第38話 プロローグ
「なんじゃ、生きておったのか?」
ユグドがノリよく声をかける。声をかけた先、鬼神ドラストフは小さく丸まっていた。
「あっ……あ、あの……今は……その……」
お付きのコウメが、おどおどしながら、今はそっとしておいてほしいとジェスチャーする。
まぁただ……ユグドがそんな物に気を使えるわけがない。
お構いなしに、ユグドは小さいあんよでドラストフを蹴っ飛ばした。
「まさか、ワシらだけ生き残るとはのぉ。中途半端に耐久力が高いと嫌じゃの」
「ぐすっ……う、うぅ……生きてやがったのかクソチビ……」
「バカタレ! メソメソするんじゃないわ! お前の顔で泣かれると気持ちが悪い!」
「う、ウルセェ……あいつらはほんとにいい奴だったんだぜ……クレム……コルベード……」
低い唸り声をあげ、ドラストフの背中が震える。
流石のユグドもようやく察したか、トーンダウンし、しんみりとした空気が流れた。
「それは知っとる。じゃが嘆いても仕方なかろう。奴らの弔いもかねて、全員が集まり次第、祝杯をあげる。お主も必ずくるんじゃぞ」
「うっ……おえっ……」
しばらく眺め、バカが。と小さく言い残し、ユグドは一人森へ消えていった。
ポロンが追うと、ユグドの小さな頬がきらりと光る。
「ユグド様………」
「もう……あいつらに罵られんかと思うと、せいせいするのぉ」
声が時折震えている。
「コルベードの奴は、いちいち小言の多い奴じゃったな。ほんとにムカつく奴じゃった。何回誘いを断っても、四王で集まる時は毎回声をかけおって……頼んでもいないのに……ワシが戦いやすいように……命を削る障壁を使いおって……」
小さなおててをぎゅっと掴んだ。ポロンがユグドに寄り添い、鼻を啜る。
「クレムの奴は……数百年も前にちょろっと好きじゃと言ったワシのお気に入り菓子を、頼んでもないのに、ワシが来ないとわかっている四王会議に毎回準備してきおってのぉ……何が、きた時に喜んでくれる……じゃ。お前が手紙と共に送り続けてくるせいで、飽き飽きしとったんじゃわ。……ほんとにうっとうしい奴じゃった……」
ぎゅっとおめめを瞑り、必死に涙を流さんとするが、ユグドの柔らかい頬には小川が流れていた。瞑った眼から溢れ出す涙が、ポタポタと顎を滴る。
「本当に……死んでくれて……せいせ………ぃ………」
下唇を噛み、ぐちゃぐちゃの顔で強がりな笑顔を作る。
「………したわい。」
「ユグド様は、本当に皆さんのことが大好きだったのですね……」
じゃなければ、あれだけ罵られながら、お互いに近況報告をしあったりはしなかっただろう。
じゃなければ、あれほどまでに連携の取れた攻撃はできなかったであろう。
じゃなければ、めんどくさいという理由で四王会議に参加しなかったユグドを、長い間待つことはしなかっただろう……
ユグドは「余計なこと言うんじゃない」と掠れ気味の声で言うと、溢れた感情を抑えきれず、声を上げて嗚咽を呑んだ。
「すぐに戻るから」
フリルの村。魔物を1匹も討伐できず帰ってきた四人も連れ、村に戻ってきていた。
そう言って、一人でフリルは村を去る。
「フリルの村か案外普通だな。あ、あの木の家とか、お前ら好きなんじゃねえか?」
ドラストフが周囲を見渡し、寂しそうに肩を落とす。そこに、妖精王コルベードの姿はなかった。
「コルベードはもう死んどるわアホ」
「まだ慣れねえんだよ。クソチビが」
フリルは魔王城付近へと戻ってきていた。
城の影に、人影を見つける。満身創痍で倒れる魔王だった。
「よっ」
「………貴様か。殺しに来たか」
「いいや」
「またあんな賭けに出るのはごめんだよ」と、仰向けに倒れる魔王の隣、フリルは腰を下ろす。
「城で一緒にご飯食べた時思ったんだよ。美味いなって」
「……そうか」
「あんな料理、興味がなければ作れないだろ? 四王の話にも、魔王は強いとかやばいとかいうだけで、具体的な事は出なかったし、戦ってる時も世界を滅ぼそうとはしなかった。君さ、本当は悪い奴じゃないんじゃないかなって思って」
フリルは続ける。
「イザベラ……あの食い意地の張った子に質問された時、何を言おうとしたのか気になってさ。戻ってきた。俺はただ、の続き」
「……答える義理はあるか?」
「イザベラには答えようとしたんだから、俺にだって教えてくれていいだろ? さっきまで殴り合ってた仲だけどさ」
一瞬言葉を詰まらせた後、魔王は空を見上げる。
