第11報 『プロポーズ』
「ヴィネスさん!! 見てくださいっ!」
「……ん?」
フリルのマイホーム、朝日のさすリビング。
ルイスが、手に持っていた投影紙を差し出した。
そこには、王国と西国の国境が、写っていた。
「もう西国が行軍してますよ!! これどうなるんですかっ!?」
「……戦争になるね。王国は、戦力的には他の国より圧倒的に強いけど、タイミングが悪すぎる。」
「やっぱり……王国は滅んじゃうんですかね?」
「……まぁ、国自体は消えるかもしれないけど、国民には大した変化はないかな。」
「そ、そんなぁ。じゃあ王立学院はどうなるんですかっ!?」
「……あれはあれで、ほとんど独立してるようなものだから、残るよ。」
「よかったぁ……」
安堵の表情をみせ、「フリルさんに見せてきますっ!」と元気よく外に出ていった。
残ったヴィネス。
「……ふん。あのゴミ上司、ざまぁない。ゴミ国王もざまぁない。フリルを不当な扱いした罰だ。わかっていたくせに放置してたんだから。さっさと負けて、斬首されればいい。」
☆
「フリルさぁぁんっ!!」
畑でクワを振るっていたフリルが、家から出てきたルイスを振り返る。
「どうした?」
「見てくださいこれっ!」
言って、投影紙を差し出す。
フリルは一旦汗を拭い、それを覗き込んだ。
「あぁ……あいつは言ったら止まらないタイプだからなぁ。もう進軍しちゃったか」と、フリルはあっさりとした言葉を返す。
「大丈夫なんですかっ?」
「どっちが勝つか気になるのか?」
「えぇ……まぁ、気にならないと言えば、嘘になりますが………」
「そうだね、王国には人類最高戦力、と言っても差し支えない、王宮勢力が居るから、西国は苦戦するだろうね」
フリルさんはその中の一番だったんですよね……と、ルイスは内心思う。
「でも、西国には色々融通してあげてたから、集団戦闘はかなりあっちに分があるかな。俺も王宮内で色々作ってたんだけど、結局俺しか使ってなかったし。」
「……一応聞きますけど……何を作ったんですか?」
ルイスは息を呑み、上目遣いでそう問いた。
「なんだその目は……そんな人類滅亡するような危ないものは作ってないよ。」
「じゃあなにを………?」
「例えば、火炎魔法を組み込んで、着弾した時に周囲一キロを火の海に変える砲弾とか」
「それもうアウトですよ……はぁ。まぁ確かに、人類滅亡はしないでしょうけど。学院の生徒ならそれくらいできますし。………そんな大規模魔法の組み込みなんて、誰もできませんがねっ!!」
「そんなにがなりたてなくてもいいだろ? 頼まれて作ったんだから。あのローカラッテに」
「あの淫乱のっぽですか……」
「まぁただ、ヴィネスの話によれば、王宮内はかなり荒れてるらしいから、何人戦うのかわからないけどね。国民の不満もこの数日でかなり溜まってるみたいだし、傭兵を募集しても集まんないだろうね」
再び紙に目を落としたフリル。それを見てルイスはふと、あることに気づいた。
「フリルさんって、畑仕事するときは魔法使わないんですね?」
「まぁ、夢だったからね。のんびり畑仕事するってのが。魔法使うとなんだか味気ないだろ?」
「まぁそうですが……」とルイスは、ちょっと意外な表情を見せた。
「効率求めるタイプかと思ってましたけど、フリルさんにも人並みの感性があったんですね?」
「失礼な。」
「それと、びっくりしましたよ。孤児だから、色々深い傷抱えてるんだろうな、とか思って、身構えてたのに、みんなめちゃくちゃ元気で。あれ、一般的な子供より全然元気ですよね……っ?」
「まぁ……食事の面は俺が仕事の合間を縫って面倒見てたし……それに、怪我は俺が全部治した。ほんとは、不公平だとか、そう言うこと言われるから、滅多に使わないんだけど、彼らは全く無関係の戦争で親を無くしてるからね。それくらいの幸福があってもバチは当たらないんじゃないかな、と思って、再生魔法を使ったよ」
「へぇ………フリルさんは優しいんですね」と頷くルイス。だが、はっとし、
「さ、再生魔法!?」
と声を荒げた。
「再生魔法って……フリルさんっ!! なんですかそれ!? 勝手な思い込みで回復魔法だと思ってましたよっ!!」
「ルイスはほんとに反応が大袈裟だな」と苦笑いしつつ、フリルは説明を始めた。
「回復魔法は傷を塞ぐことしかできないだろ? 腕を切断したりしたとき、もしその腕を無くしてしまったら腕はなくなったままだ。腕があれば回復魔法でひっつくけど。」
コクコクと頷く。
「再生魔法は、回復魔法と創造魔法を組み合わせて作った俺オリジナルの魔法なんだ。」
「創ったって……またとんでもないことをフリルさんは……」そうため息まじりに吐くが、難しい顔をしてコクコクと頷いた。
「腕を無くしたとしても、足をなくしたとしても、もしくは内臓がえぐれたとしても、再生魔法ならその組織自体を一から構築するものだから、名前の通り再生させる事ができるんだ。」
さらに難しい顔をしてコクコクと頷く。
「ただ、これにも弊害があって………」
途端、ルイスはパッと顔を輝かせた。
「ですよねですよね! そんなすごい魔法、何もデメリットが無かったら世界の常識すら変えかねませんもんねっ!」
はしゃぐルイスに、フリルは真剣な表情で言葉を綴る。
「実は……」
「はい……」
「再生魔法を使うと……」
「は、はい……」
「もし、自分の腕が後から見つかった際……」
まさか、
「は………はい………」
「自分の腕がついてるのに、なぜか目の前にも自分の腕あると言う、変な状況になって………ちょっと気持ち悪い」
ルイスは天を仰ぎ、膝から崩れ落ちた。
――………全然弊害ないっ!!
「なんですかっっ!! もっと深刻な副作用が、あるかと思いましたよっっ!! もうっ! 気持ち悪いって……そんなもん我慢しなさいっ!」
「だが、これが結構くるんだよ」
「知りませんよっ!! 見なかったことにすればいいでしょうっ!? あとこんなに尺を使って言うほどのことじゃないですよねっ!? てか、それ知ってるってことは、まさかフリルさんともあろう人が、体の部位を失うほどの大怪我をしたんですか……っ!?」
「いや、それに関しては最初に自分で実験したけど。ちなみにそのデメリットはその時の感想だ。それ以外特に何も副作用は見つからなかった。この通りクワを持って耕せるしな」
こ、この人……と、ルイスはなんとも言えぬ表情になる。
「自分の体は大切にしてくださいよ……それで戻んなかったらどうするつもりだったんですか……」
「た、確かに……戻らなかった時のことを考えてなかった……あのときは子供たちを救うのに必死で……」
溜息をこぼし、そして笑顔で、
「もう、フリルさんはやっぱりひとりにするのは心配です。私がずっとそばにいて見守ってあげないと」
そう言って、腕に擦り寄った。
「なんだよ、子供たちの教育に悪いだろ? それにほら、畑耕すからルイスは子供たちの面倒でも見ててくれ」
残念ながら、ルイスの一世一代のプロポーズは、狂人フリルには届かなかったようです。
そしてこの表情。
ルイスはこれでもかと頬を膨らませ、フリルをガンつけた。
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