第23報 誘拐、魔王
「フリルさあああん! お願いします! 龍王様が魔王に連れ去られてしまったんです!」
屋敷に帰ったフリルを出迎えたのは、ポロンだった。
泣きながらフリルに飛びつく。
「どういうこと?」
「……さっき、人影が現れたかと思ったら、一瞬でユーグごと消えた。」
「? 確かに封印から漏れていた魔王の魂のかけらは、破壊したはずだけど……」
「魔王は自分の魂の約半分を囮に使ったんです!」
一瞬難しい顔をするフリルだったが、
「お願いします! 龍王様を助けてください! あの方がいないと私は……」
「フリルさん、私からもお願いします!」
「自業自得……というわけにはいかないか。」
ヴィネスも続いて、懇願するようにフリルを見上げた。
「……フリル。確かにあいつはイケすかない。でも、助けてあげてほしい。」
「わかった。でもお前たちは村に帰っていてくれ。何かあると流石に俺でも守りきれない可能性がある」
「わかりました!」
「いいよな? ポロン」
確認を求めるように、泣きじゃくるポロンをみる。
「はい、とにかく早く助けてあげてください! 魔王の目的は、おそらく龍王様の魔力……」
「なんとなく察しはつく。じゃあ、三人とも、こっちに」
いうと、フリルはヴィネス、ルイス、ハユを村へと返した。
「じゃあ、行ってくる」
「お願いします。」
火口まではそれほど遠くない。一度は来ていたため、フリルは転移魔法でその場に飛んだ。
「待てよ……さっき封印したのが魔王の魂じゃなかったとしたら、本物はどこに?」
少し歩くと、先程魔王の魂のかけらを封印した台座へとついた。
そこには確かに、フリルが魔力を流し、何かが封印された痕跡が残っていた。
「いないか」
フリルは台座を隅々まで確認し、はっとした。
「これが本物の台座じゃない……? 水晶は確かに大きいが、魔王の魂をこの程度の魔具で封印できるか……? いや、そもそもしようとするか?」
そして、一つに仮説に辿り着いた。
「確か、魔王が活動を始めてからしばらく経っていたと言っていた……もしその間に魔王がこれを作成していたとしたら?」
答えは一つ。これは囮で、本物の封印の間はもう少し下にあるということだ。
フリルは、迷わず下の階に降った。
そこに、ある一つの穴を見つけた。
「何かが通った痕跡……間違いない、この先だ」
一瞬で行き止まりまで最奥まできた。
仰々しい台座、先程とは比べ物にならないほど大規模な台座がフリルを出迎えた。
その中心に、魔力鎖で拘束されたユーグがいた。
「フリル!? お主、なぜここに!」
「それはこっちのセリフだ。ユーグ。龍王ともあろう者が、何をしてるんだ」
「お、お前……もう……空間に……」
台座の空間に既に入っていたフリル。
それを見たユグドの顔が絶望に染まった。
「遅かったな」
低く、腹底に響く声が、フリルの耳朶を打った。
姿を表したのは、身長は二メートルあろうかという人間ではない異形の男だった。
「まさか、ここまで綺麗にことが運ぶとは。ククク、第一プランで全てが事足りたわ」
不気味な笑みを浮かべると、高らかに笑った。
「逃げろ! 急いでこの台座の空間から急いで出ろ!」
「もう遅い」
次の瞬間、フリルの体が宙を舞った。
強く壁に打ち付けられ、フリルは地面に倒れた。
「フリル!」
ユグドが悲痛に叫ぶ。
「気づいたか? この空間は魔法を完全に遮断する。ドラゴンは反乱を防ぐために、そもそもこの火山内では力を行使出来ない。一番の懸念材料は貴様だったが、魔法が使えない魔法使いなど取るに足らぬ存在だなああ」
フリルは、立ち上がった。
頭から血を流し、右腕はありえない方向に曲がっていた。
「ほう? 魔法使いのくせにあれだけの威力で殴られて立ち上がるとはな」
「フリル……お主、腕が………」
「帰るぞ、お前を待ってる奴がいるからな」
その声は、淡々としていて、まるで何事もなかったかのようである。
フリルは、魔王の横を素通りすると、鎖に手をかけた。
「やめろ……逃げろ………魔法使いであるお主に勝ち目はないのだぞ……」
ガシャッと音を立てるが、鎖が解ける気配はない。
その様子に、魔王が高らかに笑った。
「お前まさか、ここから逃げられる気でいるのか?! 笑止千万! 力の差がわかっていないようだな?」
「わかっていないのは貴様の方だと思うがな」
「なに?」
魔王の表情が変わる。
「知っているか、ドラゴンには魔法遮断が効かないのはなぜか」
「なにを言うかと思えば、ただの時間稼ぎか」
「時間稼ぎなどでは無い。死刑執行までの猶予を与えているだけだ。貴様にな」
次の瞬間!
「フリル!!」
ユグドの裂けるような声が洞窟内に響く。
「力の差も弁えずに、俺を苔にした罰だ。苦しんでもらうぞ」
フリルの腕の先、肩から下が、ぼとりと音を立て地面に落ちた。
夥しいほどの血が、フリルの足元に血池を作る。
しかし、
「まだ完全に復活していないとはいえ、力の差もわからんとは」
フリルは一切の口調を崩さず、言い放った。
魔王も、その様子に恐怖を感じ、顔がこわばる。
「ドラゴンが魔法遮断を受け付けない理由は、実は簡単なことだった。魔法はどう言うわけが、生物の体内には直接行使ができないようになっている」
「それが……どうしたと言うのだ……」
「どれだけ外側を固めたとしても、体内には一切影響しないと言うことだ。そして、ようやく成功した。体内で魔法を生成することに」
「!?」
「
途端に、フリルの全身から紫黒のオーブが吹き荒れた。
「ま、魔力!? だ、だが、どれだけ魔力があろうと、魔法の生成は出来ん! 無駄な足掻きだ!」
「魔法遮断は魔法をかき消すものではない。魔法が発動される前の時点、そこに働きかけ、魔法陣の生成を阻害するものだ。一度発動された魔法にはなんら効果は持たない。ドラゴンが魔法遮断をかけられても、ブレスを吐けるようにな」
「ぐ……」
「こんなことも知らんとは」
フリルの腕が、再生していく。
「?! ま、魔法が……!?」
「だから言ってるだろう? 『体内』で魔法を生成すれば行使できると」
「く、クソが………長い年月をかけ……完璧に勝てる策を考えたんだぞ! それが……」
「人間にドラゴン島で、ブレスで消滅させられる。一興だ。消えろ魔王」
フリルの口内が、きらめく。
次の瞬間、
「このバケモンに、力でねじ伏せられるだとおお!!」
フリルの口から放たれた灼熱の炎は、魔王の声と共に、魔王の存在そのものを消滅させた。
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