第17報 『ポロン』
二日目朝。
「くぅ………あのヘタレ! せっかくきっかけを作ってやったと言うのに……!」
「なんの話してるか知りませんが、昨日の夜、急にいなくなったと思えば、またそんな無駄なことをやっていらっしゃったんですね」
「くそぉ………寝なければ思考力が落ちてそう言う雰囲気になりやすいはずなのに………」
「聞けよ変態」
作戦が思い通りに行かなかったことを悔しがり、高座で地団駄を踏んでいた。
そんな全く聞き耳を持たないユーグを、ポロンは呆れた目でみる。
「報告だけしておきますね。魔王の魂は今現在、急速にその力を伸ばしています。おそらく、狙いは龍王様のお力かと。」
「ほん。私の力か。奪えるものなら奪ってみろ」
「その慢心で前、何が起こったか忘れたのですか………」
痛いところを突かれ、反論が出来なくなったユーグは、フンッと鼻を鳴らした。
「ま、今日は新しい試練を課したから、これでよいしょよいしょだ!」
「はぁ………龍王様の力が奪われても知りませんからね。」
☆
「おはようございますぅ………」
「ああ、おはよう」
「……おはよう。」
「おぅ、おはよう」
「お兄ちゃんおはようっ!」
「おお、朝からハユは元気だな」
全員が目を覚まし、軽い身支度を終えた四人は、外へと繰り出した。
本日の食料を獲得するためである。
泊まることを強要したのに、なぜか食事は自腹である。
ドラゴン島でサバイバル………これからの一週間は、実質そんなものである。
「まさかユーグが空間魔法まで使えることを知ってるとはな……」
「……まじ嫌い。」
転移魔法、空間魔法の使用は禁止されているので、ぼやきながらフリルらは山頂へと登っていた。
「弁当まで持たせて………なんですかこれは。遠足ですかっ!?」
「遠足っ!? やったー!」
「……もっとも、難易度で言えば凶悪極まりない設定だけど。」
「上にドラゴン飛んでるしな。あれは………ダイヤモンド種か。あんなデカイの見たことないな。王国に出たら一瞬で滅びそうだ」
そんな危険極まりない山を歩く中、ふと、ルイスは気づいた。
「そういえば、さっきからドラゴンは見るのに、襲ってはきませんね?」
「あぁ………それは………なぁ。」
「……ん。」
半笑いでフリルはヴィネスと目を合わせ、ルイスはそれを見て首を傾げた。
「ユーグがその辺ちょろちょろしてるから、襲ってこないんだろう。」
「……ん。」
☆
その夜。
「ユーグは、意外とすごいやつなのかもしれないな」
結局今日一日、ドラゴンが襲ってこなかったことを、反省としてそうまとめた。
「結局姿は表しませんでしたけどね………一体何がしたいのか………」
そうしていると、また戸が開かれ、ユーグが現れる。
「お前たち! 今宵は女子会だっ!」
「またきたかユーグ。今回は何を、」
「童貞は出ていけ。今宵、神聖なパーティーが開かれる。童貞は出ていけ」
はいはいわかってましたよ。と、黙って出ていくフリルの後ろから、眠っていたヴィネスがすっと立ち上がり、ついて行こうとした。
「とっと、お前はこっちだ!」
「……離せチビロン毛。」
「またいいやがったな処女め」
「……あぁん?」
口元を釣り上げ、勝ち誇った笑みを浮かべるユーグに、ヴィネスは一触即発の雰囲気を放つ。
こんなとこで戦いなんかしたら、ルーを救えない、と見かねたフリルが、
「ヴィネス……ここは我慢して付き合うんだ。そして色々有用な情報を聞き出してくれ」
「………………ん。」
いつもより少し長いタメの後、ヴィネスはこくりと頷き、床に座り、フリルはそれを確認すると、外へと繰り出した。
「くれぐれも、転移魔法と空間魔法を使うなよ。童貞の
☆
「それで、何してるんだお前は」
外に追い出されたフリルは、月明かりが照らす闇に向かって、ひとりつぶやいた。
