第14報 『ユグド・レーシル』

 陸地のほとんどを巨大樹に覆われたドラゴンの住う島。

 フリルらは、その日のうちに転移し、様子を確認しながら村を目指していた。


 この迅速な対応が、二年間で王国に急速な改革をもたらした要因の一つである。


「あの……フリルさん……これは子供の教育に非常に悪いと思うんです……」


 そう呟くルイスの視線の先には、戦闘不能に陥ったドラゴン。


 四足歩行の空を飛ぶ、王国で見ることのできる一般的なドラゴンだ。


 ついて早々、ドラゴンに襲われた少女含めた四人組。

 フリルは重力魔法でそのドラゴンを圧殺した。


 重力魔法で与えられる力は、込めた魔力量に比例する。

 通常はりんご一つ潰すのにもかなりの魔力量と熟練度、そして才能が必要だが、フリルはドラゴンでそれをやってのけた。


「……みちゃだめ。」

「えぇ!! ハユもみたいみたい!!」


 木の影からフリルの様子を覗いていた少女が、ヴィネスに目隠しをされ、腕をブンブン振る。


「教育に悪い……? 一応気を使って、血も出ない結構綺麗なやり方を選んだんだけど」

「あのですね……そう言う問題ではなくて………。ドラゴンは簡単に倒せる物だと勘違いした少女が居てたまるかって話ですよっ。ドラゴン簡単に倒しちゃったら、そう勘違いしちゃいますからっ!」


 だが、神妙な顔をし、「………?? ドラゴンは……そう言う物ではないのか……?」と一人ボヤくフリルに、

「……そんなわけないでしょう!?」と、ルイスは呆れ笑いをしてツッコんだ。


「だいたい、成熟したドラゴンは一匹で国を滅ぼすレベルですからね。私もたまに依頼を受けますが、めちゃくちゃ手強いんですから。ここ最近はフリルさんが、報告が入り次第討伐してましたから、被害はほぼゼロになってましたが、それでも脅威には変わりないんですよ」



「お前たち。なにしてる」


 後ろから声がした。

 四者四葉、バラバラに行動していた四人の視線が一気に、背後から聞こえた幼女の声に集まる。


 振り返れば、毛並みの良い金髪を風にかざした、年は10ほどの、鼻筋の通った大人な顔立ちの少女。民族衣装のような格好をしているその少女が、現場にいた四人を射抜いていた。


