第20報 『メイドバイフリル』(勇者視点)
「グリルモート様。」
「………なんだ」
部長室にて、報告の者が入っていた。
「フリルのかつての部屋に、召喚者が入り込んで何か探っている模様です」
「お前はこの状況がわからないのか」
「すいません………ただ、報告しておかねばと思いまして」
「放っておけ」
「それと……各領主は立て続けに完全降伏をしており、三国の行軍スピードは予想より遥かに早く、数日中にここ、王宮に到達する予定です。」
「………は?」
静かな部長室に、グリルモートの間抜けな声が響いた。
☆
「ユウタ! これ見てください!」
シルビアが手に取った魔導具を俺に差し出す。
フリルさんに連絡してから、俺たちは寝る間も惜しんでこの部屋に散らばる魔道具を探していた。
シルビアが持っていたのは、魔法使いがよく使うようなオードソックスなタイプの杖だ。
シルビアは一応は魔法使いのため、これに興味が湧いたらしい。
「なんだ? 普通の杖じゃないのか?」
「違いますよ! これものっすごい魔力が込められてるんです! ちょっと魔力を加えるだけでとんでもない威力になりますよ!」
「おぉ。それでどうなんだ? 勝てそうなのか?」
そりゃもちろん。と頷くシルビアを見て、若干不安を覚えた。
こいつがこの調子の時は、大体なにかしら失敗するものだ。
大豪邸の敷地の草むしりを任された際、こいつが風魔法で地面ごと抉り倒したのは記憶に新しい。
その後、修繕費用を請求されたので報酬は没収。俺たちはその日、気のいいギルド職員にたかることになった。
でもまぁ、二日ほど探しまくったので、魔道具はそこそこ集まっていた。
俺の前にはその魔導具の山が積まれている。
「まぁ、これでかなりの魔道具が集まったな。大魔導士のシルビア様から見て、どれが使えそうで、どれが使えなさそうなんだ?」
「馬鹿にしてますか?」
フルフルと首を横にふる。
「そうですね、どれも超が着くほどとんでもない魔道具たちですよ。これを一個でも持ち出せば私たち四人、一生豪遊しても尽きないくらいのお金にはなるはずです」
「………これ。全部………?」
「はい。正直、先ほどから興奮が止まりません。もう頭がおかしくなりそうです………はぁはぁ」
「ほんとなの!? これがあれば私たち一生遊んで暮らせるって………そんなのほんとに夢みたいな生活じゃない! これ一つくらい貰っても、アイタッ!」
そう言って懐に魔導具を忍ばせようとしたイザベラを、俺はぐーで叩いた。
何すんのよ! と食ってかかるイザベラに、冷ややかな視線を送る。
「お前な。まずはこの窮地を打開することが先決だろうが。こんな時に皮算用してんじゃねー」
すると、地面が突如揺れ、山のように積んだ魔道具たちが音を立てて地面に散らばる。
――ゴォォ!!
「なんだ!?」
「あ、あそこを見るネ!!」
そう言って、窓の方を指すリンの指先を、視線で追った。
窓の外には、視界に広がる見渡す限りの武装した人間たち。
「おい! ここに来るまでまだ時間があるんじゃなかったのか?! まだ三日も経ってないだろ!!」
「来たものは仕方ないネ! この魔道具持って見晴らしのいいところに行くアル!」
「お、おう! 行くぞお前ら!」
数分後、あっという間に王宮は他国の軍勢に取り囲まれた。
つかこれ……詰みゲーだろ。見渡す限りの敵だぞ。
こんなもんどうやったら勝てるんだ。
俺は、シルビアいわく伝説級の魔道具を手に入れたにもかかわらず、早くも気が弱っていた。
もう胸のあたりがムカムカして辛いのなんの。
それに高所恐怖症の俺に、城のほぼテッペンとは言うのは、まさに泣きっ面に蜂状態だ。
こんな状況で先程の揺れが起ころうものなら俺は間違いなく死ねる。
「わざわざ最上階までこんでも………」
「ね、ねぇ………これもう詰んでない………? 大丈夫なのこれ……ほんとに大丈夫なの………?」
俺と同じく、イザベラも弱気を見せていた。
「この周辺の街は多少破壊しても大丈夫でしたよね?」
この状況を見て、まだ勝てるつもりでいるのだろう。
先程の杖を抱えたシルビアが、嬉々としてそんなことを尋ねてきた。
俺はとりあえずコクリと首を縦に振る。
確かに、防衛のためならこの周辺の街は壊しても構わないと言う、無責任かつ適当な指示は出されたが、そんな心配などほんとにいるのだろうかと、俺はそんなことを心根で思っていた。
俺が頷いたのを確認して、シルビアは、いつものように長い詠唱を唱えた後、杖を天にかざす。
みものだな。冒険者の端くれである俺の仲間とはいえ、シルビアはマジモンの天才魔法使いだ。
そんな天才が、こちらの世界の天才が開発した杖を使う。
これはまじで胸熱展開なのでないかと、現実逃避がてらそう思う。
次の瞬間――
――ドッゴーンっ!!!!!
