第33話 魔王ディノス・ヴィスヘヴィゼ

 聖獄の島。ユグドの家。


「つまり、魔王復活が早まったのはユグドのサボりが原因と」

「てめえ何やってんだよ! どれだけ苦労して封印したと思ってんだよ! クソチビが!」


 ユグドのサボりがバレた。


 妖精王と鬼神が攻め立てるが、ユグドはすかした顔をしていた。反省するどころか、まだわかっておらんのか、と開き直った顔をして、鼻息をふく。


「あと百年もしたら、フリルが死んでしまうじゃろ? じゃから、今のうちに封印解除して倒そうという魂胆よ。そのくらいもわからんとは、四王のレベルも落ちたのぉ」


 もちろん嘘、後付けである。そんなことなど知るわけがない男二人は、少し悔しそうな顔をした。


「ポロン、勇者の修行は済んでおるな?」


 まるで事前に準備していたかのような口ぶりである。


「はぁ……大変でしたからね。あの人たちまとめるの。わがままに、ひねくれに、虚弱、コミュ障に、喧嘩っ早い人、常識人ツラした戦闘狂、なんでこうもキャラが濃いんですかね」

「と言うことじゃ。ワシは数百年も前からこのタイミングを待っていたのじゃよ」


 嘘である。ここ数週間のことである。


「お前にそこまで計画性があるとは思いませんが。手は早いほうがいでしょう。今すぐに行きますか。勇者たちの準備は整っているのですね?」

「もちろんじゃ! ジャロ?」

「えぇまぁ………なんか手柄だけ取られるみたいで嫌ですが」

「よおーし、出発じゃ!」


 ポロンの小言は全力で無視を決め込むユグド。ポロンは少しムッとする。


 実は、ユグドもユグドで、ポロンが修行に励んでいる間、魔人討伐に勤しんでいた。

 60体程しかフリルの元に集まらなかったのも、ユグドや他の四王が討伐していたからである。


 全員がフリルを見る。


「いや、転移していこうと思ってたんだけど、マップに映らなくて、移動できないんだよね」


 何もない空間から取り出した、色のついた動くマップを見て驚いたことは言うまでもないが、今回は省略させていただく。


「だから少し離れた位置になるよ」

「構いませんよね。みなさん」



 数百キロのの範囲でフリルのマップは機能していなかった。そのため、その周辺に転移した。辺りは不気味な森が広がり、太陽が登っているというのに薄暗い。


 四王とそのお付き。フリルにマナ。あと勇者達の17人といった大所帯だった。


「ああ! それは私のサンドイッチですよ! イザベラ! あなたにはあなたのがあるじゃないですか!」

「なーによ、サンドイッチひとつで。お子ちゃまねー」

「あのな、世界観丸潰れだろうが! サンドイッチでケンカしてんじゃねえよ! ピクニック気分か!!」


 例のごとくドタバタする3人。

 魔王戦前の重たい雰囲気が吹き飛んだのも彼らのおかげかもしれない。

 ユグドの頭に若干の不安が押し寄せてきた。


「ポロン、本当に大丈夫なんじゃろうな………?」

「大丈夫ですよ、追い詰められれば必ず修行の成果を発揮します。というか、そもそも戦闘要員じゃないですよ、彼らは。あくまで戦闘、というか盾役になるのは四王で、我々は後方援護ですから。余波で死なない程度になっただけです。戦闘を求めるなんてお門違いです」


