第33話 カクテル

食事を終えた後、副社長のお誘いで最上階にあるバーに行ったんだけど、従業員の方は副社長を見るなり、窓際にあるカウンター席に案内してくれた。


3人で指定された席に座ると、副社長が切り出してくる。


「滝川君はカリフォルニアレモネードで、池内さんはロゼッタストーンでいいかな?」


「はい…」


不思議に思いながら返事をすると、副社長はカリフォルニアレモネードとロゼッタストーン、そしてシェリー酒を注文し、従業員の方がすぐにカクテルを運んできてくれた。


少し話しながら飲んでいると、副社長が切り出してくる。


「二人とも、カクテル言葉って知ってる?」


「カクテル言葉… ですか?」


「そそ。 花言葉みたいに、カクテルにも言葉があって、いろいろな意味が込められてるんだよ。 滝川君のカリフォルニアレモネードには『永遠の感謝』って意味があるんだ」


「永遠の感謝… ですか?」


「滝川君はいつも誠意ある対応をしてくれるのに、今までうちの市橋が失礼な態度をとっていたからね。 それでも嫌な顔一つせずに対応してくれた、僕からの気持ちだよ」


「と、とんでもないです! …ちなみに副社長のシェリー酒はどんな意味があるんですか?」


「『今夜はあなたにすべてを捧げる』 今は飲みたいから飲んでるだけで、深い意味はないよ」


「じゃあ、池内さんのロゼッタストーンは?」


「…願いが叶う」


副社長の言葉を聞き、思わず固まってしまった。



…願い? 願いが叶うって…



副社長の言葉で、今までの出来事を思い出したんだけど、身の回りに起きた出来事の大半が副社長と知り合う前。


ワイシャツとケチャップの件に関しては、口に出して言っていなかったから、叶えられるわけがないんだけど…


しばらく黙っていると、滝川君が切り出してきた。


「願いが叶うって、預言みたいですね」


「ただのカクテル言葉だよ。 深い意味は考えないで」


副社長は笑いながらそう言い切った後、シェリー酒を飲み干していた。


しばらく飲みながら話していたんだけど、滝川君は副社長に勧められるがまま、『正しき心』のカクテル言葉がある『ジンバック』や、励ましの意味合いを持つ『フローズンマルガリータ』、楽しい友人の意味合いを持つ『ウイスキーフロート』を飲み続け、最終的には座ってられない状態に。


副社長に謝罪をしながら滝川君の介抱をしていると、副社長は従業員を呼び出し、何かを話し始めていた。



少しすると、従業員の方が戻ってきたんだけど、それと同時に副社長が切り出してきた。


「部屋押さえたので泊っていきましょう」


「いえ、タクシーで帰ります」


「こういう時は甘えてください」


副社長はそう言い切るなり立ち上がり、滝川君を抱えて店を後に。


滝川君の鞄を抱え、副社長の後を追うことしかできずにいた。



別フロアにある部屋に入り、滝川君をベッドに寝かせた後、副社長に促され、部屋を後に。


副社長の後を追いかけ、部屋の一室に入ると、そこはまさかのロイヤルスイートルーム。


豪華すぎるくらい豪華な部屋を前に、立ちすくむことしかできなかったんだけど、副社長は微笑みながら切り出してきた。


「…いかがですか?」


「え? いかがって言われましても…」


「お気に召しませんか?」


「いえ… あの、やっぱり帰ります!」


「これカギです。 じゃあまた明日」


副社長は私に鍵を渡すと、さっさと部屋を後に。



…え? また明日って、ここに一人で泊れと?…



だだっ広く、豪華な部屋の中で一人、ポカーンとすることしかできなかった。

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