「お前の察しの通り、俺には世界をどうにかしてやろうという気はない。普通に、生活したかった。誰かと食卓を囲み、たわいもない話で笑い、たまに喧嘩をし、仲直りをして、そういう普通の生活をしたかった」
拳を強く握りしめる。
「だが、世界はそれを許さなかった。徐々に抑えきれなくなった膨大な魔力は、周囲に魔物を寄せ付け、村からは追い出された。森に隔離された。師匠のような人がいたが、俺に魔法の基礎を教えた後、死んだ。俺の魔力から生み出された魔物のせいで、あれほど強かった師匠も、あっさり死んだ。お前は努力が足りないと言ったが、それは違う。俺にはお前のような才能はない。誰かに教えてもらわねば何もできぬ、ただ人より魔力が多いだけの凡才だ」
そう話す魔王はひどく悲しい顔をしていた。
「天才であるお前の基準で、弱者を語るな」
その言葉に、フリルはハッとする。思い当たることがあった。これまでフリルが言われ続けてきた事、
『フリルはすごい』
そんなことないよ。
何度言われてもそうやって、無自覚を貫き通してきたフリルが、少しだけ言葉に詰まった。
「……俺は親は居ないし、ずっと山で育ったけど、八歳の時点で余分な魔力は封印してたな。……そっか、努力が足りないとか勝手に決めつけて悪かった」
「……八歳か、俺はまだ魔法の存在すら認知してなかったな」
「まぁでもさ、これでわかった。四王が君を必死になって封印してた理由が。魔力が強すぎて周囲に魔物を生み出してしまうんだろ?」
「………そうだな」
フリルは淡々と続ける。
「だったらさ、俺の村に来ない?」
「ふん、何を言うかと思えば。貴様の村とやらを魔物に潰されたいのか」
魔王の嘲笑を、フリルは逆に笑い飛ばした。
「溢れ出る魔力が魔物発生の原因だったんだから、もうそれはさっき解決しただろ? 俺のおかげで!」
たしかに、魔王はフリルの技を会得し、魔力の出量を完全にコントロールできるようになった。フリルがいなければ、魔王は今も絶え間なく溢れる膨大な魔力で、世界を危機に陥れていただろう。
一瞬つまった後、魔王は唾を飲む。
「……本気なのか」
「うん、うちに料理人欲しいなって思ってたところだし。子供たちも喜んでくれると思う。魔力もコントロールできるようになったんだし、普通に遊べるじゃん。来なよ。ここに一人居るのは勿体無いよ」
フリルは魔王に回復を施す。
「よし! 村に出発だ! 子供の相手は疲れるから、覚悟しとけよ! ディノス!」
今まで魔王としか呼ばれてこなかった。しかし、その魔王にも名があった。大切な師匠に名付けられたディノス・ヴィスへヴィゼという素晴らしい名が。
久しぶりに誰かに呼ばれたディノスは、一瞬だけ胸を掴まれるような、そんな感覚になった。
「…………名は」
「フリルだ! サーデル・フリル!」
「ちゃんと対価は要求するからな」
「そ、それはおいおいと言うことで…………んじゃ、いざ! 村へ!!」
「あぁ……そうだな。フリル」
師匠と死別して以来数千年ぶりに、人々に魔王と恐れられ、殺意を向け続けられてきあたディノスが、心の底からの笑顔を見せた。
『魔王復活編〜完〜』
こうして、魔王の脅威は去り、フリルの活躍で、世界は救われた。大きな犠牲は払ったものの、マナの活躍のおかげで、歴代最小の被害である。
ディノスは、フリルのおかげで、自らの魔力をコントロールすることに成功し、フリルの村で、『料理人』として暮らすことになった。
当然、たくさんの反対があった。しかし、魔王と食事を共にし、元から悪いイメージなど持っていないイザベラやユウタなどの説得もあり、徐々に馴染んだ。
意外にも、子供に好かれる体質だったようで、ディノスの顔には、日に日に笑顔が増えていった。
フリルがいなければ、魔王は今も、絶え間なく溢れる膨大な魔力で、世界を危機に陥れ続けていただろう。そのせいで、ディノスもその先永遠に孤独のまま、全ての種族に殺意を向けられ、生き続けたはず。
それを救ったのは、他でもないフリルである。
フリルは世界だけでなく、魔王までも孤独と悲しみから救ったのだ。
魔物によって身内が殺された人たちにとっては、ハッピーエンド……とは行かないかもしれない。それでも、魔王の話を聞けば、徐々に、魔王に憎悪を向けるのは話が違うと、気づく者が増えていった。