「!? な………なぜわかったのですか………」
一発で出てくるのか………と、呆気に取られるフリルだったが、
「ずっとわかっていた。あのユーグの他に後ひとり、ここにいる事。」
ユーグに初めて会った時もすぐそばにいたしな。昼間の遠足の際も、俺たちを遠巻きに見守るユーグを、さらに遠巻きに見守っていたし。
バレてないと思っていたのだろうが、周囲四十メートル程度であれば、はっきりと分からずとも、人の気配くらいはわかる。完全にバレバレだ。
すっとフリルの前に姿を現したその少女が、鋭くフリルを射抜く。
その挙動に、ユーグにちょっとトラウマを与えられたフリルは、すかさず防御魔法………ではなく、指を耳に持っていった。
「そうですか………って! 耳栓しないで話を聞いてくださいっ!」
「お前は………暴言を吐かないのか………?」
「龍王様と同じにしないでください。ワタクシは暴言も吐きませんし、あんな訳のわからない言動もしません」
それなら安心だと、耳栓を取る。
「話があります」
そこで、ようやく話をできると判断したポロンは、真剣な顔をして話を切り出した。
「勝負してください」
「それはつまり」
「無論、戦闘です。実戦です。くんずほぐれつです」
「………何が望みだ。俺とお前が戦う理由などないはずだ」
「目障りなんですよ………あなた達の存在がっ!!」
それまで冷製を装っていたポロンが、顔をしかめる。
「こちらにもやることがあるんです。あなたが勝てば、あなた達が望んでいた情報を与えます。もし負ければ、即刻、この島から立ち去ってください」
………どちらにせよ、ここから帰れると言う訳だが、後者だと、ルイスに頼まれてた温泉計画の件もボツになりそうだな。
「わかった。だが、俺が勝ったらなんでも質問に答える。に変えてくれ」
「………ふん。いいでしょう。その余裕の顔、すぐに絶望に変えてやりますよ。あまり舐めないことですね。あなたが王国で倒してきたと言うドラゴン、あれはここの生存競争に敗れ、外界に逃げた最弱のカスども。人化もろくに出来ないゴミだ。それに比べ、ワタクシは龍族ナンバーツー。戦う前から怖気付いたか?」
「問題ない。仲間を守るためだ。俺は負けない」
「たわけがっ!!」
☆
数分後。
「うぅ………うぅぅぅ………ぐすっ………強いよぉぉ………っ。こいつ絶対人間じゃないよぉぉぉ………っ!」
地面にへたり込んで大泣きをかますのは、先程まで大口を叩いてたあのポロン。
そこに、
「きぃぃさぁぁまぁぁ!! ウチのポロンに何をしたぁぁ!!」
血走った目をしたユーグが飛び出してきた。後ろから、他三人が遅れて顔を出す。
「お兄ちゃん!?」
「フリルさんっ!? 大きな音がしたと思えば、これは!?」
「……何があった………? そしてその子は………」
へたり込んで目をこすり、わんわん泣き喚くポロン。
身長は130程度、線も細く、美麗な風貌だが、それ以上に乳臭い、膨らみかけの蕾のような少女だ。
この状況では、どう足掻いたところで、全くフリルが小さい少女に乱暴したようにしか見えない。
当然、純粋なハユを除く、飛び出してきた他三人の頭には、それがよぎった。
そんな神妙な空気が張り詰める中、フリルは、殴りかかってきたユーグの拳を、防御魔法で完璧に殺した。
本気ではないとはいえ、竜王の拳を事もなげに受け流したその果てのない強度の防御魔法に、泣き顔のポロンが一瞬で真顔になる。
「お前………ほんとに何者だ………」
距離をとったユーグが、冷や汗を一つ垂らし、そうつぶやいた。
だが、ユーグの姿が見えた瞬間、防御魔法発動と同時に、耳を塞いだフリルには、その言葉は届かなかった。
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