第5話 買い忘れ

結局、チーズケーキはみんなで分けて食べたんだけど、どうしても納得がいかない。


1日限定500個しか作らないものを、500個全て買い上げ、余ってしまったからって、たまたま営業に行った滝川くんに渡すなんて、どう考えてもおかしい。


一度に500個もの受注した段階で、ミスかどうか疑われ、確認の連絡が行ってるはずなのに、それすら通して大金を払い、すべて買い上げた後にミスが発覚するなんて、どう考えてもおかしすぎる。



…本当に、この会社と取引続けて大丈夫なのかな? 急に『お金が払えません』なんて言わないよね? このチーズケーキ、めちゃめちゃ美味しいけど…



小さな不安を抱えながらチーズケーキを食べ、定時を迎えていた。


定時を少し過ぎたころ、部長と営業部に一番長くいる坂崎さんが部署に戻り、チーズケーキの件を報告しながら一つを手渡したんだけど、部長は「あの会社はたまにあるよ」としか言わず。


『たまにある』とは言われたものの、私が入社してから初めてのことだし、坂崎さんも不思議そうな顔をしている。



…今までは部長が独り占めしてたって事? それってずるくない?…



そう思いながら会社を後にし、スーパーに寄っていた。


スーパーで買い物をしているときに、『オムレツを作ろう』と決め、夕食の材料を買った後、自宅に帰り、夕食の準備をする。


オムレツを作った後、冷蔵庫の中を見ると、ケチャップが無くなっていた。



…あ、そうだ。 この前使い切ったんだっけ? 買い忘れちゃった…



仕方なく、ソースで代用し、少し食べていたんだけど、いまいちおいしくない。


…ケチャップほしいなぁ。 冷めちゃうけど、コンビニ行くか…


財布と鍵だけを手に持ち、玄関のドアを開けると、ドアノブにコンビニのビニール袋がぶら下がっていた。


恐る恐るそれを見ると、中には未開封のケチャップが入っている。


慌てて周囲を見回したり、マンションの下を覗き込んだんだけど、人影すらなく、恐怖心が膨らむばかり。



…この前のTシャツと言い、ホントなんなの?…



結局、買い物には行かず、ビニール袋をそのままに、玄関のドアを閉めてソースで代用していた。



我慢して夕食を食べた後、気持ち悪さを拭いきれず、悟に電話をしたんだけど、電話に出ない。



…まだ電車かな?…



そう思いながらラインにメッセージを送っていた。



≪相談したいことがあるから、電話頂戴≫



悟からの返信を待っていたんだけど、既読がつくだけで返信がない。



1時間近く待っても電話が鳴ることはなく、シャワーを浴びた後にスマホを見ても、返信や着信があった形跡すらない。



…飲み会? 山賀さんに誘われた? 相談したかったのに…



恐怖心を誤魔化すように洗濯物を脱衣所に干していると、襟元が少しだけ汚れている。



…週末、染み抜きしなきゃ…



洗濯物を干し終え、すぐにスマホをチェックしたんだけど、スマホが鳴ることはなく、翌日を迎えていた。



目が覚めてすぐにスマホをチェックしたんだけど、悟からの返信どころか着信もない。



…酔いつぶれて二日酔いかな? 実家暮らしは楽でいいなぁ。 戻る気はないけど…



朝の準備をしながらため息をつき、会社に向かっていた。

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