一方、その裏では、フリルの元上司、イェラン・グリルモートが首謀した反乱が成功、国王は暗殺された。事実上、王国の崩壊である。
とはいえ、財政破綻で既に崩壊しかけていた王国は、滅亡まで秒読みの状態であった。グリルモートは、そこにトドメを刺しただけである。
グリルモートがやらなくても、近いうちに王は自ら命を絶っていただろう。反乱も、たった数人でひっそりと行われた。裏で何か取引があったのかもしれないが、それを知るのは今、誰もいない。
この時代を生きた者たちにとっては残念なことではあるが、数百年後、グリルモートは国の腐敗を救った英雄として、教科書に載ることになってしまう。フリルを追放することで国を危機に陥れ、自ら滅ぼすことで英雄となる、壮大なマッチポンプである。
一方フリルはというと、伝説上の人物として都市伝説扱いされていた。魔王が存在したことすらも忘れ去られ、信じる者は皆、頭のおかしい者扱いである。
『怪物フリル』は空想上のものであるという説が、最も有力ではあるが、存在を否定できない証拠も多々あった。
まず、王立学院の前の銅像はなんなのか?
その答えとしてよく挙げられるのが、『生徒たちへの激励』である。上を目指せ、そういう意図を込めて作られた物だと主張されている。
まぁ、設置理由が誰かさんのせいで特に明かされぬままだったので、それに関して特に文献が残っていないのだ。仕方ない。
他には、王国滅亡前の物理的に不可能なレベルの王国の発展。
今となっては空想上のものとされる『魔物』の存在に脅かされていた王国が、その二年間だけ被害が激減、更に『連絡』をすれば、修理も数分とかからず行われていたと記されているのだ。
いまだに通信機器も、転移魔法も一般的ではない社会にとって、なんじゃそりゃ? である。
否定しようにも、公式の文献として残っているため、否定すれば自らの国の歴史を否定することになる。そう言うわけで、そこについて議論することはタブーとなっていた。
一応、その翌年、信じられない規模の負債が発生しているので、二年間湯水のように金を使ったせいだろうと、そう結論がつけられている。
当たり前だが、これにも深く突っ込んではいけない。名前は変われど、王国は王国。その歴史に疑問なんて持ったら、即牢屋だからね。
また、度々冒険者らによって発掘される『魔導具』の数々も証拠の一つだ。
それは現代では再現不可能な、というかどの時代に遡っても再現不可能な物で、いつ作られたものなのか、誰が作ったものなのかははっきりとしていない。
どれもこれも全く正常に作動し、しかも世界経済を狂わせる代物なので政府によって厳重に管理され、情報統制が行われている。
ある日突然ただの冒険者が大金持ちになるのだから、冒険者界隈では『神の御霊』として有名な話であった。
まぁ、言わなくてもわかるだろうが、彼らが発掘したものは全てフリル曰く『ゴミ』である。それを面白半分で埋めまくったアホがいて、数百年の時を経て発見されるようになった。それだけのことである。そのアホの名は、『ユウタ』という。
他にも、フリルがいた証拠はある。毎年、王立学院に入学する生徒達だ。設立してもう千周年を超えた、由緒ある学院。フリルの母校で、ご存知の通り化け物揃いの魔境である。
そんな魔境に、その中でも更に突出した生徒が毎年数人入学してくるのである。たまにではなく、毎年であることがこの話の肝だ。
彼らは学年トップを独占し、一、二年で飛び級してさっさと卒業してしまう。奇妙なことに、彼らの出身地を聞くと必ず同じ村を上げるのだ。
『サーデル村』
森と地下に広がる小さな村だという。だが、人間がどこを探してもそんな村はない。誰が作った地図かはわからないが、地図にすら載っていないのだ。(たまに冒険者が見つける『神の御霊』には載っている)
更に疑わしいことに、その村があるのは学院から距離にして約一ヶ月はかかる程遠い村である。
そんな村が存在するわけないだろう。
当然の反応である。瞬間移動できると説明したところで、馬鹿にされるだけだし、掘っても掘っても辿り着かないような地下に、爽やかな森の空気が溢れ、太陽の光が差しているなんて、誰も真面目に話したりはしない。
だって、とんでもないアホだと思われちゃうし。それが更にフリルの存在を信じてもらえない原因の一つだった。
その生徒達は皆、学院の銅像を嬉しそうに眺める。そして、口を揃えて、「英雄フリルみたいになりたいなー」というのだ。
