第4報 『区画整備の重要性』

「まずは区画整備から始めよう!」

「区画整備ですか? 半径五十メートルほどなのに必要なんですか?」


 ドラゴンを抱いたルイスが首を傾げる。


「小さくても必要だし、これから大きくしていくならなお必要だよ。そうじゃないと住みやすい村づくりができなくなる」


 まだピンとこない様子のルイス。

「例えば」と前置きを置いて、空間魔法を発動させ紙を取り出した。


 ルイスは「また空間魔法………」と呟き、紙を覗き込んだ。


「白紙………ですね?」

「ここに村を作るとする。今は大体こんな感じかな、」


 いうと、その紙が端からみるみる色づいていき、

 それを見ていたルイスは「……投影魔法をカラーで………」とまた難しい顔して呟く。


「投影魔法って、普通白黒なんですからね………」


「そうだったけか? カラーの方がわかりやすくないか?」と当然のように返すフリルに、

「だから、やろうと思ってもできないって言ってるじゃ無いですか」と切り返す。


 しばらくすると、まるで上空から撮影したかのような綺麗なカラー写真が出来上がった。


「すごい、こんな細かいとこまで……あ! これ私ですね!」

「そうそう、ちなみにこんなこともできるぞ」


 フリルはその紙を「これ見てて」とルイスに渡し、そして風魔法で周辺の木を伐採した。


 ルイスは言われるまま紙を受け取り、

「!?」目を丸くして投影された紙を二度見し、目を擦る。


「え……? え?」

「リアルタイム投影だ」

「え……?」

「リアルタイム………って知らないか?」

「もちろん知ってますよ。」


「よし、それじゃ区画整備の大切さについて、」そこまで言いかけたフリルに、「待って待って」と声を掛ける。


「そうじゃなくって! 言葉を知らないから驚いたんじゃ無いんですよ!? フリルさんが人間の所業を超えたことしたから唖然として『え………』って反応になったんですっ!」

「だが、便利だろう? 現地の人たちもこっちの方がわかりやすいと言ってくれてたし。あ、一つ前の映像に戻すこともできるぞ」


「仕事で使ってたんですか!? 絶対これ誰も引き継げませんよ……」と、喉まででかかったが、フリルの手元を見て閉口した。


 ルイスの持っている紙を横にスライドさせる。すると、フリルが木を伐採する前の状態に戻ったのだ。


「………そうですね。確かに便利ですね。」


 いちいち驚いてると話が進まない、そう悟ったルイスはただただ受け入れることにした。

「だろう?」と前置きして、フリルは区画整備の説明を始める。


「区画整備されてないと、色々不都合が起きるんだ。土地を有効活用できなかったり、道が入り組んで住みにくい場所になったり、風通しがわるくなったり、雨が降った際になかなか水がはけなかったり。土地権利の不明瞭化だったり」

「さすが、王宮で働いてただけありますね!」

「都市開発を38件任されてたからね」

「……。どれだけ大変かはわかんないですけど、とんでも無いことだということはなんとなくわかります……」

「誰に引き継がれるのか心配だなぁ……ま、そんな感じで区画整備の大切さがわかったでしょ?」


 コクコクと頷くドラゴンとルイスを見て、フリルは大まかな線引きを始めた。


「ここに村のシンボルになる大きな木をおきたいなぁ、それでこの周辺を子供たちが遊べるように公園にして、このスペースに孤児院をおこう。それから――」


 着々と進んでいく土地計画を、ルイスは渡された紙越しに見てため息をこぼす。


「『誰に引き継がれるか心配だなぁ』って………誰引き継げるわけないじゃないですか……。すごいなぁ……何気にあの木を植えるって言ったとこ、ちょうど開拓したスペースのど真ん中だし。」


