第17話 当たり前
…『ありがと』 か…
ベッドにもぐりこんだ後、ふと修哉さんのかすれた声を思い出していた。
…会社以外の人から『ありがと』なんて言われたの、いつぶりだろ…
そんな風に思いながら目を閉じたんだけど、なかなか寝付くことができずにいた。
悟は『隔週末に来ることが当たり前』になっていたし、私が夕食を作ることも、駅まで見送ることも『当たり前』。
隔週末に泊まりに来るんだけど、一度だって食費を出してくれたこともないし、大学の時からデートは完全に割り勘。
支払いの時は全額出してくれるんだけど、次に家に来た時、きっちりと請求されていたし、それが『当たり前』になっていた。
…最後のデート代、払ってなかったから、それを請求しに来たのかもなぁ。 あーもう! 忘れよ!…
そんな風に思いながら目を閉じ、無理やり眠りにつこうとしていた。
結局、まともに眠ることができず、朝食の時間を迎えていたんだけど、ほとんど食べることができずにいた。
夏美は二日酔いになってしまったようで、朝食をとることができず。
豪華な朝食を前に、ため息をつくことしかできずにいた。
朝食をほとんど残したままで部屋に戻り、帰り支度をした後、フロントに行ったんだけど、匠さんと修哉さんに会うことができないまま、シャトルバスに乗り込む。
帰りの新幹線では、夏美と二人で爆睡し、自宅へ向かったんだけど、マンションの前には誰もおらず、家の前にも誰もいない。
ホッと胸をなでおろし、自宅に入ってすぐ、洗濯を始めていた。
…引っ越しかぁ。 確かにここにいたら悟が来るかもしれないし、引っ越したほうがいいんだろうけど、この家、気に入ってるんだよねぇ…
ぼんやりと部屋の中を眺めながらそう思い、ため息をついていた。
翌朝、会社に行くために電車に揺られ、ボーっと窓の外を眺めていた。
「…おはよ」
いきなり背後から耳元で囁かれ、振り返ると修哉さんが立っている。
「あ、お、おはようございます… って、この路線で通勤してたんですか?」
小声で切り出したんだけど、修哉さんは優しく微笑みながら顔を横に振るだけ。
けど、それ以上のことは答えてくれず、会社最寄り駅に着いてしまった。
電車を降りる間際、修哉さんのほうに顔を向けると、修哉さんは優しく微笑むだけ。
「…お先に失礼します」
小声で言うと、修哉さんは優しく微笑みながら小さく頷くだけだった。
…通勤じゃないて言ってたけど、どうしたんだろ?…
不思議に思いながら会社につき、お土産を社長室に届けた後、朝の準備をしていると、夏美が出勤してきたんだけど、バタバタしているせいで切り出すことができず。
お土産を部長に手渡すと、紗耶香ちゃんはあからさまに不機嫌になってしまい、誰とも口を聞かなくなってしまった。
…そりゃそうなるか。 けど、お世話になった夏美を差し置いて、紗耶香ちゃんを連れて行くのはどうかと思うし、自分が行かないっていうのも、社長に対して失礼になるしなぁ…
そんな風に思いながら作業を続けていた。
お昼休みになり、ランチを食べながら夏美に切り出した。
「今朝、電車で修哉さんに会ったんだよね」
「マジ? 通勤電車一緒だったの?」
「ううん。 通勤ではないって言ってた」
「朝一に打合せとか… あ、もしかしたら通院だったんじゃない?」
「あ! そっちか!」
二人で話しながらランチを取り終え、自分のデスクに戻ると、紗耶香ちゃんは不機嫌そうに部署に戻ってきたんだけど、朝よりも機嫌が悪い。
部長の前では普通なんだけど、部長がいなくなった途端、八つ当たりをするように、引き出しを閉めたり、乱暴にドアを閉めたりと、担当である坂崎さんも呆れかえり、みんなは当たり前のように紗耶香ちゃんを避けていた。
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