そんなの存在しないよ。伝説上の作り話だよ。ありえないもん。
そう一般人に否定されても、子供達は気にすることなくニコニコ笑う。そして、意味不明な言葉を並べて、変人扱いを受ける。
「おじさん! 英雄フリルの話聞かせて!!」「おじさん! 私も私も!」「僕も!」
「いいだろう。いいか? 今から数百年も前の話だ……」
その村は実在するし、みんながフリルを信じるのは、フリルの死後、村長となったある男が、ずーっと、子供達にその話を聞かせてやっているからである。
その話を疑う者など誰もいない。純粋だからではない。大人だってみんな信じている。
だって、目の前には学校のみんなが言う『ありえない伝説上の存在』がいるのだから。
たまに、龍王やら精霊王やら妖精王やらが遊びにくる彼らにとっては、伝説でもなんでもなかった。
それに、村を象徴する巨大樹の根元に、しっかりと『サーデル・フリル。ここに眠る』と書かれた墓石があるのだ。いろいろあって、本当にここに眠っているのか……と聞かれると難しい話にはなるが、とりあえず、肉体が限界を迎え、フリルはこの世に入られなくなったということは理解してもらいたい。
そんなことで、この時代にも、フリルがいたことを完全に証明することができる者が数名存在する。でも、世間に興味のない者たちなので、わざわざ伝聞して回ることはなかった。
あ、それと、魔王を倒したというか、魔王が世界の脅威ではなくなったことで、勇者の力の伝承が、カエデの後から途絶えてしまった事も原因だ。国同士が争いをしていたのは、その『勇者』を取り合っていたから、と説明したところで、今の学者さん達は誰も信じない。
歴史上全ての謎は、フリルがいたことにすれば、まるっと収まるのだが、彼らはロジックが大好きで、彼らの理論を超えるものは全てが捏造。そう思っている。そして考えることをやめ、謎は謎のまま放置し、適当に理由付けしてタブー視しているのだ。
こうして、フリルやその周辺の者たちは、伝説上の扱いを受ける存在となってしまった。
大陸で別れているため、今も種族間の交流はほとんどない。それに、ほとんどの時間を村で過ごしていたので、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが、一時期王国では、フリルの名前を知らない者などいない程、高い知名度を誇っていたのに、記憶の風化とは残酷なものである。
とまあ、未来すぎる話はこの辺にして、少し前に戻って、革命の後の話だ。
革命後、グリルモートが新たな国王として君臨するかと思われていた。
しかし、そうなることは無かった。彼は諸外国に丸投げしたのだ。
その後、周辺の国々で処遇を検討されたが、天文学的数字の負債を抱えた国など、誰も引き取りたがらなかった。
会議が煮詰まって数日後、突然、西国のユミル・ローカラッテが完全吸収することを発表。
「あんな爆弾を自ら懐に入れるなど、とんでもない愚王だ!!」
と、世間からはバッシングを浴びたが、とうとうろくな説明もせずに任期を迎えてしまった。しかも、止める寸前に『借金帳消し』という、とんでもない強権を発動してから去っていった。
そういうことがあり、王国を手に入れた理由が、フリルが働いていた王宮を自分のものにしたかったから、とは誰も知らない。
吸収後、王国は崩壊したが、重要な遺産であるとして、ルイスの通う王立学院はそのまま維持された。
予算が追加されたが、ユミルの指示で、なぜかフリルの銅像が設置された。
『偉人 サーデル・フリル』
デカデカとそう掘られた銅像は、学校の校門の前で、今も登校する生徒を見守っている。
この予算の使い方で、散々世論が荒れたが、抗議のためにフリルがユミルの元に来たので、ご本人としては結果オーライである。
その翌年の入学試験。
そこにはシルビアとカエデとマナの姿があった。フリルは止めたが、本人の希望もあり、三人は学院に通うことになったのだ。
龍王(のお付き)に修行をつけられ、魔王戦に参戦していた三人。
言うまでもないが、オーバーキル気味に、入学成績トップ3を占領した。圧倒的な実力で、実技の一種目だけで突破してしまったわけだ。
先生たちの間では、フリルの再来だとか、奇跡の世代だとか言われ、飛び級を勧められたが、三人ともそれぞれ断った。
