第18報 『勇者召喚』(召喚者視点)
「せ、成功だ!! くるぞ! 異世界の人間がくるぞ!」
王宮地下、集結していた職員の一人が、高らかに声を上げた。
人間を召喚すると言う行為は、それ自体が禁忌に当たる。
そのため、それ自体を口に出す事さえタブー視され、禁固刑があるほどだ。
毎年、禁忌を研究しようとした魔導士が数人捕まっている。
魔法陣から眩いばかりの光が溢れ、四人のシルエットが姿を現した。
「お………おい………ここどこだよ………?」
「落ち着いてくださいユウタ! まずは状況確認です!」
「……わ、私の………高級ディナー………まだ食べ掛けだったのに………」
「ここはどこネ!? ユウタ! ここはどこネ!?」
その中のアホ面の、唯一の男が周囲を一瞥し、そして頷いた。
「こりゃ………またどっかに召喚されたな………」
「また……ってどう言う事ですか? 召喚なんて初めてでしょう。記憶障害があるみたいですね。後で見てあげますよ」
「待て………おい、イザベラ、ここどこだよ。お前なら何かわかるだろ。それでも一応、元なんちゃらなんだから。」
「………私の………高級………」
「だめだこいつ」
「ユウタ! ここはなんアルカ!?」
チャイナドレスのスレンダーな女戦士が、パニックを起こしその男に掴みかかった。
「やめ、やめろ!! そんなことしたってこの状況は変わんないだろ!?」
☆
この世界に来て一週間、俺は何不自由なく暮らしている。
飯もうまいし、待遇もいい。
今朝なんか、俺の手のひらくらいあるステーキを食べさせてもらった。
「はひょーっ!! 朝から一杯っ!! たまんないわぁぁ!!」
イザベラがジョッキを傾け一気に飲み干し、こめかみを抑えて「くぅ」と声をあげる。
俺の連れのイザベラは、この世界にあっという間に馴染んで、今では朝から晩までちびちびと高そうな酒をあおっている。
「いいですねぇ〜あの泥水を啜るような冒険者生活がもう嘘のようですっ! 私の善行が身を結んだんでしょうね!」
と、俺と同じくステーキにかじり付いて調子の良いことを言っているのが、シルビアだ。
「実家を思い出すアルナ〜」
お洒落なグラスにワインを注ぎ、上品に回しているのがリンシアタ。
何やら貴族出身であることを匂わせているが、別に嫌味で言っているわけではない。こう言うやつだ。
「こんな生活ができるんなら、異世界召喚も悪くないな。前回の召喚はクソだったが」
食っちゃ寝を繰り返すが、一向に太る気配のないイザベラを尻目に、嫌味を言ってみた。
俺は前回コイツに召喚され、異世界名物チートスキルも無しに、苦しい冒険者生活を強いられた。
泊まる場所すら危ういところから始まって、仲間が増えて、そこそこ生活できるようになったというタイミングでここにきたのだ。
タイミングが良いのか悪いのか。
ただ、今の生活は前の生活に比べて………いや、まぁいい。
俺は、このままこの生活がずっと続くと思ってた。
これから一生ここで過ごして、そして時期になれば可愛いエルフと結婚して、子供十一人作って、サッカーチームを作って、普通の人生を過ごすんだ。
そう思ってた。
先日、
「一ヶ月後、敵国が攻めてきます。よろしく頼みましたよ」
と、何かとんでもないようなことを言われるまでは。
「おいっ!! なんでこんなに緊張感がないんだよっ!? 一ヶ月後には敵国が万の軍勢引き連れてここに攻めてくるってのに!!」
「えぇ、良いじゃないの。どうせ勝てないんだし。最後の余暇を楽しませて頂戴」
だめだ。完全に余生を楽しむ構えだ。
「せっかく忘れてたのに、思い出したら冷や汗かいてきましたよ。責任とってください」
こいつもだめだ。現実逃避する構えだ。
「リン……お前はこの中で一番強いんだし……」
「無理に決まってるネ。諦めて余生を楽しむアル」
こいつら………!
だが、こうしても居られない。俺は死にたくないんだ。
せっかくゲームと同じような異世界に転生したのだから、あれやこれや、やり残したことがまだたくさんある。
仕方ない。俺一人で何か打開策でも考えよう。
言われてすぐに、ここを抜け出そうとしてみたのだが、完全武装したここの職員に取り押さえられた。
どうやら俺たちを絶対に逃すつもりはないらしい。
このパーティーで一番強いはずのリンが、手も足も出なかった。
はっきり言って強すぎる。なんなんだここは。
人外しかいねぇ。
つかそんなに強いなら俺たち戦う必要あるか?
