第34話 スイートルーム

だだっ広い部屋に取り残され、場違い感が否めずにいた。



…リビングだけでうちより広いって。 副社長、いつもここを一人で使ってるってこと?…



一旦ドアを開け、通路を歩く副社長の姿を探したんだけど、副社長はどこにもいない。



仕方なく、ソファに座ったんだけど、うちのソファよりもふかふかで、座り心地がいい。



…ロイヤルスイートルームに一人って、いろいろおかしい気がする…



ソファに座っていたんだけど、どうも落ち着くことができず、隣の部屋に行き、ベッドの広さを見て、またしても体が固まってしまう。



…ここに一人って、絶対に寝れないと思う…



大きくため息をついた後、ベッドサイドに鞄を置いたんだけど、場違い感が半端ない。



…せめて夏美が一緒だったら良かったのに…



再度大きくため息をつき、浴室を見に行ったんだけど、まさかのジャグジー付き。



あまりにも豪華すぎる内装に、ため息しか出ないままでいると、部屋のインターホンが鳴り響いた。



…副社長! やっぱり帰るって言おう!!…


そう決心し、慌てて部屋のドアを開けると、ドアの前に立っていたのは、まさかの修哉さん。


あまりにも驚いて固まってしまうと、修哉さんは眉間にしわを寄せ切り出してきた。


「…副社長は? 」


「わかんないです…」


修哉さんに事情を説明すると、修哉さんは小さくため息をついた後、「ちょっと待ってて」とだけ言い、電話をした後に隣の部屋へ向かう。



少しすると、再度インターホンが鳴り響き、修哉さんが部屋の中に入るなり切り出してきた。


「うちの副社長がごめんね」


「いえ… どうかされたんですか?」


「急ぎで仕事を頼まれて、データを届けろってメールが来たんだ。 まさか、あかりちゃんがいるとは思わなかったよ」


「ですよね… 全然落ち着かないから、帰らせてもらおうと思ってたんです」


「ま、いいんじゃない? タダでロイヤルスイートに泊まるなんて出来ないことだしさ。 あの副社長、海外出張の時にカジノに行って、ボロ儲けしたらしいからさ」


「そうなんですか?」


「ああ。 えげつない金額を勝ったらしいよ。 遠慮なく泊まっちゃえば?」


「なんか落ち着かなくて…」


「まだ仕事中だと思ってる?」


「いえ… 部屋が広すぎるし、一人だとちょっと…」


修哉さんはクスッと笑った後、冷蔵庫を開け、中からワインのミニボトルを取り出し、二つのグラスに注いでくれた。


「付き合うよ」


二人でソファに座り、話しながら飲み始めていたんだけど、修哉さんは来慣れているのか、どこに何があるかを完全に把握し、当たり前のようにルームサービスまでもを頼み始める。


「…この部屋、いらしたことあるんですか?」


「社長と副社長の付き添いで何度かね」


「…本当は彼女と来たんじゃないですか?」


「まさか。 会社員が気軽に泊まれるような場所じゃないよ」


「確かにそうですね… というか、この状況がばれたら、彼女に怒られるんじゃないですか?」


「彼女自体もう何年もいないから、その点は大丈夫だよ」



その後も話をしていると、修哉さんの声に心地よさを感じ、安心しきってしまったのか、ワインが効いてきたのか、どんどん瞼が重くなってくる。


必死に重くなる瞼と格闘していたんだけど、修哉さんの声とワインに追い打ちをかけられたせいか、睡魔に負けてしまい、気が付くと広いベッドの上。



軽い頭痛を感じながらゆっくりと起き上がると、なぜかバスローブを着込み、来ていたスーツはハンガーにかけられていた。



…あれ? いつ着替えたんだろ? ってか、修哉さんは?…



広すぎるくらい広いベッドの端を見てみても、誰かが寝ている気配すら感じられず。


リビングに行くと、修哉さんの姿はなく、テーブルの上に置かれたスマホにメッセージが届いていた。


≪副社長にばれるとうるさいから先に帰るね。 ちなみに昨夜は、自らシャワーを浴びて、ベッドで寝てたよ。 何もなかったから安心して≫


修哉さんのメッセージに胸の奥が締め付けられ、スマホを握りしめていた。

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