャを見て、変なやつだと思ったフリルであった。
が、
後に自分が裸であることを子供達に指摘され、めちゃくちゃ謝ったという。
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