第34話 魔王戦

「まだフリル達は来てないようじゃの」

「お前、その姿は?」


 と、妖精王コルベード。


「あ? 龍人化じゃよ。ワシも成長しとるんでな」


 少し身長が伸び、尻尾が生え、頭にツノが生えている。筋肉フリルを見て着想を得たらしい。以前はフリルがユグドから教わる立場だったが、逆転してしまったようだ。


「もう準備万端だぜ! フリルが到着する前に多少でも削っておくぞ!」


 と鬼神ドラストフ。こちらも形態変化し、頭のツノが30センチほどに伸び、肩や膝といった体の角にも巨大なツノが生えている。


「一つ呪縛玉が潰れてしまったようですので、今回の魔王は以前より強いですよ。気を引き締めましょう」


 と精霊王クレム。こちらもアゲハ蝶のような羽が生え、極彩色に輝いていた。


「が…………は、ハイ……」


光の剣を構え、勇者も準備万端? である。修行したとはいえ、人見知りは治らず。多分、頑張りますと言いたかったのだと思う。


「準備はよいな」


 いうと、ユグドは口から城に向かって火炎を吐いた。

 城に直撃する。


「はぁーやはり出鱈目な硬さじゃの」


 攻撃力四王最強のユグドの攻撃を受け、城はレンガが一つ二つふき飛んだのみであった。

 程なくして、10人の前に魔王が現れる。


「久しぶりだな。四王の連中は変わっていないのか」

「魔王、できるだけ早めに封印させていただきますよ」


 勇者以外の四人が一斉に動き出す。先に魔王に辿り着いたのはユグドであった。


「ユグド! 結界を張った! 全力で叩け!」

「言われんでもわかっとるわい。どりゃあああ!!」


 妖精王コルベードが、周囲に結界を張る。

 龍人化によって強化された拳を大きく振るう。魔王が弾かれる。その先にはドラストフが待ち構えていた。


「やすませんぞ! どらああ!」


 拳2発打ち込み、魔王の体は上空へと蹴り上げられた。その先には、


「この星の怒り、受けてみなさい」


 クレムが手を構える。途端、背中の羽が巨大化し、手から光が溢れる。

 放たれた光線は魔王を包み込んだ。


「ドラストフ! ワシらも続くぞ!」


 ユグドの破壊光線、ドラストフの呪殺凶玉が、魔王を襲う。


「どれだけ怠けていようと、四王は四王なのですね。ユグド様」


 激しい戦闘を繰り広げる四人に、バフをかけ続けつつ、ポロンはこぼす。

 そして、四王の全力の攻撃を受けた魔王は、


「嘆かわしいな」


 服の一片すらもダメージを受けていなかった。


「ちぃーっ、多少は削れるとおもっとったんじゃがな」

「やはり、呪縛玉を潰したのが失敗でしたね。奴の纏う障壁魔法はもはや、我々とは次元が違うようです」

「ははっ、前は多少食らってたんだがなぁ」

「戦意喪失している場合か!! 来るぞ! 構えろ!」


 魔王が空を蹴る。次の瞬間、ユグドは防御姿勢をとったが、それよりも早く魔王の拳がユグドの腹を抉っていた。


「くはっ!」


 魔王は鬼神の方へ向かう。距離があったため一撃目は防いだ。だが、あまりの威力に腕が痺れ意識が飛びかける。続く二連撃を為す術なくくらい、ツノの破片と共に森へ蹴り落とされた。


