第6話 相談
定時を迎えた後、自宅に帰ると、またしてもドアノブに紙袋がかかっていた。
『気持ち悪い』と思いながらも、それを開けると、中には脱衣所に干していたはずのワイシャツが、クリーニング済みの状態で入っている。
鍵がかかっているはずの屋内にあったものが、外に出されていることに、気持ち悪さよりも恐怖心が増してしまい、夏美に電話をしながらその場を後にしていた。
パニックになりながらもコール音を聞き、駅に向かって急ぎ足で歩いていると、夏美がお気楽な感じで電話に出る。
「もっしも~~~し」
「夏美? ちょっとマジでやばいから!」
「は? 何言ってんの?」
「マジで! 本当にやばい怖いから!!」
「ちょっと落ち着きなって! 何がどうしたの?」
半泣きになりながらも事情を話すと、「今、松崎君と飲んでるから、そっち行ってあげる」と切り出し、駅前で二人を待っていた。
二人を待っている間、恐怖心に襲われてしまい、ずっと手が震えてしまう。
震える手を抑えようとしても、震えはどんどん大きくなるばかり。
大きく震える手をぐっと握りしめると、夏美の声が聞こえ、慌てて夏美に駆け寄った。
「大丈夫?」
夏美の言葉に黙って頷き、松崎君と3人でマンションに向かったんだけど、ドアノブには紙袋がかかってない。
「何もねぇじゃん」
松崎君は呆れた様子で言っていたんだけど、ドアの鍵を開けると、紙袋は玄関の中に置かれていた。
「え? これ?」
不安そうに聞いてくる夏美の言葉に、黙って何度も頷くことしかできない。
松崎君が紙袋の中を確認した後、息をひそめながら中に入ったんだけど、家の中は普段と変わりなかった。
「誰もいないよ」
松崎君の言葉を合図に、3人でリビングに座り、Tシャツやケチャップのことを話したんだけど、松崎君は「彼氏なんじゃね? 合鍵、持ってんだろ?」と呆れながら切り出す。
「悟だとしたら、ドアノブにかけて帰るなんてことしないよね? 片道2時間近くかかるし…」
「浮気相手が嫌がらせしたとか?」
「まさか… 悟が浮気をしてるわけないし、もし、仮にそうだとしたら捨てない? なんでわざわざクリーニングに出して返してくるの?」
「それは… なんなんだろうな? 他に合鍵持ってる奴は?」
「いないよ」
「どっかにスペアキー隠してるとかは?」
黙ったまま顔を横に振ると、夏美が思い出したように切り出した。
「通帳とか大丈夫?」
慌てて寝室に行き、クローゼットを開ける。
クローゼットの奥に置いてあった、忘年会の際にビンゴゲームで当たった小さな金庫を開けたんだけど、弄られている様子もなければ、開けられた形跡すらない。
…良かった…
少しだけホッと胸をなでおろし、リビングに行くと、スマホが鳴り、悟から着信が来ていた。
電話に出ると、悟はこれ以上にないくらいの不機嫌そうな声で「何?」とだけ。
事情を話すと、悟はめんどくさそうに言い放ってきた。
「くだらないことで電話するのやめてくんない?」
「でも、すごい怖いんだよ?」
「タダでクリーニング出せたんだろ? ラッキーくらいに思っておけばよくね? くだらないことで電話してくんなっつーの」
「だって…」
「とにかく! 今、忙しいから! くだらないことで電話してくんな」
一方的に電話を切られてしまい、ため息しか出てこない。
電話を切ると、夏美が慰めるような声で切り出してきた。
「しばらく、うちにおいでよ。 ね? いきなり引っ越しはできないけど、このままじゃ気持ち悪いし、中に入った人が合鍵を持ってるんだとしたら危ないから、週末、鍵変えな」
黙ったままうなずき、荷物をまとめていた。
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