 ポロンがそういうなら信じよう。

 そこから四手に分かれ、魔王城を捜索することとなった。何せマップに映らない範囲が広すぎて、纏まって行動するのは効率的ではない。


「こっちはヴィネスとルイスとユウタとシルビアとイザベラとマナか」


 明らかに人数配分がおかしい。17を4で割ったはずであるが、なぜかフリルも合わせて7人もいる。フリルの元にいた方が安心だからと、そういう理由らしい。

 ただ、ユウタとシルビアとイザベラのセットは、誰も引き取ろうとしなかったためフリルに押しつけられた。


「フリルさん! お久しぶりです!」

「……久しぶり」

「久しぶり、みんな強くなってるみたいだね」


 この二人には元々才能があったらしい。以前とは見違えるほど強くなっていた。


「フリルさん! 約束の品がまだ届いてないですのですが! 杖のことです!」

「あぁ、ちょっと立て込んでてさ。ちょうど木があるし、今作るよ」

「修行で力をつけた私に、フリルさんの杖を装備させれば、まさに鬼に金棒! 私に杖! きっと役に立って見せますよ!」


 適当な木を風魔法で伐採し、手頃なサイズの杖を100本ほど作る。

 手に取ったシルビアは頬を染め、潤沢な魔力を含んだその杖に、頬を擦り付ける。


「おぉ! やはりあなたの杖は最高品です!」

「喜んでもらってよかった」


 フリルはサッとイザベラの方を向く。


「ところで、女神とか言ってたよね?」

「ええそうよ? 敬いなさい?」

「あ、フリルさん、こいつ駄女神なんで、神の力とか期待できないっすよ」

「ちょっとあんたねえ!!」

「そうです、はっきり言って足手まといでしかないですよ。修行もサボってましたし、そうだ、ここに置いていきましょう!」


 ユウタやシルビアに、散々ボロカスに言われる女神イザベラだが、その間にフリルは巨大な城を見つけていた。


「でかいな……てっぺんは雲に隠れているじゃないか」


 物々しい外観にもかかわらず、中は多くの照明で照らされ、赤いカーペットや艶やかな骨董品、巨大な壁画など、やたら華やかな城であった。


 中に入ると、突然男が現れた。


「いらっしゃい。ようこそ魔王城へ。魔王のディノス・ヴィスヘヴィゼだ」


 ルイスとヴィネスは咄嗟に構える。


「戦う意志はない。せっかく来てくれたのだ。これから食事でもどうだ」


 一瞬で移動し、貴族が食事をするような長いテーブルについていた。

 フリルは違和感を感じていた。以前あった魔王とは何もかもが違う。顔も、姿も、声も、雰囲気も。


「おや、以前どこかであったことがあるかな?」

「一度倒したはずなんだけど、その時の姿とは全然違うんだなと思って」

「あぁ、封印の。封印は私そのものを封印しているわけではなく、異空間に閉じ込めた私の魔力を、空いた穴から漏れないように上から蓋をする役割だ。正確に言えば、あれは魔王では無い。蓋から少し漏れた魔力が具現化したただのゴミだ。俺ではない」


 以前、フリルは魔王を倒した。その時、フリルは自身にかけている封印を第二段階まで解除し、ようやく倒すことができた。


 魔王はそれを、ただのゴミだと言い放った。


「ていうかさ、魔王ってもっとなんかこう、邪悪な感じで破壊破壊破壊!ってイメージだったのに、案外そんなことなさそうだよな」

「ですね。もし攻撃してこようものなら私の風魔法で細切れにして差し上げようと思っていたのですが、拍子抜けです」


 その隣で、黙々と飯を食うイザベラ。


「フリルさん、多少会話の余地がありそうですね」

「あぁ、以前戦った魔王のイメージが先行して、警戒していたが、どうやら思ったよりも話のできない相手では無いらしい」


 魔王に対して誤解があった。全員の中でそのような認識が広がり始めていた。

 四王があれだけ恐れていたのはなんだったのか。そう思わざるを得ないほど、魔王に対してのイメージが変わっていった。


「あのさ、あんたってなにをしでかして、封印されちゃってたわけ?」


 口をもぐもぐさせながら、イザベラが魔王に問う。


「特になにも」

「そんなわけないでしょ。隠さず言いなさいよ、また封印される前に言いたいことあるなら、言っといた方がいいわよ。」

「俺はただ、」


 その時、地面が揺れた。城の外には四王が揃っていた。どうやら、城に対して攻撃を仕掛けたらしい。


「来たか。もう少し食事を楽しめると思ったのだがな」


 魔王の姿が消えた。


「な、なんだか、四王にあれだけ敵視されるような感じの人には見えなかったですね……」

「……うん。魔王は悪いやつだっていう認識が強かったせいで、ちょっと肩透かしくらった。」


 ヴィネスとルイスの言葉にイザベラが反応する。


「いいや! 本物の悪い奴は大抵あーゆー態度取るものよ! 女神の勘がそう言ってるわ!」


 当たったことあるのかよ、とユウタが呟き、野次に食いついたイザベラの取っ組み合いが始まった。


 フリルはというと……何かを考えているような表情で、空を見つめていた。

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