 精霊王クレムは、二発目の光線を放っていた。それを、魔王は反魔法で防ぐどころか、威力を倍にして叩き返す。


「なんですか……あの……強さは……以前とはまるで……きゃあああああ!」


 クレムがやられている間、妖精王コルベードも黙ってみていたわけではない。魔王は謎の圧力に押され、窮屈に閉じ込められていく。


「防御に特化した障壁だ。ユグドですら破れぬ」


 徐々に覆った球が小さくなり、魔王の動く隙間さえ消えていく。

 このまま圧殺する。


 だが、球の縮小は突然止まった。


「この程度で、俺を止められると思うな」


 魔王の体から魔力が激しく溢れ出す。


「はぁぁああああ!!!」


 球が徐々に押し返されていく。


「な、なに……くそ!! はぁあ!!」


 必死の抵抗虚しく、再び魔王が外に出てしまった。コルベードは絶望に顔を染める。


「そ、そんな……バカな……」


 今度は自分が球に覆われていたのだ。


「次はお前の番だ」


 手を握る。

 抵抗する間も無く、球は一気に収縮し、妖精王が消えた。





「ユグド様!!」


 変身も解けたユグドが森に落ちていた。ポロンが駆け寄り回復魔法をかける。


「はぁ……呪縛玉一つあれだけ強くなるとは、予想外じゃったの。」


 遠い目をしながら、地面に手をつきゆっくりと上半身を起こす。


「他の人は?」

「付き人が向かってます。しかし、助かったのは鬼神様だけかと……」

「そうか。あやつとワシは頑丈じゃからの。……フリルはまだこんのか?」

「いえ、既に」


 上空を見れば、二人は既に対峙していた。

 よく見ると、フリルは魔神と戦った時のような格好をしていない。いつもの中肉中背のフリルであった。


「フリルさんは勝てるのでしょうか……」

「安心せい」


 その言葉に、ポロンはホッとする。


「フリルが負けたらもう終わりじゃからの」

「……嘘でもいいから安心させるような言葉をくださいよ。」



「精霊王と妖精王の気配が消えた。殺したのか」

「いいや、ただ飛んできた虫を払っただけだが。お前は良いのか? 変身しなくて」

「必要ない」


 先制攻撃を仕掛けたのは魔王の方だった。突き出した左腕に禍々しく魔力が纏わり付き、放たれた魔法がフリルを飲み込む。


 何もせず、フリルはそれを受けた。


 魔王は驚きと好奇心を秘めたような表情をする。


「ほう」

「障壁魔法なら得意でね」


 さらに、フリルの左腕に激しく魔力が集まる。


「お返しするよ」


 放たれ、辺り一帯が一瞬明るくなった。威力は、先ほどの倍はありそうである。


 魔王は無傷のままだったが、フリルも特に驚きはしなかった。


「やっぱりか」

「お互い神経をつかうな。こうも世界が脆いのでは」


 距離を詰めつつ、魔王の全身から魔力が溢れ出る。


「俺は特に不便をしてないけどね」

「強がりを」


 魔王が拳を繰り出す。フリルはそれをかわす。一撃一撃が徐々に速度とパワーを増していく。


「強がってなんかないよ。自己満かもしれないけど、みんなに頼られて、最近は村まで作ったりして、充実してるよ。君のせいでここ数日村にいけてないんだけどね」




「これは、決着つかんようじゃの……決着の前に世界が壊れてしまうわい」

「でも、あれだけの戦いをしてたら魔力も消耗するのでは?」

「いや。お主はあいつらの力をわかっとらんの。奴らにとってはあれは戦闘じゃないんじゃ。確かにあれほどの戦いは魔力消耗が激しい。じゃが、それ以上の速度で奴らの魔力は回復し続けるんじゃよ」


 四王の中でも圧倒的な魔力量を誇る精霊王クレム。しかし、クレムがあの戦い方をすれば1分も続かないだろう。


「やはり今回も封印ですか」

「くっそー、フリルが余裕でぶっ倒すとおもっとったんじゃがのー」





「気を抜けばすぐに死んでしまうような人間と、よく過ごせるな」

「それは君が弱いからそう思うだけだよ」


 魔王のこめかみがピクっと痙攣する。


「俺が弱いだと?」

「あぁ、弱い。証拠に、君の魔力はどんどん外に溢れ出ている」


 息もつかぬような激しい戦闘にも関わらず、徐々に溢れ出る魔力が大きくなる魔王に対し、フリルはほとんど魔力を漏らしていなかった。


「未熟すぎるんだよ。魔力制御が」

「ほざけ!!」


 魔王が渾身の一撃を振るう。大きく空振り、フリルの流れるようなカウンターが、魔王の顎に突き刺さった。


「くはっ!!」

「君はどうやら勘違いをしている。自分の弱さを周りのせいにしている。自分の魔力をコントロールするという最低限の努力すら怠って」

「知った口を聞きやがって」


 それまで余裕に溢れていた魔王の顔に、苛立ちが見え始めた。


「それともう一つ。俺は君を殺せるよ。世界を壊さずにね」

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