第19報 『戦闘後』
「約束は守ってもらうからな」
フリルは泣き喚くポロンにそう告げる。
「……約束?」
先ほど飛び出してきたヴィネスが小首を傾げた。
「そう、こいつが決闘を申し込んできて、俺が勝ったらなんでも質問に答える約束だったんだ。そして見ての通り俺は勝った。」
「……じゃあ、ルーの事。」
「あぁ、これで一週間ここにいる理由もなくなる。早く帰ろう。そして戻ろう。俺たちのスローライフに。」
そんな約束したのか!? と、ユーグが攻撃的な視線をへたり込んだままのポロンに送る。
びくりと震え、涙を溜めて弁明しようと試みた。
「だって………龍王様がぁぁ………」
「ぐぬぬ………だが、一週間はここにいてもらうぞフリル!」
だが、耳を塞いだフリルには届かない。
わぁわぁとポロンが騒ぎ、三人は心配するような目でそれを見る。
フリルはその間に、ヴィネスを通して質問を始めた。
「……まず最初にルーがどうしたら治るのか。」
「教えるもんかぁぁ!!」
「あれは……ただの脱皮の前触れです………脱皮の前は少し全身がむず痒くなって体が勝手に震えるんです。人間にもあるんでしょう………? なので何も心配は入りません………」
途端に、ユーグに白い目線をむける四人。
「……そんなしょうもないことを大切な情報だとか言って勿体ぶってたのか。だって。」
「ぐぬぬ………!! ポロポロ喋りやがって………」
「……次。ユーグが龍王というのはほんとか。」
「はい本当です………」
しばらく一方的な質問が続き、フリルは気になっていたことや、この世界のことについて、さまざまなことを聞いた。
☆
女子会を再開したユーグ含める四人。
一方、また追い出されたフリルは、ポロンと和解し、縁に座り外で二人、会話に花を咲かせていた。
「お互い、苦労してるんだな」
言って、笑いかけるフリル。
「そうですよ。龍王様はいっつも自分の好き勝手ばっかりするんです。今だって、魔王の魂が龍王様の力を狙っているというのに、あんなにのんびりして。」
「魔王の魂?」
不穏なワードに、思わず顔を顰め、再度聞き返した。
「はい………最近魔物の動きが活発になって来てるのは知ってますか?」
コクコクと頷く。
フリルはもう既に王宮から離れているため、そのあたりの事情には詳しくないが、とりあえず知っているふりをした。
「魔王の復活が近いんです。」
「魔王の復活………?」
「はい……数百年前、勇者は魔王を無力化することに成功しました。ただ、魔王の存在は強大で、完全に存在を消すことはできませんでした。そこで、勇者は龍王様、妖精王様、霊王様、そして神の加護を使い、魔王の魂を五つの大陸に分割し、封印したのです。その封印が今、急速に弱まっているのです。このままでは再び混沌の時代になります。」
その時、不意にフリルのもつ通信機に反応があった。
「あ、すまない。」
「それは?」
「遠距離通信機。遠くでもリアルタイムで会話できる魔道具だ」
「へぇ………人間の文明はそこまで発達したんですね?」
感心するポロンを他所に、フリルは通信機に出た。
「何かあったのか!?」
『つ! 繋がったぞー!!』
『ほんとですか!? やりましたねユウタ! たまには役に立つじゃないですか!』
フリルが、村からの連絡と勘違いして慌てて出るが、違ったらしい。
その隣で、ほんとに誰かと話してる。とポロンが関心を示す。
「………なんでしょうか?」
『あ、すいません。あなたがフリルさん………ですよね?』
「そうですが………」
『助けてください!! 俺たち、なんの力も持ってないのに、王宮で召喚されて、もうあと三日後には戦争に駆り出されるんですよ!! あなた天才なんでしょ!? お願いします! ほんとに助けてください!!』
バカっ! そんなこと言ったっていうこと聞いてもらえるわけないでしょ!? と通信機の先で罵倒されているのが聞こえる。
召喚……まさか王国は禁忌を使ったのか。
『ハイっ! なんか、全方位から責められてるんですよ……傭兵もあつまんねぇからって……』
「ちょっと待って、その遠距離通信機はどこで?」
『………え? あ、これのことですか? すいません……王宮職員にフリルさんの部屋の鍵もらって、部屋を漁りました………』
『バカっ! その辺で拾ったって言っておけばいいでしょう!? なんでそんなに馬鹿正直に話すのよ! これで完全に信頼失くしたわよ!』
『ほんとにお前は使えないアルナァ!!』
『す、すまん………つい………って! お前ら少し探した後すぐ飽きたとか言って、現実逃避再開してたじゃないか! 自分のこと棚にあげて人の事ばっか言ってんじゃねぇ!』
「………あのそれで?」
『あぁ! すいません! どうにか俺たちの代わりに相手を倒してくれないでしょうか……?』
「それは無理なお願いだ」
『………え………』
『ほら言ったでしょ!! あんたがあんなこと言うから!! ちょっと私にかしなさい! 私の可愛らしい嬌声で籠絡してやるんだからっ!』
「いや、さっきから全部聞こえてる……。その場の空気の振動全て拾って相手に届けるから。それに、そっちに向かえないのはさっきの理由じゃない。今ドラゴンの島に捕まってて、そっちにいけないからだ」
ポロンが「ドラゴンの島じゃなくて、聖獄の島ですよ」と、口伝てするのを聞き流し、フリルは続けた。
「でも、その部屋にいるならちょうどいいや。色々魔道具あるでしょ? 使ってみてよ。結局試作品で終わった物ばかりだから、気になってたんだ」
『………いいんですか?』
『ほら言ったでしょ? 連絡さえ取れればあとは楽勝だって!』
『ちょっとお前黙ってろよ。それで………ほんとにいいんですか?』
「あぁ、俺は直接助けにはいけないけど、頑張ってくれ。健闘を祈る」
☆
「ユーグ! 聞いたぞ! ………て。え?」
部屋に戻り、驚くフリル。
完全に打ち解けて楽しそうにあの三人が話していた。
「……フリル。こいつ案外良い奴。」
「あんなにいやいや言ってたのに……なんか裏切られた気分だ。」
「……それで、どうした?」
「ユーグ。魔王が復活するってどう言うことだ」
端的にまとめ、強い語気でそう言い放った。
「なんだ童貞。聞いたのか。耳栓はもうしなくて良いのか?」
「冷やかすな。答えろ。魔王が復活するのか」
「なぜそうも躍起になる? お前には関係のない話だろう」
「魔王が復活すれば世界が混沌に包まれる。魔王はただの魔の王では無い。邪神から力を分け与えられた本物の厄災なんだぞ。数百年前に、魔王は先代勇者によって封印されたはずだ。その封印が、なぜ弱まる? お前、」
「あーあーあー。辛気臭い話はあとだ。ちっ。良いところで入ってきやがって」
話をはぐらかすように、ユーグはヴィネスに抱きついた。
「ほれみろ。こーも仲良くなったんだぞ」
「……やめろ。」
「俺にはお前が一方的に好意を押し付けているようにしか見えんがな」
「……でもフリル。さっきまでフリルの武勇伝で盛り上がってたんだよ。」
フリルを、ヴィネスはなだめようと試みる。
「そうですよフリルさん。ちょっと落ち着いてください」
フリルの狭窄していた視界が広がる。
一息はく。
フリルは、自分のやった行動を振り返り、居た堪れなく頭をかいた。
「すまなかった。ハユもいるのに」
フリルは気を使い、その場は一旦収めることにした。
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