 またフリルさんと一緒に過ごせるのかぁ。力になれることがあればなんでもしたいけど……フリルさんにはそんなの必要ないか。


 そう思い、フリルの背中を見て勝手に落ち込むルイスに、抱かれたドラゴンが「クゥン」と鳴く。

 気づいたルイスが両手で抱え上げる。


「おぬしはほんとにいやつよのぉ。どこから来たんだい? あ、そうだ。名前をつけてあげよう! おぬしの名前は今日から『ルー』だ!」


 おどけるルイスに、ルーは「クゥン!」と嬉しそうな声をあげる。

「そうかそうか。嬉しいかぁ〜」と言って、フリルの元へと駆け出した。


「フリルさーん! この子名前『ルー』にしました!」

「ルー? ルビーから取ったのか?」

「はいっ! 可愛いですよね!」


 はしゃぐルイスにフッっと笑いかけ、


「ドラゴンの名付け親なんて世界初じゃないの?」

「確かに! いやぁ、これから楽しみですよっ! 大きくなるかなぁ? あっ、ドラゴンって人に懐くんですか?」

「高位の魔物だから頭いいし、懐くと思うよ?」

「なら子供たちがきても安心ですね!」

「今ルイスに懐いてるのは刷り込みだと思うけど」

「私と初めて目があったからですかね?」

「さぁ、どうだろう? ドラゴンの生態は全く知られてないし、何よりドラゴンの幼体が見つかったのなんて世界初だからね」

「えっ!? フリルさんでも知らないんですか!?」

「俺をなんだと思ってるんだルイスは……俺だって知らないことはあるよ。それより、」


 空間魔法で再び紙を取り出した。


「こんな感じの家を立てようと思うんだけど、どう思う?」


 そこには、木造二階建ての、王国ではあまり見ない形の家が描かれていた。

 紙をスワイプして家を中心に三百六十度回転させる。


 ルイスは「引き継ぎ役の人ほんとかわいそう……」と難しい顔をし、しばし一考したあと、コクコクと頷く。


「いいんじゃないですか? これってルイスさんの家ですか?」

「あぁ、東国にお呼ばれした際にちらっと見かけてね。いつもは無駄に装飾された空間で、箱詰めで仕事してたから憧れてたんだぁ、自然の家。これすごいんだよ。釘とか一切使ってなくて木を加工して組み合わせてるだけなんだって」

「へぇ!! それはすごいっ!」

「だろう?! よし、早速造ろう!」


 早速、フリルはまず基礎工事を始めた。


 重力魔法で木を持ち上げ、風魔法で加工する。

 さらに建築予定地の地面が掘り、柱となる木を並べる。

 そこに土と石を交互に被せ、大体の基礎が完成した。


 その土台の上に木を組み、あっという間に骨組みが完成する。


 みるみるうちに組み上がっていく家に、ルイスは少女のように目を輝かせていた。


 そして最後に壁と床を……という時、フリルの手が止まった。深刻そうな顔して「……骨組みしか無理なのでは……?」と呟く。


「どうしたんですか?」

「いやぁ……釘が一切使われてない建築だって教えられて、その技術を使って今骨組みを組んでたんだけど、どう考えても壁とか床とか屋根とかと釘なしでしっかり止めるってのは無理なんだよね……」


「弱ったな……」と呟くフリル。

 人類最高傑作が弱音を吐くという珍しい光景に、


「フリルさーん? お手伝いしましょうか?」


 ルイスはここぞとばかりに自身の有用性を訴えようとした。

 私だってフリルさんの役に立てるですよっ! と、身長差20センチほどあるフリルの顔をあざとく上目遣いで見つめる。


「うーん……」

「釘が必要なんですねっ! 私いい店知ってますよ!」

「……いやぁ」

「なんですか? 釘じゃないんですか?」

「そう……だね。あぁ……そうなのかぁ。100%天然素材の家に住みたかったんだけど……はぁ」

「仕方ないですよっ。固定できなきゃ危ないですしっ」


 困った顔したフリルに楽しそうに見つめ、頼られるのを今か今かと待つ。


「ちょっとくらい妥協してもいいかな。」


 心の中でガッツポーズを決めるルイス。

 しかし、フリルは「あの宰相見栄張りやがったな。」と毒付くと、空間魔法を展開し、


「釘を作ろう」


 と言い出した。その手には拳大の鉄鉱石が握られている。

 空振りしたルイスは、キョトンとする。


「………え?」

「この前の地勢調査で少し余分に取ってきたのがまさかここで役に立つなんてね」

「……え? 釘は………」

「わざわざお金使うのも勿体無いし、今から作るよ?」

「でも……釘の生成は専門の道具がないとできるものじゃ、」


 そこまで言ってやめた。

 フリルの手元には、既に釘が浮かんでいたからだ。


「うん?」


 口元をきゅっと結び、ルイスの目にポロポロと大粒の涙が浮かぶ。


「せっかく……せっかくフリルさんの役に立てると思ったのにぃぃ………どうせ私はフリルさんの足元にも及ばないペーペーですよ………っ!!」


 涙を流すルイスに、どうして良いかわからず手をわななかせるフリル。

 外交さえ完璧にこなしていたフリルが、人生で一番対応に困った瞬間だったという。

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