第15報 『試練開始』
村に入った5人は、警戒しながら、ユーグの扇動する方へと向かっていた。
大陸の中心部にそびえ立つ大火山の、麓を切り拓いた木造建築ののどかな村。
フリルらの住む家ほど……とはいかないが、かなり綺麗な家が無秩序に乱立している。
「……一見、普通の村。」
「ですね、怪しいところもないみたいですし」
「おい処女ども。何を疑ってるのか知らんが、私の村をそう嫌疑な目で見られるのは気分が悪いぞ」
ムッとして、ハッとする。
確かに、自分の村をそんな目で見られると、気分が悪いというのは、二人にとって想像に難くないものであった。
フリルが村を開いてからまだ一週間も経っていないが、不思議なことに、既に愛着が湧いている。
二人は自分の行動を反省をする。
「その、ごめんなさい……」
「……すまんかった。」
「わかればいいのだ処女ども」
やはりそう言われると、カチンとくるヴィネスたち。
「……やっぱりこいつ受け付けない。」
「同感ですね……しかもちゃっかりフリルさんの首に、股ぐら押し付けてますしっ」
二人の嫌悪感丸出しの視線を、意にも介さず、ユーグは目の前、少し大きめの木造建築を指差した。
「着いたぞここだ」
☆
中に入ると、だだっぴろい空間が出迎えた。
先に、高座があり、いかにも偉い人間の家、という雰囲気であった。
畳が敷かれた東国の座敷のような装いだ。
四人が恐る恐る入る。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔しまちゅっ!!」
「……ん。」
「邪魔する……」
四人は用意されていた座布団に座り……
だが、ふと気づく。
「……誰もいない。」
高座どころか、この家には人っ子ひとりいる気配がなかった。
様相から、おそらくここが村長か何かの家であることはわかる。
しかし、それらしき人間はどこにも見えない。
「出てるんですかね? しばらく待つことになりそうですが、どうします?」
「ハユ! かけっこしたいっ!」
「……いや、家主のいない家でそれはだめ。じゃんけんで我慢しよ。」
ハユが「えぇ……」とこぼすが、いざじゃんけんが始まると、3人仲良く団欒していた。
玄関で頭を打ったらしく、「くぅ……」と頭をすりながら、しばらくその様子を眺めたユーグが、「はぁ」と大きなため息をこぼす。
「おい処女ども。ばかかお前たち。どこに人の家でじゃんけんを始める不行儀が居る」
3人の『だって家の人居ないじゃん。』
そういう視線に、肺から大きく息を吐くと、大袈裟に首を振って見せた。
ひょこっとフリルの肩から飛び降り、トトト……と高座の方へ可愛らしく小走りする。
「ここに居るだろ処女ども」
「「「………は?」」」
「良いぞそのアホ面。お前たちは見るからにバカだ」
「なんて失礼な……っ」
「……別にどうでもいい。早くルーのことを教えて。」
お遊びを中断し、ヴィネスが半目を向ける。
「それはダメだ」
ユーグは凛として答えた。
「なんでですかっ!? 教えてくれるっていったのに! さては騙しましたねっ!? フリルさん! やっぱりこいつ危険ですよっ!」
言って、隣で項垂れているフリルをガシガシ揺らす。
ユーグは呆れた目でそれを見やると、
「黙って聞けよおっぱい大臣」
「はっ、お、おっぱ、、おっぱってっ!」
「そっちの大陸ではまだドラゴンの生態は知られてないんだろ。それを教えるというのは危険だ。情報は大切だからな」
「……じゃあどうすれば。」
取り乱すルイスに代わり、黙って正座していたヴィネスが返答を返した。
「お前たちは、今日から一週間ほどここで暮らしてもらう。そこでお前たちが信頼に値するなら、教えてやってもいいぞ」
いきなり出てきた〈ここで暮らしてもらう〉と言う言葉に、理解が追いつかない様子の三人。
何かいうより先に、ユーグが口を開いた。
「品定めするってことだ。おいそれと大事な情報を教えることはできない」
「ちょっと待ってください。え? もしかして、ユーグちゃんがこの村の、」
「そうだ。村長だ。おっぱい魔神」