「………そのドラゴン、お前たちがやったのか」


 フリルの魔法で圧死したドラゴン。

 天を仰いで仰向けになっている現場を、凛とした目で見据える。


 ――まずい、こんなドラゴンがうじゃうじゃしている島の住人……戦いになればフリルさんだって危ないかもしれない。それに、私たちの身も危ない………。


 ルイスは咄嗟に、フリルに耳打ちした。


「フリルさんっ! あの子絶対やばいですよっ! 危ない雰囲気をビンビン放ってますっ! 一旦逃げましょうっ?!」

「いや、大丈夫だ。お前たちは俺の命に変えても絶対に守る」


 初めてみるフリルの凛々しい横顔に、キュンとする。


「……フリル。うちにもそれ言って。」

「………お前たちは……俺の命に変えても………二度目は無理だ!!」


 これでもかとガンつけるヴィネスに、おののきながら歩を進める。

 多重防御魔法を自らにかけ、万全の警戒をして金髪の少女の元へ寄った。


「君は、この島の子かな……?」

「お前、童貞クサイな」

「!?」


 時間が止まる。

 虚しいそよ風が全員の肌を撫でた時、ヴィネスとルイスははっとした。


「ヴィネスさんヴィネスさん! フリルさんが……」

「……あれは、かなりのダメージを食らったみたい。」


 屈んで膝に手を当てた状態で固まるフリル。

 幼女の口から出た衝撃の言葉に、思考が追いつかないでいた。


「………君はこの島の………子かな………?」


 神妙な顔で一度頷いた後、もう一度同じセリフを口にする。


「聞き直したっ!! ヴィネスさんっヴィネスさんっ! フリルさん、さっきのなかったことにしようとしてますよっ!」

「……うむ。あのみてくれから放たれた鋭い矢の如き口撃、流石のフリルでも精神的に結構きたと見た。」


 その幼女はジト目を向け、そして、再度繰り返した。


「童貞」


 心にまでは防御魔法をかけられないフリルに、会心の一撃の如き衝撃が、総身を走った。

 押し殺したような声が、静かな巨大樹の森に薄く響く。


「ヴィネスさん……っ! フリルさんが……フリルさんが……っ」

「……っ! あれは……っ。もう心が限界で今にも泣き崩れる寸前と見た……くっ。」


 先程までの緊張感はなく、プルプルと震える二人に対し、

 ヴィネスに抱かれたまだ幼いハユは、


「……どうていって、なに……?」


 と首を傾げていた。


     ☆


「フリルさん……大丈夫ですよっ。その……私もそんなことしたことないですし………っ」

「……そうだフリル。うちもない。安心しろ。」


 その後、ヴィネスが事情を説明し、四人は巨大樹の間を抜け、その金髪幼女が住むという村へと向かっていた。

 油断していたところに、会心の一撃を食らったフリルは、がっくりと肩を落とし、ルイスに手を引かれて、とぼとぼ歩いている。


「そんなだから童貞なんだろ」


 そんな、衰弱したフリルの肩の上に跨った幼女が、また毒を吐き、その言葉に呼応するように、フリルがびくりと震える。


「もう! ルーの対処法教えてくださるのはありがたいですが、傷口に塩を塗らないであげてくださいっ!」

「……と言いながらも、顔がにやけているのは多分、フリルの弱ったところが見れて嬉しいからなのだろう。」

「ヴィネスさん………。確かに……こんなフリルさんの姿は滅多に見れないから投影魔法でなんとか記録残して、家宝にしたいとかは若干おもってますけどっ?! でも、傷つけないであげて欲しいってのは三割本気ですっ! フリルさんにこんなにダメージを与えられるのはこの子しかいないのでぜひ村に持って帰りたいですっ! とか思ってませんからっ!?」


「おねーちゃんひっし〜」とヴィネスに手を引かれるハユが、ケラケラ笑う。


「……ところで、名前は?」


 フリルの肩に乗る金髪幼女を見上げ、ヴィネスが問うた。


「ユグド・レーシル」

「ユーグちゃんっ! 可愛い名前っ!」

「……ほんとにルーの容態について何か知ってるのか?」


 元王宮職員らしく、美味しい話には警戒を示すヴィネス。


「そんなんだからお前も処女なんだ」

「……あ?」


 震える声でそう零す。

 顔は半泣き、唇はプルプルと震え、今にも大号泣しそうな勢いで。

 これでも彼女は、若手のホープとして、学院生時代から王宮に目を付けられていた、超がつくほど優秀な人間である。


「……べ、別に処女は悪いことじゃないし……うちはうちより強い人とするって決めてるだけだし………。だからうちがモテないってわけじゃないし……いやむしろモテモテだったし………。うちの部では〈天使の癒し〉って言われて人気だったし……。それにお前みたいなチビより魅力あるし………」


 ヴィネスは視線を落とし、自身の胸とユーグの胸を見比べたあと、半ベソをかいていたが、勝ち誇ったような顔をした。


「す、すごい……っ! あの無口なヴィネスさんが熱弁してる………っ!」


 ルイスは、人類の最高到達点とも言える王宮職員が、二人とも金髪幼女に翻弄されている、そんな状況がおかしくて、口元を抑えて笑いを堪えていた。


 そんな折りも折り、若干視点が高くなっていた金髪幼女ユーグが、ついに声をあげる。


「ついたぞっ!」


 その言葉に釣られ、顔をあげる。

 しばらく歩けば、農村のような穏やかな雰囲気の村が見えてきた。


「ほんとに村がっ!」


 と、ルイス。


 この時、その村に夢中になっていた四人は、知る由もなかった。

 跨ったフリルの上で、ユーグが不敵な笑みを浮かべていることなど――




〈作者コメント〉

 聖獄の島篇開幕! 


 展開のないグダグダ回ですいません。


 ・ここが面白い! など、コメントしていただけると、励みになります。

 ・ここはどうなってんね? など、質問等ございましたら、答えます。(作中で、細かな設定等はあまり出すつもりないので)


 そして、のんびり感が少ないのではないかと、見返してみて思いましたが、タイトル詐欺ではありません……。


 引き続きお付き合いください。

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