第35話 不機嫌
修哉さんに返信をした後、急いで準備をし、副社長の部屋に行くと、滝川君が頭を抱えて項垂れていた。
副社長は当然のように、車で会社まで送ってくれて、感謝の言葉しか出なかった。
週明け、電車の中で修哉さんと会い、胸を締め付けられたまま会社へ。
会社に行くと、紗耶香ちゃんは当たり前のように雑誌を広げ、夏美に見せていたんだけど、開かれたページには私が宿泊したホテルのスイートルームが掲載されていた。
「ここホンッと居心地がよくて、快適らしいんですよ!」
…先週泊まったなんて絶対言えない…
興奮した様子の紗耶香ちゃんを眺めながらそう思っていると、夏美が呆れたように口を開いた。
「そんなに快適じゃなかったよ?」
「え? 行ったことあるんですか?」
「うん。 先々週行った。 広すぎて落ち着かなかったわ」
平然と言い切る夏美に対し、紗耶香ちゃんは嫌悪感をむき出しにした目で睨みつける。
「夏美ちゃ~ん、そこのホテルは誰と行ったのかなぁ?」
空気を変えるつもりで冗談ぽく言ったんだけど、夏美は平然と答えていた。
「匠君。 『社長が予約してたんだけど、急用で行けなくなったから一緒に行かない?』って言われて行った。 前に話してたバーは雰囲気も良かったけど、ホテルの部屋は広すぎて、庶民には落ち着かなかったなぁ…」
「え? 二人で行ったの?」
「まさか。 匠君の友達カップルと4人で行ったよ。 前に一人で飲んでたら、偶然会って意気投合しちゃってさぁ~」
その後も夏美の話を聞きながら、仕事の準備をしていたんだけど、紗耶香ちゃんは話の途中で苛立ったように雑誌をデスクに叩きつけ、自分のデスクに戻っていた。
…あっちゃ~。 超絶ご機嫌斜めになっちゃった…
なるべく紗耶香ちゃんのほうを見ないようにしながら午前中の作業をしていたんだけど、紗耶香ちゃんは存在感をアピールするように、無駄に物音を立てて続け、軽くイラっとしていた。
物音から逃げ出すように総務部に行き、書類を提出しに行ったんだけど、総務部長は書類をめくる度に右手の人差し指をなめ、書類の端をつまんでは、書類をめくり続けていた。
普段から書類を捲るときは指をなめる癖のある人なんだけど、この時は軽く苛立っていたせいか、一つ一つの動作が嫌で嫌で仕方ない。
…それ止めてくれないかな…
そう思いながら総務部長の返答を待っていると、部長は「痛っ」っと言いながら、人差し指を眺め始めた。
「紙で切っちゃったよ… 絆創膏とってくれない?」
総務の由美子ちゃんが返事をした後、救急箱から絆創膏を出して手渡したんだけど、総務部長は紙の小包装を開けようとして失敗。
すると、カッターで小包装を切ろうとしていたんだけど、突然左手にカッターを持ち、右手の人差し指にカッターの刃が突き刺さる。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌ててティッシュを差し出すと、総務部長は痛みに顔を歪めるだけで、一切声は発しなかった。
由美子ちゃんが心配そうに部長に声をかけていると、部長は指を抑えながら切り出してきた。
「大丈夫だよ。 ちょっと切っただけだから…」
「なんで右利きなのに、左手でカッターを持ったんですか?」
「カッターに血が付くと不衛生だなって思ってさぁ… もう大丈夫だよ」
総務部長はそう言いながら、傷口に当てていたティッシュを外したんだけど…
右手の人差し指には、小さな×印の傷が作られていた。
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