特に卒業を急ぐ理由もないし、学院生活を味わってみたかったというカエデ。あと、制服がかわいいという、フリルにはあまり理解できない回答が返ってきた。
フリル様が在籍した学舎を早く出てしまうなど、勿体無いというマナ。こちらは恥ずかしいが、まぁまぁ納得した。
問題はシルビアだが、魔法科の制服がかっこいいからという理由らしい。散々手を加えまくって、もはや原型をとどめていない状態だが、シルビアがそれでいいなら、とそれはフリルも理解した。
ただ、どうしても理解できなかったのは、シルビア様の力を世間に知らしめるため、という理由だ。特に困ったが、魔王のあの発言以降、理解できなくても受け入れる。という考えがフリルに芽生えたので、そういうものなんだと流した。
その後、何でもかんでも受け入れないで下さい! と、ルイスに説教を喰らったのは、ちょっとだけ悲しかったようだ。
やりたいということを否定する理由はない。そういうわけで、三人とも、学院へ通うことになった。
しかし、
目立つものとして、避けては通れない道。
シルビアの高飛車な性格、マナの幼い見た目、人見知りしすぎるカエデ、それぞれやっぱり粗暴な輩に絡まれたり、決闘を申し込まれることが多々あった。それを見て、学内大会で上級生を圧倒したルイスも、飛び級卒業を勧められたが、三人の世話をしなければならないという責任感で、学院に残ることを決意した。
もちろん、三人の心配もあったが、それ以上に絡んだ相手の心配の方が大きかった。というか、ほとんど相手の心配である。
シルビアとマナは相手を半殺しにするたびに、カエデはされるがままボコられるたびに(とは言っても頑丈過ぎて実際ダメージはない)、ルイスのお叱りを受け、不貞腐れていたが、それも今では無くなったらしい。
ルイスが戦闘の代わりに教えた痛覚魔法が、思ったより効果を発揮したのだ。
ずっと魔王といがみあっていた四王も、徐々に打ち解けていった。
まだ完全にはディノスを許せないようだが、子供たちに囲まれ、幸せそうな笑顔をするディノスをみて、ディノスの事情も多少は理解した。
ずっと悪い魔王というイメージだけで、一方的に敵意を向けていたことに対しては、ドラストフは誠実に謝罪した。
それを受けてか、ディノスもただ反撃しただけとは言え、妖精王と精霊王のことについてはすんなり謝罪した。
ユグドはまだ頑なにディノスを否定している。しかし、ディノスもディノスで、魔物の被害については仕方ないという認識なので、そこについて、たまに衝突が起きるので、しょうがないことかもしれない。にしても、ユグドはわがままですが。
定期的にフリルが孤児を見つけては連れてくるので、子供たちもさらに増え、村はより一層大きくなっていった。
毎日笑顔が溢れ、のどかな空気と、毎日起こる小さなハプニング。ゆっくりと穏やかに流れていく時間。フリルの望んだ世界がそこにはあった。
しかし、幸せはそう長くは続かないもので、マナたちが無事二年にあがった頃。
「フリルさーん、フリルさーん。お寝坊ですか〜?」
「……起きてこない。たるんでるじゃない?」
「ディノスさんも起きてきませんしね……子供たちのお昼の時間がそろそろ迫ってるのに。それに今日はお花見ですし」
勝手に部屋に入るのは良くない、以前の失敗からそう思い、今まで待ったが、出てくることはなかった。
「フリル様はまだ起きませんか?」
「あ、マナ。そうなのよ。起きないんだよね。ディノスさんの方はどう?」
「ディノス様もダメです。」
「……もう待てない。今日はみんなで花見をするって約束なのに。」
「いえしかし、勝手に部屋に入るのは……」
「大丈夫! ですよね!? ヴィネスさん?」
「……うん、じゃあ、マナはディノス見てきて」
二階にあるディノスの部屋、上に登ったマナは、すぐさま戻ってきた。
肩を揺らし、切羽詰まったような表情をしている。フリルの部屋を除いたルイスとヴィネスも息を忘れ、膝から崩れ落ちていた。
マナはフリルの部屋を覗き、瞬間、カッと目を見開いて部屋に飛び込んだ。
ベットに横たわるフリルの横、肩を揺らし必死に叫ぶ。しかし、いくら叫ぼうが呼ぼうが揺らそうが、ディノス同様、フリルはピクリとも反応しなかった。
フリルとディノス、二人の実力者はなんの前触れもなく、突然ベットの上で、安らかにこの世を去ったのだ。
ツヅク
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