追放された元賢者、僻地でのんびり村を作る〜E?他国が攻めてきた?E?魔族が攻めてきた?E?国が不景気? 知りませんが一応、御冥福だけお祈りしておきますね〜
第21報 『ドラゴンの脅威』(ヴィネスががんばります)
第21報 『ドラゴンの脅威』(ヴィネスががんばります)
「……フリル。何してる?」
それは、ドラゴン島に来て四日目の朝。
フリルは一人外に出て、火山から吹き下ろす、灰まじりの山風を浴びていた。
「ヴィネスか。おはよう。唐突だが、ドラゴンの攻撃手段はなんだと思う?」
「……爪での引っ掻きと、しっぽ、それに質量に任せたプレス、噛みつき、そしてドラゴンの代名詞、灼熱のブレス。でしょ。」
「100点以上の完璧な正解だな」
褒められ、少しこそばゆくなるヴィネス。
「……なんでそんなことを?」
だが、はっとする。
先日の戦闘………フリルはもしや龍王を倒そうとしているのではないかと。
「でも同時に不正解でもある。ヴィネスの思い浮かべているのは、下位のドラゴンだ。上級のはそこに魔法が加わる。ざっくり分けて、二足歩行出来るドラゴンが中級、そして人化出来るのが上級だ。」
いまいちフリルの真意がわからない。
ただ、不穏な雰囲気を確かに感じた。
ヴィネスは先日フリルの武勇伝を語らった際に、ユーグとかなり打ち解けた。
ユーグはどちらかといえば、フリルとくっつきたいと願っているヴィネスの味方だったのだ。
そんな、仲良くなった相手を、自分の好きな人が狙っているというのは複雑だ。
でも、用心深い彼女も、フリルの話を最後まで聞くことにした。
「ドラゴンには、魔法遮断が効かない。これは常識だろ? でも、ドラゴンは炎を発生させる器官なんて持ってないんだよ。おかしいと思わないか?」
「……そんな常識初めて知ったけど………魔法じゃないのに、それを発生させる器官がない?」
「そう。ドラゴンは何もないところからあの灼熱を吐き出してることになる。でもそれじゃおかしい。」
「……確かに。無から有を生み出すなんて、理に反してる。」
「俺はドラゴンのブレスは、やっぱり魔法じゃないかと思うんだ」
「……魔法? 魔法遮断が効かないのに?」
「当たり前すぎて盲点だったんだ。魔法って普通、体内に直接行使することはできないだろ? ドラゴンは体内で魔法を生成してるんだよ。通常は不可能なはずのことをやってるんだ。」
「……体内で。確かに、魔法は直接体内を攻撃することはできないけど。」
「それが魔法遮断でも同じ理屈だとしたら?」
「……ドラゴンに魔法遮断が効かない理由になる!」
「そう! だから、朝から練習してたというわけだ。」
「………………ん?」
さっき自分で不可能って言わなかった?