「「はっ?」」
イザベラと俺、二人して素っ頓狂な声をあげる。
杖から放たれた風の塊が、ひしめき合っていた敵国軍を一撃で玉砕した。効果にして、それはまだ氷山の一角にすぎない程度の損害だろうが、大体百発も打てば勝てるのではないだろうか。
「これなら………」
「勝てるわねっ?!」
「シルビアー!! バンバン打てぇ!! 敵は意外とヒョロイぞー!!」
「見ましたか! 天才魔道士シルビア様の大魔法!! あの敵国軍を玉砕してやりましたよ!!」
「見たみた! リン!! 他のも色々ある! お前も魔法使えるんだからバンバン打ってくれ!!」
「任せるアル!」
「イザベラ! お前も使えるんだからとりあえず打っとけ!!」
「言われなくてもするっつーの!」
一気に調子付き、魔法が使えない俺以外の三人が、一斉に魔力を強化するタイプの魔道具を手に取る。同時に魔法を放ち、未だとどまる敵国軍にバンバン降り注ぐ。
巨大な氷塊、街を燃やし尽くさんとする大火球、地面から岩盤が飛び出て押しつぶす。
「す、すげぇ……そうだ! 俺も………」
見たことのある、バズーカのような形状の魔道具を手に取った。
山の中から玉っぽいのを探し出し、そして装着する。
そして、まだ敵の残っている方向目掛け、銃口を向け、引き金を引いた。
身構えていたが、反動は驚くほど少ない。
これが魔法の力なのだろう。発射された玉は、微妙な放物線を描き、ピンポイントで敵の多い場所へと飛んでいく。
巨大な魔法陣が現れたかと思えば、あたり一体が眩い光に包まれた。
「うわっ!」
視界が回復した時、
「え………」
周囲一キロ……いや、それ以上の範囲が焦土と化していた。
明らかにオーバーキルだ。
もちろんそこにいた兵士たちは誰一人として生きてはいない。
もうざっとみ、八割方の掃討は完了している。正直これもう勝っただろ。
しかし、だんだんわかってきたかもしれない。あのフリルとかいう奴。
俺と同じ転生者かもしれない。
いや、その可能性がかなり高い気がする。
こんなものが作れるんだ………生産系のチートでも貰ってるんだろうな。
なんのチートも貰っていない俺が、魔王になれとか言われて、前の世界に連れて行かれたが、この世界の魔王はほんとに気の毒だ。
いるのかわからんが、もしいたとすれば瞬殺だろうな。
俺の世界にもバケモンみたいな勇者がいたが、こんなチート武器作れる人間が相手じゃ勝負にならんだろう。
「て、敵が全員去っていくわ………!」
「勝ちましたねっ! 万々歳ですよ!! 今日からまた楽しい食っちゃ寝ライフの始まりですよー!!」
歓喜の声が耳朶を震わす。
とま、そんなことを考えていたが、今の俺には関係のないことか。
俺はこの世界で、残りの余生を楽しむとしよう………。
かくして、召喚された四人の頑張りと、フリルの魔導具により、王国は、またしても危機を脱したのだった。
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