「あぁ!! 格上げしてくれやがりましたねっ!!」
「……いちいち反応するから面白がってそう言うんだ。」と、ヴィネスがルイスをなだめる。
それを見たユーグが、
「ホーン。そこのちっこいのは見かけによらず、ませとるんだな」
「……お前の方が小さいだろが。」
カチンときた。
ほれ見たことかと、ユーグはヴィネスの反応に、ニヤリと口元を釣り上げる。
仏頂面のヴィネスが、青筋を浮かべ、若干、キレているようにも見えた。
その様子がおかしくて、ルイスはやはりふっと笑いをこぼす。
フリルは、この幼女の口撃で絶賛ダウン中。
ヴィネスは、この幼女とかなり相性が悪いようで、終始ユーグをガンつけている。
ハユは足を放って、いつの間にかくつろいでいる。
……いや、ハユがまともに交渉できるはずがないので、別にそうしてていい。
だが、自分たちはこうもしてられないと、ルイスはルーを救うべく、本題に入った。
「その……なぜ一週間なんでしょうか? できれば早く帰らないといけないんですが。学校もありますし、村のこともありますし、子供たち置いてきてますし、それに早くしないとルーが手遅れになるかも。」
「聞いた話、緊急を要する必要はない。それに私も人間の文化とやらに興味がある」
緊急を要するものではないと聞き、ほっと胸を撫でおろす。
それなら、不安は多少あるけど、一週間くらい大丈夫だろうと。ルイスはそう言う結論を出した。
村の様子だって、投影紙で確認できる。
子供たちも自分たちのことは大体できる。
そしていざという時は、遠距離通信機もあるし、フリルの転移もある。
コクコクとうなずき、了解の意を示す。
と、ユーグが、いまだに沈んでいるフリルを見やり、
「そこの童貞のお前。そろそろ調子を戻したらどうだ」
と言い放った。
「もうっ! ユーグちゃん! 余計な枕詞はつけないであげてくださいっ!! フリルさんはこれでもモテモテなんですよっ!」
「モテモテ? 童貞なのに?」
「そうですよっ! 童貞なのにですよっ!」
容赦のない口撃と、悪気のない口撃の二連撃を食らい、ますます気を落とすフリル。
「……ルイス気付け。」
見かねたヴィネスが、ルイスに口伝てした。
「あ……」
何度も童貞童貞と罵られ、意気消沈のフリルと、他3人。そして、なにやら企んでいる様子の、口の悪い金髪幼女ユーグ。
ドラゴン島での過酷な一週間が始まろうとしていた。
☆
王宮地下。
数日前から出している傭兵募集には、誰一人としてかからない。
加えてフリルの損失により、大荒れの王宮内。
そこに、追い討ちをかけるように、三国からの大侵攻。
遠距離通信機の普及で、情報は尋常ではないスピードで広まった。
「やはり………やるんですか………?」
そう呟くのは、上層の王宮職員。
岩石剥き出しの部屋、その中央には、巨大な魔法陣が、淡い光をまばらに放っている。
そこには、フリルの元上司、グリルモートの姿も見えていていた。
大きなクマに、突き出た頬骨。そのやさぐれた風貌は、もはやそら狂気すら感じる。実際、その中ではかなり異様な雰囲気を放つ一人であった。
フリルの穴を埋めるべく、そして自身の地位を守るべく、彼は毎日泥を啜るような思いで仕事をしていたのだ。
「もうこれ以外無いでしょうね。どういうわけか、四国が一気に軍を挙げ、さらに傭兵も集まらんという始末ですから」
理知的な双眸の職員が、高そうなメガネをはじきあげた。
グリルモートがフリル関係を全て隠蔽しているため、他の部の人間は何が起こっているのかわからないでいた。
そんなざわざわとする中、代表らしき初老の男が、声を荒げた。
「位置につけ。今から『異界人召喚の儀式』を行う」
彼らがしようとしていたこと、そう。
俗に、あちらの世界で『異世界転移』と言われるものだ。
〈作者コメント〉
ほのぼのとグダグダを履き違えているのではないのか。
実はそんなこと思ってたり思ってなかったりしてます。
2章全体で纏まる予定ですので、気を長くお付き合いください
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