と、ヴィネスは固まる。
そんなヴィネスを他所に、フリルは目を閉じて、魔法を体内で生成する練習に励む。
「……フリルが体内で魔法使えるようになったら、もう誰も勝てなくなる。理外の生物になる。」
「ははは、ドラゴンができるんだから理外の生物にはならないでしょ」
「……ドラゴンが体内で魔法を生成してるって発見ですら、世紀の大発見なのに、それを習得までしちゃったら、フリルを賞賛する言葉がなくなっちゃうからやめて。」
ヴィネスの必死の哀願。
仏頂面だが、確かに声音からその機微を感じ取れる。
ドラゴンだが、未だドラゴンを余裕で倒せるものは、フリル意外にいない。
冒険者が討伐したとしてもかなりの傷が残る。
死後の検査なんてもってのほか。
なので、ドラゴンの生態については謎ばかりだった。
その最大の謎が解決してしまったのだから、それはもうとんでもないことだ。
「まぁでも、うまくいかないんだけどね。」
そう微笑むフリルを見て、理外の生物にならなくてよかったと安堵を示すヴィネス。
「……人外になろうとしてるフリルに、学院序列ナンバーワンのうちがドラゴンの強さを教えてあげる。」
腰を落とし、深く構えたヴィネスの視線の先に、どこからともなく現れた四足歩行のルビー種がいた。
手は顔の前へ、視線は真っ直ぐとドラゴンの頭部を見据え、十分警戒しながら、ジリジリと距離を詰める。
サイズで言えば二階建ての家屋並。これが空を飛ぶというのだから厄介なことこの上ない。
当たり前だが、人間は空を飛べない。
空を飛べるドラゴンと、空を飛べない地上の人間、いうまでもなく前者が圧倒的に有利だ。
人類はドラゴンの被害に、慢性的に悩まされていた。
「ヴィネス……一人で大丈夫か?」
返事はない。
極度に集中したヴィネスに、フリルの心配の念は届かなかった。
――何かあればすぐに手をかそう。
次の瞬間。フリルの視界からヴィネスが消えた。
ドラゴンの懐に入り込み、腕を大きく引いた後、下から全力で突き上げる。
ヴィネスは魔法があまり得意ではない。
できることといえば、基礎的な身体強化と、魔力循環で傷の修復を促すのみ。
ヴィネスにはそれで充分であった。
本人にもそれ以上、何を習得するつもりもなかった。
他を圧倒する絶対的な勘、弓が止まって見えるほどの動体視力、そして弱点をすぐさま探し当てる研ぎ澄まされた野生の嗅覚、微妙な空気の流れすらも感知する敏感な全身センサー、澄ませば相手の拍動や、呼吸すらも知覚できる聴覚。
神に愛された人間――人はヴィネスをそう呼んだ。
魔境で数年間生き抜いた彼女の、最大の武器だ。
人間とは似ても似つかないドラゴン。生物なのだからもちろん呼吸をする。
息を吸う寸前、生物は、腹部の強張りが緩み、弱点である腹部は途端に無防備になる。
「――――ガァァ!!」
そこに繰り出された強烈な一点打突。
巨大なドラゴンといえど、耐え難い苦しみが、全身を走った。
咆哮を上げ、ようやくヴィネスがどこに消えたか確認したドラゴンは、これ以上好きにさせるまいと、翼を大きく羽ばたかせ、空へと飛び上がった。
「ドラゴンだもんな。小さいヴィネスじゃ決定打にかけるだろ」
ヴィネスもそう思っていた。
元々それが狙いだった。
学院ナンバーワンがドラゴンに苦戦すれば、どれだけドラゴンが厄介な存在なのかをフリルに知らせられると思ったのだ。
「……飛ばれると何もできない。」
そういうヴィネスは、飛び上がったドラゴンの背に仁王立ちしていた。
「……でも、これでいい。」
巨大な鱗を剥がし始める。
今度は背中の痛みに悶絶し、咄嗟に高度を落とすドラゴン。
暴れ回った結果、ヴィネスは振り落とされ、
「……これ、死んだかも。」
言う間に、ヴィネスの体は重力加速度を受け、自由落下で森へと消えていった。
衝撃はまだこない。
………え?
「ヴィネス、大丈夫か?」
目を開くと、フリルがいた。
心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「……死んだかと思った。」
「大丈夫。死んでないよ。俺が防御魔法かけといたから、衝撃も何もなかったはず」
「……龍王お墨付きの。」
フリルの防御魔法は、龍王ユーグのジャブを完全に受け殺したという実績がある。
手を取り、立ち上がると、
「……ま、これでわかったでしょ。」
「そんな勝ち誇った顔して言われてもな。確かに、ドラゴンは強い。そこだけは認識を改めるよ」
そう言って、フイルはドラゴンに重力魔法を放つ。
こちらに走ってきていたドラゴンは、びくりと震えた後、体が一瞬だけ縮み、そして力なく地面に倒れた。
「魔法使えばこんなに楽勝なのにな。ヴィネスも練習したらいいのに」
「……魔法使えてもドラゴンを瞬殺できるのは、フリルだけだから。」
呆れ声でそうは言いつつも、ヴィネスはフリルの意識を少しでも変えられたことに、満足げな表情を浮かべた。
〈作者より〉
――今後のフリとなっています。現場からは以上です――
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