と、思っているのだが、通りがかりの職員にそれを言ったら、にこやかな笑顔のみ返された。
目が笑ってなかった。
怖かったのでそれ以上は聞いていない。
「俺は死にたくないからな」
そう言って、席を立った。
現実逃避して食事にがっつく三人を後に置いて、豪奢な扉を開いて廊下に出る。
すぐ隣に、控えの職員がいた。
「どこかへ行くつもりでしょうか?」
「安心しろよ。もう逃げたりしないから、もう懲りたから。」
にこやかな表情を返してくるが、全く目が笑っていないのでめちゃくちゃ怖い。
「聞きたいことがあるんだが、」
「はい?」
なんとも言えない顔をしてコクリと頷いたのを確認し、俺は満を辞して切り出した。
「ここの連中は一体なんなんだ……そしてなんでこの国は他国から一斉に攻められてんだ」
普通に考えておかしすぎる。雰囲気からして戦国時代……と言うわけでもないのに一斉に攻めれるなんて。
もしそんな時代ならここまで文明は発達してないはずだしな。
「箝口令敷かれてるので内緒ですよ。実は――」
☆
「お前らぁ!!」
俺は、現実逃避中の三人が待つ部屋に飛び込んだ。
そんな俺を、頭のおかしな人間でも見るように、冷ややかな視線で見下す。
「なによ。いちいち現実に引き戻さないでくれるかしら! 高度な逃避魔法は集中が必要なんだから! 魔法が使えないあんたにはわからないでしょうがね!」
「ユウタ。私は気づいたんです。これは夢なんだと! そう! これは夢なんです! 夢ですよ夢! だからなにしても良いんです! ヒャッホーですよ! イイェイヤーですよ!」
「馬鹿なこと言ってないで聞いてくれ! もしかしたら俺たちが戦わなくてよくなるかもしれないんだ!」
「「「なに!?」」」
現実逃避に必死になっていた三人が、俺の一言で思い切りよく立ち上がった。
つか、まって逃避魔法なんて初耳だ。いつの間にそんな魔法を? 転移特典か?
いや………それより。
「戦わなくなるって……どう言うことなの……?」
「この戦争が始まったのは、ある一人の王宮職員が不当に解雇されてしまったかららしい!」
「てことはあれね、その職員を発見すれば!」
「そう! この戦争は止まって、俺たちは助かる!!」
「探しましょう!! その消えた王宮職員を!! 私の夢生活続行のために!!」
舞い上がる中、リンだけが冷静に俺たちをみていた。
「どうやって探すネ。それに探したとしてどうやって助けてもらうネ」
「た………確かにそうですね………。相手はとんでもない影響力をもつ人間………かなりのキワモノの予感がしますよ………。あ、やっぱり私、そんな望み薄なことに余生かけるより、今の夢生活楽しみますね」
「はぁ期待して損しちゃった。ま、所詮童貞チングサレ男の持ってきた情報よね。私も同じく逃避魔法に入りまーす」
言って、リン以外の二人は身を翻したが、俺はかなり有力な情報を持っていた。
これを聞けば今すぐ探しに行きたいと願うはずだ。
「ふふふ。従来の俺ならここで喚き散らして引くところだが。二度の異世界転移を味わった新生ユウタは違うっ!」
「はいはいわーったわーった。あんたはそっち系の現実逃避するのね」
「違うわ! そのクビにされたという職員はな、超天才で、ものすごい武器を開発していたという噂があるらしい。そして! ここには、こっそりかいてもらったその職員の部屋へルートがある。そしてそして、その部屋は未だ手付かずで残っているそうだ………」
ようやく興味を持ったのか、三人が視線だけこちらに向けた。
「つまり! 交渉失敗したとしてもその伝説級の武器さえ手に入れれば!」
「勝てるのね!」
「そう!」
「行きましょう!! それなら望みは大きいですね!! たまには役に立つじゃないですか! ロリコン変態魔王!」
「そう言うことなら、望みは大きいアルナ!」
調子付いたところで、
「よっしゃ行くぞお前らー!! 勝負は一週間! その間に武器を揃え、あわよくばその超天才に俺たちを守ってもらう!!」
「「「おぉぉぉ!」」」
俺は声を張り上げ、全員を鼓舞した。
何か罵倒された気がするが、こんなに調子付いてる時に突っ込むほど、俺は野暮な男ではない。
〈作者コメント〉
元々この世界にいた勇者と、今回召喚された勇者は、全くの別物です。
え? 紛らわしいからどうにかしろ………?
困りましたね………でも多分見分けつくと思うんです。(お願いします頑張ってくださいほんと頼みます)
あ、厨二病のアレな方が、ちゃんと『勇者の力』を持った正式な勇者で、
今回登場したヘタレたちが、『召喚された者』が言いにくいんで、勝手に勇者と呼ばれてるって感じです。特に勇者らしい力はありません。
今後ともよろしくお願いします。
まだまだ2章は続きます。
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