第23話 旧友

藤田さんの話を聞きながら夕食を食べた後、どうしても事故の話が頭を離れず。


かといって、本人に連絡をする気にもなれないし、悟の両親に連絡をするのもおかしい。


共通の友人と言ったら、大学時代の友達なんだけど、卒業して以降、ずっと連絡も取ってないし、悟の話を知っているとは思えない。


…どうしよっかなぁ…


そんな風に思っていると、スマホが震え、大学時代の友人である『明菜』の名前が表示されていた。


…こんなピンポイントでかかってくる?…



不思議に思いながら電話に出ると、明菜は声のトーンを低くし切り出してきた。


「あ、あかり? ねぇ、悟の話聞いたんだけどさ… 別れたってマジ?」


「うん… 誰から聞いたの?」


「本人。 車いすに乗ってるところを見たのよ」


「車いす??」


「え? 知らないの? トラックに撥ねられたって話。 『信号無視したらトラックに撥ねられて、半身不随になっちゃった』って言ってたよ。 妊婦が車いすを押してたんだけど、『その人誰?』って聞いたら『妹』即答した瞬間、車いすを投げ飛ばしてたんだよね。 『ふざけんな! てめぇのせいだろうがぁ!』って、ものすごい剣幕で怒鳴っててさぁ。 悟が泣きながら謝罪してたんだけど、ありゃ日常的に暴力振るわれてそうな感じだね」


「DVってやつ?」


「うん。 泣きながら『嫁です』って言ってた。 奥さんの実家に住んでるって言ってたし、車いすで自由がきかないしで、どこにも居場所がないんじゃないの? 『昔に戻りたい』って悟が泣きながら言ったら、嫁がまたブチ切れて大変だったのよ。 『浮気男のくせに偉そうなこと言ってんじゃねぇ!』って」


「…そこまで言ってたんだ」


「車いすに乗せるときに手伝ったんだけど、シャツがめくれて背中か見えたのよ。 背中にでっかいバツ印の縫い跡があってさぁ…」


「バツ印?」


「そそ。 背中いっぱいに大きく『×』って書いたみたいな縫い跡があった。 ちらっとだけ見えたんだけど、あれは事故の傷じゃないっぽいんだよね」


「その奥さんにやられたかもってこと?」


「そそ。 でもまぁ、悟ってモラハラ気質だったし、ざまぁって感じじゃない? 妙に偉そうだったし、ぶっちゃけ、あいつのこと嫌いだったんだよね」


その後も明菜の思い出話という名の愚痴を聞き続け、電話を切った後にため息をついた。


…車いすで結婚して奥さんが妊婦か。 『昔に戻りたい』って、浮気してたくせに都合良すぎない? ホント呆れる。 って言うかバツ印の縫い跡って、たまたまだよね?…


ため息をつきながら立ち上がり、シャワーを浴びていたんだけど、なぜかふと修哉さんの顔が頭に浮かんだ。



…修哉さん、どの辺に住んでるんだろう?…



不思議に思いながら考えていたんだけど、名前と顔以外は何も知らない。


『Nファクトリーの子会社でSEをしてる』とは言ってたし、名刺ももらったけど、子会社は松崎君が担当だから行ったことがないし、話すだけでも辛そうだったから、深く聞くことができなかった。


夏美は匠さんと連絡を取ってるっぽいけど、連絡先だって知らない状態。



…今度会ったら、連絡先聞いてみようかな…



そう思いながらシャワーを浴び終え、藤田さんからもらった缶ビールを飲んでいた。



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